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―タテジマへの感謝も込めて― 12球団合同トライアウト・後編《阪神ファーム》

岡本育子フリーアナウンサー、フリーライター
10日のトライアウトで、最終打席を待つ田上選手。このあと待望の初安打が出ました!

10日、静岡県草薙球場での『プロ野球12球団合同トライアウト』は、47人(投手33人、野手14人)が参加して行われました。これまで2回開催されてきた合同トライアウトを、ことしから1回きりに変更。これは2回目の受験者が極端に減ることもあっての決断だったようです。また「果たしてトライアウトの結果で獲得する球団があるのか?」という疑問をよく耳にしますが「ない」とも言い切れません。

スタンドで見つめるNPB、独立リーグ、社会人など各球団関係者の方々。
スタンドで見つめるNPB、独立リーグ、社会人など各球団関係者の方々。
オリックスの山本和作選手(左)と原大輝選手。
オリックスの山本和作選手(左)と原大輝選手。
ソフトバンクの白根尚貴選手。あとホームランでサイクル安打でした。
ソフトバンクの白根尚貴選手。あとホームランでサイクル安打でした。
広島の中村憲選手(左)と、もと広島でBCリーグ石川の三家和真選手。
広島の中村憲選手(左)と、もと広島でBCリーグ石川の三家和真選手。

何チームか編成担当の方に聞いてみました。ウエスタンやイースタンの公式戦はもちろん、春季教育リーグやフェニックス・リーグ、アマチュアや独立リーグとの交流試合に至るまで、担当者は何試合も見て詳しく分析を続けています。なのでトライアウトまでに調査が済んでいるのは確かですね。当日はその選手が故障を抱えていないかなど動きでチェックするだけでなく、トライアウトで新たに目を引いた選手と契約した例もあったとのことでした。

当然ながら「どうせ前もって決まっているんだし」と、手を抜く選手なんているはずもありません。この一日だけの結果で声がかかると思っていなくても、みんな全力で臨みます。自分が着ているユニホームに、誇りと感謝を持って。

前編でも書いたように、阪神からは加藤康介投手(37)、玉置隆投手(29)、藤原正典投手(27)、田上健一選手(27)の4人と、ルートインBCリーグ・石川ミリオンスターズ所属の西村憲投手(28)がエントリーしました。きょうは田上選手と西村投手、そして阪神から楽天に移籍した楽天・上園啓史投手(31)の話をご紹介します。加藤投手、玉置投手、藤原投手については、こちらからご覧ください。<―タテジマに悔いを残さず― 12球団合同トライアウト・前編>

もっと投げたかったと笑顔の西村投手

まず、昨年に続いて2度目の合同トライアウト挑戦となった''西村憲投手'''(28)です。シートバッティングは12組目で登板。【日本ハム・鵜久森淳志】0-1の2球目で一飛、【元日本ハム、BCリーグ信濃・大平成一】2-2からの6球目で空振り三振、【日本ハム・佐藤賢治】1-2からの6球目で空振り三振。計14球を投げています。

始まる前に説明を聞いているところ。表情はまだ硬いですね。
始まる前に説明を聞いているところ。表情はまだ硬いですね。

終わったあと、自身の出来を聞かれ「僕の持っているストレート、僕なりのストレートは投げられたと思います。スピードガンには出ないけど」と話しました。「ストレート、スライダー、チェンジアップ、それとツーシームを1球くらい。チェンジアップはまだまだですが。ストレートはことし平均して140キロくらいですかね。もともとスピードピッチャーとは思っていないし、キレとコントロールで勝負するタイプなので」

ことしはルートインBCリーグの石川ミリオンスターズでプレーし、防御率0.00という成績。「毎回毎回、ゼロで抑えなくてはいけないというプレッシャーを自分に課して、1年間投げ続けられたことが一番かなと思います。厳しい環境の中、自分のために向上心を持ってやっていって、新しい引き出しができました。体も成長し、年も取っていくので、古い引き出しを捨てて新しいものを取り入れていきたい」

