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第1回の合同トライアウト 力を尽くしたタテジマ戦士たち

岡本育子フリーアナウンサー、フリーライター
草薙球場の大型ビジョン。年々、トライアウトがイベント化していく気がします…。

来季の戦力外という通告を受けて、他のチームでの現役続行を希望する選手や、独立リーグなどでプレーしているNPB経験者が参加して行われる『日本プロ野球 12球団合同トライアウト』。ことしの第1回は昨年と同じ静岡草薙球場で、きのう9日に行われました。昨年は午後に雨が降り出して途中から屋内でのシートバッティングとなったのですが、ことしは朝7時くらいから本降りの雨。ウォーミングアップも、シートノックも最初から屋内運動場でした。

スタンドにずらりと並ぶ12球団のスカウト、編成担当の方々。
スタンドにずらりと並ぶ12球団のスカウト、編成担当の方々。

ところが9時頃から雨は降らず、少しぬかるんでいたもののグラウンドに大きな問題なしとのことで、再び予定変更。本番のシートバッティングは球場で行われました。これはもう選手にとって、言葉にならないくらい嬉しかったはずです。特に野手は、室内で打って「安打性の当たり」だと言われても不完全燃焼でしょう。開始早々、中日の中田選手が早速ライトスタンドへ放り込みました。これで森田選手のホームランを見られる!と、時おり小雨が降る程度で最後までやれたお天気に感謝です。そして見事に打つんですからねえ。

プチ同窓会もありました

ことし第1回のトライアウトには投手34人、野手25人の計59人が参加。受験しない、あるいは直前にエントリーを取り消した選手は、もう進路が決まったということでしょうね。選手を獲得する側はNPB12球団の編成担当だけでなく、独立リーグ・BCリーグから群馬のラミレス氏、石川の佐野滋紀取締役、新加入する武蔵の星野おさむ監督が参加。また社会人のカナフレックス(もと阪神・藤井政選手が所属)も参戦されました。あ、そうそう!台湾球界からもです。兄弟でプレーしている林威助選手が、GMとともに通訳を兼ねて来訪。

台湾・兄弟の林威助選手。GMのお供で来日しました。相変わらずイケメンですねえ。
台湾・兄弟の林威助選手。GMのお供で来日しました。相変わらずイケメンですねえ。
左から的場氏、喜田氏、林選手の阪神OBトリオ。もちろん3人ともイケメンです。
左から的場氏、喜田氏、林選手の阪神OBトリオ。もちろん3人ともイケメンです。

野球チームだけじゃないんですよ。東静岡駅でなんとまあ懐かしい、もと阪神のおふたりに遭遇しました。退団後は社会人のトヨタ自動車で活躍した的場寛一さんと、阪神を含め4球団を経験した喜田剛さん。2人とも現在はスポーツメーカーの社員で、展開中の野球教室の指導者としての人材を求めて視察することになったそうです。もちろん2人ともトライアウト経験者。的場さんは「受けてよかった。あれでトヨタから声がかかったわけだし」と受験者の様子を見ながら話していました。

そして林選手を加えて3人で昔話に花が咲き、やがて「ポール間ダッシュが始まったのは…」とか「桜井がこうやって見逃し三振した時に監督が」とか。私も一緒に笑ってしまいました。周りでも久々の対面や、名刺交換でやり取りされている方は多かったんですが、ここはちょっと異質な盛り上がり。少々場違いな団体で反省しております。

3人とも持ち味を発揮

ではお待たせしました。西村投手、森田選手、野原選手のシートバッティングの結果を書いておきましょう。例年通り、カウント1-1からスタートして、四死球はそのまま出塁。投手は打者4人に投げ、野手は5~6打席ずつで、打順の回らない時は守備につきます。森田選手はファーストで、西村投手の最初のファーストライナーに腕を伸ばしてナイスキャッチ!同僚を助けました。

(※印は左打者、左投手)

◆西村 憲[無安打無四球]

井藤(中) ※ 2球目120キロ 一直

横山(元オ)  5球目133キロ 中飛

野原(元神)※ 初球138キロ 二ゴロ

中田(中) ※ 初球141キロ 左飛

西村投手は低めの真っすぐなど、気迫の投球でした。もう一度見られますように。
西村投手は低めの真っすぐなど、気迫の投球でした。もう一度見られますように。

◆森田一成[5打数3安打]

荻野(ロ)  初球132キロ 右前打

甲藤(オ)  初球137キロ 左飛

藤谷(ロ)  4球目130キロ 二ゴロ

井上(中)  初球145キロ 中本塁打

有馬(楽)※ 2球目127キロ 右前打

北方(De)  3球目138キロ 四球

左の有馬投手から放った右前打は野原選手との連打。これで3安打の森田選手です。
左の有馬投手から放った右前打は野原選手との連打。これで3安打の森田選手です。

◆野原祐也[3打数1安打]

藤井(De)※ 3球目 四球 

荻野(M)   初球139キロ 死球

西村(神)  初球138キロ 二ゴロ

岸(M) ※ 2球目123キロ 二ゴロ 

有馬(楽)※ 2球目138キロ 左前打

ヘッドスライディングの写真が撮れなくて残念。野原祐也選手の打席です。
ヘッドスライディングの写真が撮れなくて残念。野原祐也選手の打席です。

声援に「幸せ者」と西村

西村投手は投げ終わった後すぐ記者に囲まれての取材があったそうなんですが、野手ふたりを見ていた私は間に合わず。途方に暮れていたら、ちょうど通路で遭遇。話を聞かせてもらいました。ナイスピッチング!よかったですね、と言ったら「ですよね?よかったと思います」と笑顔の西村投手。「まだいけるぞというか、もっと球速も質も上がるって感じはありました。真っすぐの感覚も悪くなかったし、ゾーンで勝負できた。押し込めたと思う。僕らしいピッチングができましたね」

