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「自分は壊れてる」そう感じている恋人にどう寄り添うのか パートナーが性被害にあった男性が語りあう会

小川たまかライター
※イメージ画像

「最初は言われた意味もわからなかった。なんでこんなことを言うのかな? 試されているのかなって? なんで自分に話したのか彼女に聞いたけれど、結局わからなかった」

7月の平日夜。都内繁華街にある喫茶店の個室で、30代に見えるスーツの男性がそう話し始めた。大きなテーブルを男性ばかり7人が囲んでいる。この会は、「パートナーが性被害にあった男性の会」(仮称)。性暴力被害者支援などを行うNPO法人しあわせなみだが今年から企画している集まりだ。

会の告知は法人のサイト上などで行っているが、場所は非公開とし、参加表明した人にだけ個別に場所を伝える。内容がナイーブなものであり、基本的に男性のみが参加する集まりであることから、私は冒頭数十分のみ取材を許可された。参加者のうち、田辺さんと伊藤さん、川上さん(全て仮名)の3人はしあわせなみだの運営スタッフだが、伊藤さんと川上さんは交際相手が性被害にあった経験がある。冒頭に紹介したのは川上さんの言葉だ。

■「自分は壊れてる。(パートナーは)そう感じていた」

2回目のこの日、今回から参加した人もいるため、簡単な自己紹介が川上さんから時計回りで始まった。川上さんの交際相手は学生時代に被害に遭った。犯人は別件で逮捕されたが、今でも同じ手口の性犯罪のニュースを見ると恐怖を感じ、何時間もネットで調べてしまうという。

被害を打ち明けられてからの葛藤と、会に参加した理由を川上さんはこう話した。

「それまで、性犯罪は縁遠い話と感じていた。『そんなことあるんだな』という程度。でも彼女に打ち明けられてからは急に気になって。加害者に強く嫌悪感を持ったし、自分自身、感情をコントロールできなくなりそうだと感じて、どうしたらいいんだろう、知らないとダメだなと思って調べてしあわせなみだのサイトにたどり着きました。サイトを見たら男性の写真もあったので、手伝えるのはここかな、と」

集まった男性たちの属性は学生や社会人などさまざま。また、パートナーが受けた被害も異なる。見知らぬ他人からの強姦被害や強制わいせつ、知り合いからの強姦、家族からの性虐待……。パートナーの現在の状態も違い、中には被害に遭った婚約者を亡くした男性もいた。ただ、パートナーをサポートしていきたいという気持ちや、どうやってサポートしていくのか、社会問題としての性犯罪にどう向き合っていくのかといったことについての悩みや思いの部分で強く一致している。それだけ、彼らが抱える問題が深刻だからだろう。

「自尊心が低い」

「自己否定感が強い」

「フラッシュバック(事件を追体験しているような感覚を持つこと)を起こす」

「(事件当時のことを忘れているなどの)記憶障害がある」

これは男性たちがパートナーの特徴として語ったことだ。ある男性は、パートナーについて、「自分がわからない。自分はからっぽ。自分は壊れてる。自分は壊された。(パートナーは)そう感じていた」と話した。

性犯罪は自尊心を奪われる犯罪であり、被害者は自責感にさいなまれることがある。また、相談した相手から「あなたも悪かったのでは?」と責められたり、「大したことではない」と被害を軽視されたりするような二次被害(セカンドレイプ)に遭うことも少なくない。被害を警察に届けていない人も多い。会ではこういった初歩的な情報共有や、パートナーと接するときの自分の苦しさも語られていく。

1回目に配られた「性被害者の身体的、心理的影響について」というテキストには、「被害者への対応のポイント」として下記のようなことがまとめられていた。

・被害者を責めない。「何をやっていたのか」「なぜ逃げなかったのか」は禁句!