西村投手は2度目のトライアウト。ことしはBCリーグ・石川のユニホームです。
西村投手は2度目のトライアウト。ことしはBCリーグ・石川のユニホームです。
ネクストでバットを振る鵜久森選手。きょうヤクルト入団が決まりました。
ネクストでバットを振る鵜久森選手。きょうヤクルト入団が決まりました。
視察に訪れた石川の佐野滋紀取締役(右)と握手を交わす西村投手。
視察に訪れた石川の佐野滋紀取締役(右)と握手を交わす西村投手。

タイガース時代に手術した右ヒジについて「軟骨の除去だけでなく疲労骨折もあって時間がかかったんですが、ことしは全然問題ありませんでした。春先から体も元気だった。それが一番かも。登板は26試合と少ないですけど、投げていない日もブルペンでピッチングはしたので」と、常にスタンバイ状態でも大丈夫だったと答えています。スピードは?「まだまだ出る。もうちょっといけるなという感覚です。指の感覚もよかったし、バッターもいい反応してくれた。もっと投げたかったな~」と言って明るく笑いました。

タイガースに対して「悔いというか、申し訳なかったとの思いと、まだやれるという2つの気持ちを持って投げました 」と言います。そして「チャンスをまたいただけた石川の方々に感謝しています。裏方さんの仕事も自分たちでこなし、荒れたグラウンドもあり、移動はバスという毎日でしたが、野球をできることが嬉しかった。ことし1年、幸せだった」と噛みしめるように話した西村投手。

最後に、もし復帰がかなわなかったら来年もBCリーグで?と問われ「体は元気なので動かなくなるまで野球をやりたい」と、短く返事をしています。

「タイガースに感謝」上園投手

続いて、楽天の上園啓史投手(31)。登板は2組目で、11時前には余裕で投げ終わっていました。でも一緒に参加した楽天の藤江均投手や、阪神の投手陣を見ていたようです。投球内容は【オリックス・山本和作】カウント2-2からの6球目を打たせて遊ゴロエラー(ショートのボランティアさんが捕れず打球はセンターまで)、【元巨人、BCリーグ新潟・渡邊貴洋】2-2からの6球目、三ゴロ、【元広島・三家】1-0からの2球目で一ゴロ(上園、一塁ベールカバ―)、以上14球です。

左から藤江投手(楽天)、もと阪神の西村投手、上園投手、正田投手。
左から藤江投手(楽天)、もと阪神の西村投手、上園投手、正田投手。
先頭は味方エラーで出しましたが、上園投手も無安打無四球です。
先頭は味方エラーで出しましたが、上園投手も無安打無四球です。

阪神の田面投手を見ると必ず思い出す上園投手でしたが、久しぶりに近くで見たら全然違いますね。でも何となく連想してしまうんですよ。2006年のドラフトで阪神に入団し、1年目の2007年はセ・リーグの新人王に選ばれました。その後、松崎伸吾投手との交換トレードで2012年から楽天でプレー。ことし戦力外となり、今回のトライアウトに参加しています。

出来はどうだったかと聞いてみると「思いきり腕を振って、自分らしさを出していこうと思いました。腕が振れたってのはよかったですね」とすっきりした表情。もと新人王っていう呼ばれ方にも「ありがたいですよ。あの時があったから9年もできましたし」と笑顔を見せました。

「自分らしさは出せた」と笑顔の上園投手。
「自分らしさは出せた」と笑顔の上園投手。
ちょっとオマケで、懐かしい正田樹投手も。
ちょっとオマケで、懐かしい正田樹投手も。

今後については「独立リーグで、という年でもないですからねえ。終わった感じをみて決めたい。もうちょっと考えて答えが出れば」と話しています。まだ見てみたいですねえ。甲子園で投げている上園投手も。「そうですね~。甲子園で投げたい」とニッコリ。

そのあと去りかけた上園投手が、わざわざ戻って伝えにきたのは「阪神タイガースに感謝しています!ほんとに。ちゃんとそう書いておいてくださいねっ」でした。はい!ファンの皆さんや私にとっても嬉しい言葉です。しっかり書かせていただきましたよ。またどこかで投げる姿が見られますように。

田上選手は最後の最後でヒット!