名前をコールされた時、スタンドから声援があったのは聞こえていた?「はい。聞こえていました。ありがたかった。ほんと…幸せ者です。力になりました」。いつものように淡々とした口調ながら、ここは少し力がこもっていたような気がします。マウンドでは、もう一度1軍の舞台て投げるのを見たいと思わせる投げっぷりで、引き揚げる際も大きな拍手でした。吉報が届くことを、ただ祈ります。

入念にストレッチをする西村投手(左)のそばへ行く森田選手。
入念にストレッチをする西村投手(左)のそばへ行く森田選手。

野原祐也「後悔はない」

BCリーグの富山サンダーバーズに復帰し、コーチを兼任しながら2年がたった野原選手。昨年はリーグ盗塁王に輝いてトライアウトも受ける予定でしたが、直前に右足を痛めてしまい「肉離れまではいっていなかったんですが、100%のパフォーマンスができる状態ではなかったので」と受験を断念。今季もう1年プレーしての再チャレンジです。「結果よりも自分らしく。2年間やってきたきたことを、そのまま出そう思った。結果の良し悪しは関係ないです。とにかく必死でプレーすることができたので」

シート前のティー打撃。しっかりスリムになって髪も伸びた野原祐也選手。
シート前のティー打撃。しっかりスリムになって髪も伸びた野原祐也選手。

祐也くんらしいヘッドスライディング、2年ぶりに見られました。お客様も忘れていなかったから、歓声が上がったんですよね。「何としても、と思わず出たプレーです」と笑いました。前回のトライアウトでもやったけど、勢いもスピードも変わっていません。

変わらないといえばユニホームです。独立リーグのものを着用して臨む選手もいますが、野原選手は“94番”のタテジマ。その意気込みは相当なものです。「絶対に戻るんだと、NPBに復帰するつもりでやってきて、野球をやらせてもらっている。その気持ちで打席に立ちました。準備は100%していた。その結果が今日の内容。後悔はありません。ここまで支えてもらったので、いい報告ができればとは思いますが、あとは待つだけ」。2度目のトライアウトについては家族と相談して決めるそうです。

「声がかからなくても」森田

打ったねえ!と言ったら「打ちましたね」とニッコリ。どこか達成感というか、ホッとした顔に見えました。それにしてもファーストストライクから積極的に振っていたのが印象的です。「カウント1-1なんで、凡退したとこは甘めの初球を見逃した(3打席目、140キロの真っすぐ)から、何が来ても初球を振るつもりでいきました」。それで、次の打席は初球を打って、センターバックスクリーンに飛び込むホームラン。本人は「ちょっと、こすり気味だったかな」と言っています。

この時、ちょうど通りかかったラミレス氏に「ナイスバッティング!」と声をかけられ、ハニカミながら「ありがとうございます」と答えていました。森田選手、この前の鳴尾浜でトレーナーさん方と英語で会話していたのに「サンキュー」くらい言わないと。

話を戻して、ホームランを含む3安打には「結果がついてきてよかったとは思うけど、とにかく楽しもうと考えていたので」と淡々。アピールできたのでは?と聞かれて「アピールとか、そういうのは…。ほんとにもうわがままですけど、自分はプロ最後ってくらいの気持ちでした。僕は“どうしても”という思いはなくて。みんなに、最後やから行ってこい!と後押しされて来たような。ここで声がかからなくても、それはそれでよかったと思います」と答えました。

ホームランの後、いつものように黙々と一周してきた森田選手。これが彼の信条です。
ホームランの後、いつものように黙々と一周してきた森田選手。これが彼の信条です。

そんな思いで来たけど、どこかでカチッとスイッチが入ったんじゃない?と聞いたら「いや、きょうはリラックスして打席に入れたので」とのこと。でもホームランでしめられた。「はい、よかったです」。今後は?「1軍で少ないチャンスを生かせなかったから、こういう結果になったと思います。プロから声がかかればうれしいけど、かからなくても。それ次第で、いろんな人に相談して決めたい」

最後に、森田選手にホームランを浴びてしまった中日の井上投手のコメントです。「そろそろ森田が打ってくるだろうなと思っていました。もう1打席あとに打ってくれたらよかったのに。ストレートが真ん中にすうっと入ったとこをやられた。森田なあー(笑)。でも楽しかったです」

きょう10日の午後、高知県安芸市の秋季キャンプに来ましたが、若い選手たちから「森田さん、打ったんでしょう?」「西村さん、よかったですか?」と質問されました。違うユニホームになったとて、できることなら同じ場所でまた会いたいと願っているはず。応援してくださったファンの皆様も同じでしょう。草薙の空から雨雲を取り去ったくらいの思い、どうか届きますように!

フリーアナウンサー、フリーライター

兵庫県加古川市出身。MBSラジオのプロ野球ナイター中継や『太田幸司のスポーツナウ』など、スポーツ番組にレギュラー出演したことが縁で阪神タイガースと関わって約40年。GAORAのウエスタンリーグ中継では実況にも挑戦。それからタイガースのファームを取材するようになり、はや30年が経ちました。2005年からスポニチのウェブサイトで連載していた『岡本育子の小虎日記』を新装開店。「ファームの母」と言われて数十年、母ではもう厚かましい年齢になってしまいましたが…1軍で活躍する選手の“小虎時代”や、これから1軍を目指す若虎、さらには退団後の元小虎たちの近況などもお伝えします。まだまだ母のつもりで!

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