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仮面ライダーエグゼイドまで 一番稼いだライダーは誰か?

太田康広慶應義塾大学ビジネス・スクール教授
仮面ライダーではないが。(写真:アフロ)

仮面ライダーエグゼイド

仮面ライダーが交替する季節がやってきた。新しいライダーは、『仮面ライダーエグゼイド』である。そのビジュアルについては、ネット上で評価が分かれていた。

しかし、テレビ朝日の赤津一彦編成部長は「テレビ見てもらうとだんだん格好良く見えてくる」と説明している。仮面ライダーエグゼイドの画像を見ながら、その説明を聞いただけでは半信半疑だったが、第1回を見たところ、確かにエグゼイドのビジュアルが格好良く見え始めた気がする。戦闘シーンが完全にゲームなので、あの背景の中で動き回るには、ピンク主体のコミカルなデザインでないと馴染まないのかもしれない。

戦闘シーンがここまでゲームっぽく描かれるのは、ゲーム・ソフトとのタイ・アップが図られているからだろう。Nintendo 3DSの『オール仮面ライダー ライダーレボリューション』の特典では、『エグゼイド』の劇中ゲーム「マイティアクションX」がプレイできるらしい

ビジネスとしての仮面ライダー

仮面ライダー、スーパー戦隊ファンは、ここ数年、どのシリーズがよかったと考えるのだろうか。個人的には、仮面ライダーは、『ダブル』、次いで『フォーゼ』である。スーパー戦隊は、圧倒的に『シンケンジャー』だろう。『ダブル』は菅田将暉、『フォーゼ』は福士蒼汰、『シンケンジャー』は松坂桃李と後に人気俳優となる人が出演しているのは偶然ではないかもしれない。 

ただし、シリーズの好き嫌い、評価の高さとビジネスは別である。番組自体は、日曜朝という時間帯もあり、録画によるタイム・シフト視聴も多いだろう。つまり、視聴率はあんまりアテになる指標ではない。そこで、関連グッズの売上から、どの仮面ライダーが一番稼いだかをチェックすることにしたい。

このあたり、バンダイナムコホールディングスの決算資料をチェックすればわかる。有価証券報告書のセグメント情報はキャラクター別の売上数値までは出ていないが、決算短信の補足資料にキャラクター別の売上情報がある。まずは、次の表を見て欲しい。

キャラクター別売上構成
キャラクター別売上構成

700億円超売り上げているのは『機動戦士ガンダム』である。これは、ガンダムのプラモデル(ガンプラ)がある以上、なかなか他のキャラクターが追いつくことは難しい。『ドラゴンボール』『ワンピース』に続いて『スーパー戦隊』がランクインする。『スーパー戦隊』は、アメリカでの派生番組である"Power Rangers"関連グッズ売上を含んでいる。『妖怪ウォッチ』の急激な失速もあり、次に『仮面ライダー』が来る。しかし、200億円を切っているということで、一時の勢いはない。

稼いだライダー・ランキング

次に、どのライダーの関連グッズ売上が一番大きいのかを見てみよう。バンダイナムコホールディングスの決算短信補足資料で遡れるのは『龍騎』までである。オダギリジョー主演の『クウガ』、要潤が出演していた『アギト』は名作だが、データがないとなるとしょうがない。

歴代ライダーの関連グッズ売上
歴代ライダーの関連グッズ売上

『龍騎』は2002年2月放映開始、2003年1月終了だが、以後、仮面ライダーは1月で新作に切り替わる時代が続く。平成仮面ライダーの10作目『ディケイド』は、2009年1月放映開始、8月終了と半年間で終わり、それ以後、仮面ライダーは9月新番組スタートとなる。『鎧武』からは10月スタートに切り替わった。新番組切り替え時期を変更したのは、おそらく、スーパー戦隊シリーズとかぶるのを避けるためだろう。

響鬼』までは、四半期情報が手に入らないので、2カ月ズレているが、3月決算の売上高を使っている。カブト以後は、四半期売上高を足したり引いたりして、番組放映期間に一番近い売上高を計算した。それが左の表である。数字のままではわかりにくいので、グラフにして示す。(『電王』の途中から、グループ全体の売上になったので1割から2割程度売上が増えている。)

噂どおり、平成ライダーの失敗作は『響鬼』(65億円)である。しかし、その前後、『ブレイド』(79億円)、『カブト』(70億円)も関連グッズ売上は小さい。佐藤健が主演した『電王』は126億円と大健闘である。

仮面ライダーはもともと、敵(ショッカー)に改造された異形のヒーローという設定だったので、それに続く後継ライダーも、雰囲気がどうしてもシリアスになりがちで、全体のトーンが暗いものが多い。そういう中、『電王』は例外的に明るく、以後、平成第2期の明るいシリーズに繋がっていく。

