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もし自分の家族に「介護」が必要になったら~一億総活躍の実現を阻む「家族主義」~

大西連認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい 理事長
(ペイレスイメージズ/アフロ)

もし自分の家族に「介護」が必要になったら~一億総活躍の実現を阻む「家族主義」~

先日、こんな記事を偶然、目にしました。

「介護で疲れ、追いつめられた」認知症の夫を殺害、76歳妻に猶予判決 : yomiDr. / ヨミドクター(読売新聞)

76歳の妻が82歳で認知症の夫を介護に疲れ、精神的にも追い詰められて……。

メディアでの報道等のみでは、それまでの事情や細かい背景はわかりませんが、とても悲しいニュースですし、胸が痛いです。

これまでも「老々介護(高齢者が高齢者の介護をせざるをえないこと)」の問題や、「介護離職(親の介護などのために子が仕事を辞め、介護が不要になった際に子の履歴書のブランクや年齢の上昇により再就職に課題を抱えてしまうこと)」の問題はたびたび報じられてきました。超高齢社会の日本で、喫緊の問題です。

介護が必要な人はどのくらいいるのか?

介護について、平成27年版厚生労働白書を見ると、2000年は総費用が3兆6273億円だったのが、2015年(予算段階)では、10兆1110億円と、この15年間で急激に増加を続けていることがわかります。そして、介護サービスを利用するために介護認定を受けている人は、2014年の段階で要支援と認定された人が163万239人、要介護と認定された人は422万8828人と、こちらも過去最多を毎年更新しています。

多くは家族が介護を担っている

このように、2000年に介護保険制度が創設されてから、介護認定を受ける人、介護サービスの利用、そして、介護に関わる公的支出は年々増加しています。しかし、実際には、そもそもが、介護保険等のサービスが制度化されたにもかかわらず、まだまだ家族がその多くを担わざるを得ない状況というものが存在します。

2011年の総務省「社会生活基本調査」によると、15歳以上でふだん家族を介護している人(以下「介護者」という。)は682万9千人となっています。そのうち、女性は415万4千人、男性は267万5千人で、女性が男性に比べ147万9千人多くなっており、家族のなかで女性が介護を多く担っている実態がわかります。

年齢階級別にみると、女性は、50~59歳が127万9千人と最も多く、次いで60~69歳の104万3千人。男性は、60~69歳が77万8千人と最も多く、次いで50~59歳の70万9千人となっています。

介護者の構成比をみると、女性は、50~59歳で30.8%、60~69歳で25.1%、70歳以上で16.6%となっており、男性は、60~69歳で29.1%、50~59歳で26.5%、70歳以上で19.3%です。男女とも50歳以上の占める割合が高くなっています。これは、50代以降の子どもが、親の介護を担っているという実態を示していると言えるでしょうし、70歳以上の介護者は、自分のパートナーの介護をしていると考えることができます。

主な介護者が「同居している家族・親族」が61.6%であり、「事業者」は14.8%というデーターあり(厚労省2010年「国民生活基礎調査」)、介護サービス等を活用していても、主な介護者は同居している家族等の場合がかなり多いことがわかります。

また、同調査によれば、要介護者と介護者がお互い60歳以上である割合は69%、お互いに75歳以上である場合も29%と、待ったない状況が明らかになっています。

要介護度5の場合、同居家族の51.6%が「ほとんど終日」介護をしている

また、家族等の同居中の介護者の介護時間をみると、「必要なときに手をかす程度」が40.2%と最も多い一方で、「ほとんど終日」という人が22.8%にのぼっています。(2012年厚労省「国民生活基礎調査」)

また、介護度があがるほど、家族が介護に費やす時間は増加し、要介護5の場合、51.6%が「ほとんど終日」と回答しています。

厚労省2012年国民生活基礎調査より図43
厚労省2012年国民生活基礎調査より図43

これまで家族が担ってきた介護の問題を社会化するきっかけにもなった介護保険制度。しかし、実際には、いわゆる「介護離職」の問題と、「老老介護」の問題は、こういった統計からも明らかになっています。

家族が介護が必要な状況になったらどうしたらいいか

いつ、どのようなきっかけで、家族に介護が必要な状況が訪れるかはわかりません。

脳卒中や認知症、転倒や骨折によって、元気だった人が急に生活に支障が出てしまう状態になってしまうことは珍しくありません。

では、そんな時に、私たちは一体何をどうすればよいのでしょうか。

まず、お近くの地域包括支援センターに相談をしてください。各市区町村に必ず設置されている公的な窓口です。各自治体の状況にあわせた総合相談をおこなう窓口ですので、制度利用の流れやさまざまな制度(どういう制度があるのか、要件はなにかなど)を横断的に紹介したり、支援をおこなってくれます。

介護認定自体は、市区町村の介護保険の窓口(名称は自治体によって異なります)に相談する必要があります。介護認定には時間がかかる場合もありますが、自治体の担当者や地域包括支援センター等と相談しながら地域の活用できそうなサービスや事業所について情報提供を受けるといいかなと思います。

そして、ここからなのですが、もし、要介護者と同居している場合、もしくは、介護のために同居を考えている場合、少し落ち着いて、本当に同居をする必要があるのか、同居したいのか、を考えてもらいたいです。

もし、経済的にも自立していて、同居をしたくない、もしくは、する必要がない、と考えている場合は、無理に同居をする必要はないと思います。上記のように、介護度が重くなると、家族の介護の負担は増加します。

そして、家族が同居していると、当たり前ですが、公的機関も家族のあなたをキーパーソンとして介護の担い手として期待することでしょう。もし、あなたが仕事をしている場合も、家族の介護という身体的、心理的負荷と仕事とを抱え、「介護離職」につながってしまう恐れもあります。

もちろん、家族・親族の手前、同居せざるを得ない、地域や近所の目が気になる、などの事情がある場合もあると思いますが、その場合でも、できないことはできない、つらいときはつらい、と、先述した地域包括支援センターや自治体の窓口担当者、地域の事業者などに、相談することをおすすめします。

いざとなったら「生活保護」もあり

また、介護サービスを活用したり、通院したりするには、当然、費用がかかります。所得に応じて、また、状況によって負担は変わりますが、経済的に困窮してしまうような場合は、要介護者の生活保護制度の利用などを検討するのもありです。そして、例えばですが、自分の親が介護が必要で、その親一人なら所得や資産の状況により生活保護が利用できる、などと言う場合、もし、経済力のあるあなたが「同居」してしまうと、生活保護は利用できず、あなたが援助をし続けなければならない可能性もあります。

その時はそれが可能でも、介護は何年続くのか、いつまで続くのかわかりません。中長期的にみて、経済的に問題がないのか、共倒れにならないように先を見据えて考える必要があるのです。

もちろん、家族のことですから、介護サービスを活用し事業者に任せきりになったり、施設等に入所させてしまうことに抵抗を感じる人もいるかもしれません。

でも、だからこそ、元気なうちに、ご家族で介護の問題について話し合う機会を持ってもらいたいと思います。

政府はアベノミクス新3本の矢で「介護離職ゼロ」を掲げています。しかし、これまで見てきたように、まだまだ、家族が介護を担い、そして、その負担は決して小さくないことも事実です。政府の本気度が試されていると言えるでしょう。

認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい 理事長

1987年東京生まれ。認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい理事長。新宿での炊き出し・夜回りなどのホームレス支援活動から始まり、主に生活困窮された方への相談支援に携わっています。また、生活保護や社会保障削減などの問題について、現場からの声を発信したり、政策提言しています。主著に『すぐそばにある貧困」』(2015年ポプラ社)。

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