・秘密は守られることを約束する

・受容的・共感的な態度で接し、味方であることが伝わるように話す

・自責感や罪悪感を助長しないことに注意する(二次被害防止)

・被害者が悪いわけではないことを説明する

・本人の相談動機を確認し、必要な支援を行う

・被害者を無力化せず、エンパワメントを心がける

※独立行政法人国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所成人精神保健研究部が制作した「一人じゃないよあなたのこれからのための支援ハンドブック」を参考にしたという

■「自分には何もできない」という無力感、改善したい

テキストには「家族も被害者と同様に、精神的な負担を受ける被害者のひとりであり、家族自身が専門家の支援を必要とする場合がある」という一文がある。

辛い経験を持った人と共に歩むのは、大変なことだ。被害経験について話を聞くこと自体、心理的な負担がある。事件や事故の心理カウンセリングを行うカウンセラーのためにカウンセラーをつける場合があるほどだ。また、身近なパートナーは話を聞き、寄り添い、サポートする必要がある一方で、それが依存関係につながり自立を妨げるものであってはいけない。難しいバランスが求められる。だからこそ、同じ境遇の人と会い、情報共有することは必要だ。

犯罪被害のカウンセリングなどを行ってきた田辺さんは、会を企画したきっかけについてこう話す。

「どんな治療や支援も効果がないときはないもので、無力さを痛感することも多くありました。そういった状況下で力を発揮してくれるのは、やはり被害に遭った方の家族やパートナー。しかし、そんな大きな力を持っているパートナーが『自分には何もできない』『何かしてあげられないか』という無力感を感じていることを知り、この状況を改善していかないといけないと考えるようになりました」

異性から無理やり性交された経験を持つ女性のうち、誰かに相談した人はわずか31.6%にとどまるという調査がある。67.5%の女性は、知人や家族はもちろん、警察や医療関係者にも相談していない。

相談しなかった理由(複数回答)は、

「恥ずかしくてだれにも言えなかったから」(38.0%)

「自分さえがまんすれば、なんとかこのままやっていけると思ったから」(30.4%)

「そのことについて思い出したくなかったから」(27.8%)

「自分にも悪いところがあると思ったから」(27.8%)

「相談してもむだだと思ったから」(20.3%)

など。(内閣府男女共同参画局「女性に対する暴力」に関する調査研究/平成26年度調査

自責の傾向を持つ被害者がパートナーに被害を話すこと自体、数少ない。だからこそ、打ち明けられたパートナーたちも誰にも相談できない人が多いと推測できる。田辺さんの言う通り、パートナー会の役割は重要だろう。

■「こういう活動をしている人たちがいるんだと安心した」

参加者の数人からは、いくつかの支援団体を訪ね、ようやく男性が相談できる先を見つけたという声が聞かれた。

運営に携わる伊藤さんは、元恋人の被害をきっかけに何かできることはないかと被害者支援団体を調べたが、他の団体からは「男性なので直接支援に関わるのは難しい」と言われたという。犯罪の性質上、男性が支援に関わっていることを知るだけで嫌悪感を覚える人もいる。役割の分担として、男性が関わることのできる団体と、そうではない団体があることは必要なのだろう。ただ、悩む男性パートナーたちのための受け入れ先が増えること、その情報が必要な人に届くことも重要だ。

しあわせなみだが掲げる目標は、「2047年までに性暴力被害をゼロにすること」。参加者の一人はこのキャッチコピーを読んで参加を決めたという。恋人が被害に遭ってから何かしたいと思ったが「男の自分がこういう支援活動に協力してもいいのか」と悩んだこともあった。しあわせなみだには男性も参加していることを知り、また、性暴力をなくすことを目標に掲げる団体であることを知って「こういう活動をしている人たちがいるんだと安心した」という。

「まだ2回目であり、小さい会ではありますが、手ごたえは感じています。改善すべき点も多いですが、少人数でも開き、何かしらの形にしていけるよう、長期的な展望を持ってこれからも取り組んでいこうと思っています」と田辺さん。会の名称を参加メンバーで考えるところからのスタートだ。

「まだ知識も(寄り添う)能力もゼロに等しいが、彼女と結婚したい。長い道のりになると思います」

そう話した男性の言葉が耳に残った。

ライター

ライター/主に性暴力の取材・執筆をしているフェミニストです/1980年東京都品川区生まれ/Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット大賞をいただきました⭐︎ 著書『たまたま生まれてフィメール』(平凡社)、『告発と呼ばれるものの周辺で』(亜紀書房)『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を』(タバブックス)、共著『災害と性暴力』(日本看護協会出版会)『わたしは黙らない 性暴力をなくす30の視点』(合同出版)など

トナカイさんへ伝える話

税込550円/月初月無料投稿頻度:月4回程度(不定期)

これまで、性犯罪の無罪判決、伊藤詩織さんの民事裁判、その他の性暴力事件、ジェンダー問題での炎上案件などを取材してきました。性暴力の被害者視点での問題提起や、最新の裁判傍聴情報など、無料公開では発信しづらい内容も更新していきます。

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