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【バレー】プレミアリーグ女子決勝:優勝したNECと敗れた久光、何が違ったのか

大林素子スポーツキャスター、女優
10シーズンぶりの優勝に笑顔(NECの柳田選手と島村選手)

久光の3連覇を阻止

多くの人がおそらく「久光の3連覇」だろうと予想したと思う。新鍋(理沙)、長岡(望悠)、石井(優希)ら全日本メンバーが多くいて、世界クラブ選手権で勝つ(表彰台に立つ)ことを目標に掲げ、レギュラーラウンドはNECに7ポイント差をつけて1位、「ファイナル6」も1位通過と強さを見せ、素晴らしい戦いをしてきた“絶対女王”だったからだ。

ただ、今リーグで久光は4つ負けているが、そのうちの一つがNECだった。しかもストレート負け。女王はどう勝利をつかむのか、女王に死角はないのか? そんな思いも持ちながら、優勝決定戦のベンチ解説についた。

勝ち続けること、トップを守らなければならないのは本当に大変。「失うものはない、思い切ってやるだけ」という挑戦者の方が勢いを持っているのは当然だ。今年の優勝決定戦はその典型だったように思う。

全員が「自分のチーム」と思うように

NECは外国人エースのイエリズ・バシャが指をけがし、ファイナルステージに出場できなくなった。正直、攻撃面でイエリズにかなり助けてもらっていたので(レギュラーラウンド通算でイエリズは「アタック決定率」6位、総得点12位、1セットあたりのブロック決定本数7位)、大事な核を失ってしまって、“これはまずいぞ”と。「ファイナル6」から「ファイナル3」から、一人ひとりが「自分のチーム」と思うようになった。全員が“自分でやらなきゃ、自分が引っ張らなきゃ”って、そういう気持ちにまとまった。

NECというのはもともと「泥臭いバレーをしよう」を大テーマにやってきていて、大エースがいない中で、全員が自分の役割をきっちりやっていこうと練習していた。その成果が100%出た、報われた優勝決定戦だったと思う。

ファイナル進出をかけて上尾と戦い、3-0で勝った「ファイナル3」での戦いぶりが完璧で、私が見た中で一番だった。全員バレーをしていたNECとマーフィー・ケリーの攻撃を中心に組み立てていた上尾。象徴していたように思う。

それと同じような完璧な戦いが女王・久光を相手に優勝決定戦でもできた。まぐれじゃなく本当のチームになったんだなと。技術が伴わなければ、本物にはなれない。確固たる個々の力(サーブ力、レシーブ力、スパイクの打ち分け、状況判断やメンタル)、そして何よりもチームワークがなければできない。地力がついてきた。今季、試合をしながら強くなって本物のチームになってきたなと、ベンチ解説をしながらすごく感じていた。

山田監督が育てた若手が躍動

苦しくても泥臭いバレーで粘る、その原点に戻ってチームを作ってきた。山田晃豊監督が若手をコツコツと育て上げ、若いチームに切り替え、新たな歴史を作った。若い島村(春世)、大野(果奈)のミドルブロッカーが自分の役割を知って成長した。先輩の白垣(里紗)、近江(あかり、今季のMVP)も、自分たちが引っ張らなきゃという意識を持つようになって伸びた。

セッターも山口(かなめ)が加わったことで、新たなバレースタイルが生まれた。守りが必要なときにはキャプテンの秋山(美幸)、前衛では高さのある山口と、その起用のバランスも絶妙だった。セッターが安定し、変幻自在のトスワークをできたことも大きい。

優勝決定戦で活躍した19歳のオポジット柳田(光綺)。イエリズがけがをしたとき、「自分にはイエリズほどの攻撃もブロックの高さもないけど、自分ができることをやりたい」と話していたが、その通り「ファイナル3」で活躍、ファイナルはもっとプレッシャーがあったと思うが、非常に落ち着いてプレーをしていた。すごい。高校時代(文京学院大女高)から技術を持っていたが、とてもうまかったと思う。

古賀紗理那という大エースも

春高の星が「NECで初めての優勝」
春高の星が「NECで初めての優勝」

そして、なんといっても古賀(紗理那)の存在。3月28日の「ファイナル3」で話をしたときには「選手の名前を覚えることとサインがたいへん」と言っていた彼女が、1週間後、NECを優勝に導く活躍をするのだから驚きだ。将来、全日本を引っ張るべくエースとしての道を歩んでいる。春高バレーで優勝できなかった、その会場だった東京体育館で、初めての優勝をNECでもぎとった。入ったばかりなのに決勝でこれだけ活躍。やはり、“持っている”なあと。

スイングもきれいでジャンプ力もある、攻撃のセンスはもちろんだが、攻撃だけでなく守れるのが大きい。自分でサーブレシーブをして攻撃もできるし、レシーブも非常にいい。ブロックもセンスがある。まだまだ鍛えていかなければならないが、今のバレー、眞鍋ジャパンでは打つだけでなく、レシーブ力が必要だから、中でもサーブレシーブは最大限。それを思うと彼女は全日本でも活躍できる可能性を秘めている。もっとパワーをつけるためにも、まずは体を作ることがとても大事。きっちり体を作って、いろんな意味での、肉体的にもメンタル的にも骨太な選手になってほしい、たくましい選手になってほしい。

ああ見えて、古賀は負けず嫌い。熊本信愛(女学院)時代、キャプテンとして引っ張っていた紗理那はすごかった。今はまだおとなしくプレーだけ一生懸命やります、という感じでいるが、2年目3年目になれば、「しっかりがんばりましょう」と声をかけていると思う。

全員バレーの中に古賀という大エースができたNEC。近江らが「これからはNECの時代にしたい」と話していたが、NECの時代になるかどうかは紗理那の肩にかかっていると言っても過言ではないだろう。

