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WELQは大赤字? DeNAのセグメント情報から

太田康広慶應義塾大学ビジネス・スクール教授
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

DeNAの記者会見

ディー・エヌ・エー(DeNA)は、キュレーション・サイトWELQの件で記者会見を開いた。WELQは、医療情報のまとめサイト(キュレーション・サイト)で、無断借用や事実誤認の指摘を受けている。これを受けて、DeNAは、WELQも含めて、10個のまとめサイトを非公開にした。12月7日午後の記者会見では、経緯の説明のほか、第三者調査委員会設置についても説明された。

記者会見の模様の全文書き起こしはここにある。

まとめサイトの功罪

ウェブの記事には信用できないものが多い。昔、活字になると人はコロッと騙されるという話があったが、これと同じで人は見栄えのいいサイトの記事には騙されやすい。しかし、今は見栄えのいいサイトが誰でも簡単に作れるので、ウェブに載っている文章というだけで信じるわけにはいかない。

その一方で、コンピュータ関係の技術的な記事など、匿名のブログ・エントリーであっても有用なものも多数ある。いい記事と怪しい記事がごちゃ混ぜのウェブで、少しでもS/N比を上げようとするなら、何か信用できる目安が欲しい。

そこで、検索エンジンの検索結果を目安に使う人が多い。上のほうに表示されている記事はみんなが読んでいるのだから信用できるに違いないと信じるわけである。

WELQは、IT大手のDeNAが運営する医療情報のまとめサイトで、しかも検索上位にくる記事が多い。ただ、ほかのサイトの著作権を侵害していたり、間違った情報が載っていたりしたので炎上。とくに肩こりの原因が幽霊のこともあると書いていたのが強烈だった。

大手メディアの資金力を活かして、いい加減に作られたいい加減な記事を検索上位に表示されるようにしていたのではないかと批判されている。

まとめサイトは赤字?

WELQについてはいろいろな記事があるなかで、まとめサイトで働いているという人の匿名のブログ・エントリーが気になった。

「キュレーションメディア 崩壊してるが いろいろみんな間違ってるので指摘しておく」

記事のポイントは4つある。(1)「外部ライターの作成記事」と「スポンサーの作成記事」しか載っていない。(2)著作権侵害につながりかねない運営方針を経営上層部は知っている。(3)FacebookなどのSNSでシェアされて検索順位が払うように多額の広告費を使っている。(4)まとめサイト事業は赤字である。ここで、筆者が気になったのは(3)と(4)である。

どうして簡単に検索上位になるのか、それはFacebookなどのSNSに多額の広告費を払っているからだという議論はわかりやすい。なるほど、おカネを出して買えるのなら、検索上位にするのは簡単である。そして、たぶん、その広告費のために赤字になっているという。

DeNAのまとめサイト事業

そういわれてはチェックせずにはいられない。DeNAは、2015年3月期までは、ソーシャルメディア事業とEC事業の2つのセグメントだったので、キュレーションプラットフォーム事業についての売上や利益はわからない。そこで、2015年4月以降の四半期情報を追いかけてみた。

次のグラフを見て欲しい。(四半期累積売上高、利益から前四半期累積を引いて四半期ごとの数字に変換してある。)

新規事業・その他の売上と損失
新規事業・その他の売上と損失

DeNAのキュレーションプラットフォーム事業は、「新規事業・その他」のセグメントにある。2016年9月四半期では、「新規事業・その他」の一番最初に「キュレーションプラットフォーム事業」が書いてあるので、たぶん、一番、ウェイトが大きいのがWELQやiemoに代表されるキュレーションプラットフォーム事業だと考えていいのだろう。

赤字である。それも、売上を上まわる激しい赤字だった。先行投資も先行投資。売上を上まわる赤字というのは激しい。

2015年12月四半期に入ってようやく赤字幅が売上を下まわる。売上は、一貫して右肩上がりで推移し、2016年9月四半期で30億円に達している。と同時に損失が9億円程度までに納まった。今まで、10億円を超える四半期損失だったのが、多少、減りつつあるように見える。中長期では、黒字転換することを目指していたのだろう。

筆者の入力間違いを警戒して、DeNAの決算発表資料をチェックしてみても、単位が億円と粗っぽいことを考慮すれば、同じ結果のようである。

DeNAの決算報告資料から
DeNAの決算報告資料から

DeNAにかぎった話ではないけれど、ゲームのプラットフォーム事業は、スマホ主体になり、ゲームがApp Store, Google Playを通じた「OSジカ置き」になったことが大きな逆風である。連結売上高2000億円、連結親会社株主利益460億円を叩きだした2013年3月期を頂点にピーク・アウトし、2016年3月期では、連結売上高1400億円、連結親会社株主利益110億円まで落ち込んでいる。

事業セグメント別の内訳を見ると、2016年3月期で、ゲーム事業260億円の利益、EC事業26億円の利益に対し、スポーツ事業(野球)は10億円の赤字、新規事業は47億円の赤字である。主力のゲーム事業がシュリンクするなかで、何か手を打たないといけなかったのは事実だろう。キュレーションプラットフォーム事業の頓挫で、体制の立て直しが必要となるかもしれない。

慶應義塾大学ビジネス・スクール教授

1968年生まれ、慶應義塾大学経済学部卒業、東京大学より修士(経済学)、ニューヨーク州立大学経営学博士。カナダ・ヨーク大学ジョゼフ・E・アトキンソン教養・専門研究学部管理研究学科アシスタント・プロフェッサーを経て、2011年より現職。行政刷新会議事業仕分け仕分け人、行政改革推進会議歳出改革ワーキンググループ構成員(行政事業レビュー外部評価者)等を歴任。2012年から2014年まで会計検査院特別研究官。2012年から2018年までヨーロッパ会計学会アジア地区代表。日本経済会計学会常任理事。

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