関連グッズ売上のランキングは『フォーゼ』『ウィザード』『鎧武』『オーズ』である。明らかに『ディケイド』以後、平成第2期に入って売上が急上昇している。『ディケイド』は半年しか放映されなかったのにもかかわらず、『キバ』の年間売上高94億円を33%上まわって125億円もの関連グッズ売上を叩きだした。

歴代ライダーの関連グッズ売上
歴代ライダーの関連グッズ売上

あのライダーが稼いだ理由

『ディケイド』がこれほどの売上になったのは、それまでの平成ライダーの集大成ということだけでなく、変身ベルト(ドライバー)の性格が変わったことがあるだろう。『クウガ』『アギト』『龍騎』といった平成ライダーのカードのほか、代表的な昭和ライダーのカードも用意して、これをドライバーに入れると、カードに応じた音声が出るというのが新しい工夫だった。そして、このカードがアーケード・ゲーム「ガンバライド」(現「ガンバライジング」)と連動したのである。カードを集めたいという子供の収集欲を刺激して売上を増やしたと見る。以後、『ダブル』はメモリ、『オーズ』はオーメダル、『フォーゼ』はスイッチ、『ウィザード』はウィザードリング、『鎧武』はロックシードと、収集アイテムが用意されていた。

とくに、『オーズ』のオーメダルはあちこち品薄でなかなか見つからなかった。オーメダルに基盤が入っていてそちらに情報を持たせていたため、量産が難しく品薄になったという噂があった。(オーメダルを改造すると別の音声が出るというサイトもある。)

そこで、ドライバー(変身ベルト)の側に情報を持たせて、収集アイテムの構造を単純化し、量産が簡単になるように工夫したのだろうか。『フォーゼ』『ウィザード』『鎧武』で関連グッズ売上はピークとなる。

『ドライブ』以後の失速

しかし、『ドライブ』以後、関連グッズ売上に大ブレーキがかかる。ざっくり100億円も売上を落としているのである。『ドライブ』は子供向けコレクション・アイテムとしては鉄板のミニカー(シフトカー)を投入し、ライダーなのにクルマに乗るという禁じ手(?)を使いながらも失速した。

警察という狭い世界の中でストーリーが進む、話が子供には難しいなど、いろいろな理由が考えられている。ただ『ゴースト』になっても関連グッズ売上が回復していないところを見ると、『ドライブ』『ゴースト』の問題というより、外部要因なのではないかとも考えられる。

ここで、思い出されるのは、『妖怪ウォッチ』の大ブレイクである。妖怪ウォッチというギアと妖怪メダルというコレクション・アイテム。ここしばらく成功してきた仮面ライダーの関連グッズ売上と同じパターンである。さらにゲームや映画とも連動している。

『妖怪ウォッチ』は、2014年1月に放映が開始された。2014年3月期の関連グッズ売上は14億円にすぎないが、2015年3月期は、552億円と『機動戦士ガンダム』の767億円に次ぐ売上を達成している。この年の『仮面ライダー』は『鎧武』と『ドライブ』で262億円の売上であり、『妖怪ウォッチ』の半分に充たない。仮面ライダーの関連グッズ売上が急減速したのは『妖怪ウォッチ』にマーケットを持って行かれたという仮説が成り立つ。

もし、この仮説が正しければ『エグゼイド』には十分なチャンスがあると考えられる。「ケータ&ウィスパー編」が主軸だった『妖怪ウォッチ』は、セカンド・シーズンの「イナホ&USAピョン編」が出てきてから急速に人気を落としている。バンダイナムコホールディングスの『妖怪ウォッチ』の売上を見ても、2015年3月期の552億円から、2016年3月期の329億円へと落ち、2017年3月期は134億円が計画されているに留まる。 

もっとも、バンダイナムコホールディングスからしてみれば、キャラクター別売上構成の内部での入り繰りに過ぎないので『仮面ライダー』セクションが健闘すること自体には意味がない。子供の可処分時間や、親が買うオモチャ支出の総額が一定なら、ほかの娯楽との競争に勝たなければ全体のパイは増えない。

慶應義塾大学ビジネス・スクール教授

1968年生まれ、慶應義塾大学経済学部卒業、東京大学より修士(経済学)、ニューヨーク州立大学経営学博士。カナダ・ヨーク大学ジョゼフ・E・アトキンソン教養・専門研究学部管理研究学科アシスタント・プロフェッサーを経て、2011年より現職。行政刷新会議事業仕分け仕分け人、行政改革推進会議歳出改革ワーキンググループ構成員(行政事業レビュー外部評価者)等を歴任。2012年から2014年まで会計検査院特別研究官。2012年から2018年までヨーロッパ会計学会アジア地区代表。日本経済会計学会常任理事。

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