久光にとっては「まさか」の試練

試合後、会見する久美さん(中田監督)
試合後、会見する久美さん(中田監督)

一方の負けた久光製薬。選手もスタッフもみんな、「まさか」「なんで」で終わってしまったと思う。NECの狙いはまずサイドの石井(優希)をつぶしにいこうだった。その作戦が徹底できていた。ただ、これまでの久光は石井が調子悪かったとしても他の選手で勝てていた。しかしファイナルでは、他の選手もミドルブロッカーも思うほど機能しなかった。

他のサイドは決まらない。なぜなら、石井を狙い、石井がダメになったらこうときっちり対策されていたからだ。ただ、確かに石井はサーブで狙われ、狙い通り崩れてしまった感があるが、それでもサーブレシーブ成功率は69.8%。チームとしても久光の方がNECよりもよかった(新鍋が91.7%、座安が80%で久光全体として77.6%、NECは69.4%)。そこまでレセプションが返っていたのだから、ミドルをもっと使ったり、何か打開策はあったはず。

エース長岡で勝負でよかったのでは

長岡選手には「真のリーダー」になってほしい
長岡選手には「真のリーダー」になってほしい

疑問に思ったのはトス配分。シンプルに最も決定力のあるエース長岡(望悠)で勝負でよかったように思う。序盤からもっと長岡長岡でいってよかったのではと。解説でもそう言った。NECの選手も「長岡をもっと使ってくると思っていたけど、こなかったんですよ」と話していた。長岡は実際すごかったし、最後あたりはほとんど決めていた(アタックで30得点し、決定率49.2%)が、それくらいではNECにとってそこまでの打撃にならなかった。

久美さん(中田監督)がタイムで「頭で考えてやるよりも実際に動いてやらなきゃ」と話しているのが聞こえてきたが、気持ちの整理と自分たちの動きがうまくいかなかったのかなと思う。

もしかしたらトップを守るために、何かしなければという思いが裏目に出てしまったのかもしれない。セッターの古藤の中で、長岡まで止められてしまうと苦しいと思い、あえて長岡を取っておいた瞬間もあったかもしれない。信じてきたことを最後でやれなかったのは残念。それが悔やまれる。

“誰かがやってくれるだろう”ではなく

ここまであたふたする久光を久々に見た。後手後手に回ってしまったとき、自分たちの弱みが出てしまった。かみあわなさや、“誰かがやってくれるだろう”という甘さ? みたいなもの。優勝決定戦だけかもしれないが、人に任せちゃったところがあったように見えた。そういうのが出てしまったら、勢いに乗ったチームを止めることはできない。

これまではそれでも、全日本選手で力があるから誰かが何とかしてくれていた。しかし、ある段階までいくとそうできなくなる、読まれたり対策され、通用しなくなるようになる、そういうことも初めて知ったのだと思う。

今季、ミドルブロッカーの岩坂(名奈)は成長したし、長岡も強いエースになったと思う。チームも伸びてはいるけれど、NECの方が伸び率が大きかったのかもしれない。私も現役時代にすごく感じたのだが、トップにいて受身の中で伸び率をどれだけあげられるか、難しいことだが、連覇していくにはそれがとても必要で。相手チームが伸びてきたら、それ以上に伸びなくてはと。

「声を出して引っ張る存在」が必要

ただ、長岡も話していたが、これは次にいくためのいい試練。

長岡自身もメンタル的にすごくたくましくなったと思うが、ファイナルでの彼女は表情がなかった。余裕のない顔をしていた。声もいつもより出ていなかった。異様なものに飲まれていたような。真剣に必死に私がやらなきゃという顔で悲壮感すら出ていた。笑顔がなかった。

苦しくなったときに声を出して引っ張る存在。プレーで見せて引っ張るのも一つのスタイルだが、久光に必要なのは、中田監督も途中で「声を出していこう」と言っていたが、そういう声で引っ張るような原点的なことができる選手だと思う。リベロだけでなくアタッカーにも。

「不思議」「計算ができない」「すごいことをする選手」と久美さんが言っていたように、今でも長岡は十分すごい選手。それでも世界のトップと戦うことを考えると、「真のリーダー」「世界のトップのサウスポー」になってほしいので、他より期待が大きくなってしまう。プレーで引っ張ることに加えて、例えば声を出すとか何か違う自分を表現してみたり……そういったことにまた一つ二つステップアップできるヒントがあるかもしれない。それは、新鍋も石井もミドルもみんな同じ。みんなまだ完成していない、まだまだ成長できる。

負けを大きな踏み板にして強くなって

久光が世界で勝つために、あるいは再びVリーグで勝つためには、そういう部分も必要だと思う。この「ありえない」「信じられない」という負けを大きな踏み板にしてほしい。負けてバレー人生終わりというのはオリンピックだけでいいのだから。さらに成長して、来季、もっと強い久光として戻ってきてくれるのを楽しみにしている。

スポーツキャスター、女優

バレーボール全日本女子代表としてソウル、バルセロナ、アトランタ五輪をはじめ、世界選手権、ワールドカップにも出場。国内では日立や東洋紡、海外では日本人初のプロ選手としてイタリアセリエAで活躍した。現役引退後は、キャスター・解説者としてバレーボール中心にスポーツを取材。日本スポーツマスターズ委員会シンボルメンバー、JOC環境アンバサダー、JVA(日本バレーボール協会)広報委員、JVAテクニカル委員、観光庁「スポーツ観光マイスター」、福島県・しゃくなげ大使としても活躍中。また、近年は演劇にも活動の場を広げ、蜷川幸雄作品や『MOTHER~特攻の母 鳥濱トメ物語~』などに出演している。

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