田上健一選手(28)は7打席に立ち、7打数1安打。【元DeNA・菊地和正】空振り三振、【阪神・加藤】二ゴロ、【オリックス・榊原諒】二ゴロ、【西武・田中靖洋】遊ゴロ、【日本ハム・河野秀数】空振り三振、【阪神・藤原】空振り三振、【DeNA・今井金太】カウント1-1からの3球目を中前打という内容です。なんせ投手陣は登板後すぐに囲み取材があり、終わるともう帰っていくもので…田上選手の打席をすべて見ることは無理でした。結果だけですみません。

当日のスケジュールは9時~10時が『受付終了後、各自でウォーミングアップ』となっており、参加選手にも「9時から受付」と伝えられています。しかし加藤投手が8時過ぎに到着したように、1時間前くらいから続々と現れるのが常ですね。西村投手も加藤投手のすぐ後に来て、8時半くらいには玉置投手と藤原投手がやってきました。

段取り説明を聞く田上選手。後ろは、この日4安打した元ヤクルトの佐藤貴規選手。
段取り説明を聞く田上選手。後ろは、この日4安打した元ヤクルトの佐藤貴規選手。

シート打撃の順番を見ると、どうやら田上選手が開始早々の “先頭バッター” のようですが、その田上選手はなかなか来ません。受付付近でウロウロしても見当たらず、これはもう既に入ってロッカールームにいるんだなと思い、行ってみたけどいない様子。で、引き返した時に通路の向こうから歩いて来るのを発見!時刻はちょうど9時です。

「田上くん、いきなり先頭バッターですよ」「えっ!」という会話をしました。まったく知らなかったそうです。いや、受付をしたら用紙をもらうでしょうに。それより結構ゆっくり来たんですね。「そうなんですか?だって9時から受付と言われたんで、時間通りに来ましたよ」。確かにぴったり定刻です。でもほとんどの人がもう着いてる…。「ええ~!だって早すぎると(会場が)開いていないのかなと思って」。とっても和みました。いつも通りの田上選手でよかった。

野手陣は一塁側ベンチで待機。その間に日本ハム・佐藤賢治選手と何やら会話中。
野手陣は一塁側ベンチで待機。その間に日本ハム・佐藤賢治選手と何やら会話中。

そんなわけで、リラックスして臨めただろうと思いきや「緊張しましたねえ。後半にだいぶ慣れてきたけど。なんか雰囲気が…。最初は浮足立ってるというか、いつもと全然違う感じがしてた。打たなきゃいけないという空気ですかね」と、かなり戸惑ったようです。最後にようやくヒットが出ました!「よかったです。でもやっぱり最初の方が」。やり直したい?「はい。まあしょうがないですからね」

「あそこは走りたかった!」

7打席目、センター前に打って一塁へ行った時、打者はあと1人いたので「よーし、走って!」と思ったら、ベンチに帰ってしまいましたね。あれはなぜ?「いや、わかんないです。僕も走る気満々だったんですけど、どいてって言われて」。あらまあ、どういうことですか!係の方は田上選手の俊足を知らなかったのでしょうか。逆に、もう見なくてもわかるから?もしくは…といくら考えてもわかりませんが、とにかく残念。田上選手も「あそこは走りたかった~」と繰り返します。

シートバッティング開始。田上選手の最初の打席は10時40分。
シートバッティング開始。田上選手の最初の打席は10時40分。
その第1打席から約4時間後、第7打席でヒットが出ました!
その第1打席から約4時間後、第7打席でヒットが出ました!
いい走りっぷりですねえ。しかし一塁に到達するとベンチへ。…走ってほしかった!
いい走りっぷりですねえ。しかし一塁に到達するとベンチへ。…走ってほしかった!

加藤投手や藤原投手というチームメイトの、しかも左ピッチャーと対戦。やりにくかったかと尋ねると「それは仕方ないですからね」とのこと。試合では滅多にない7打席で(まあトライアウトでもなかなかありませんが)、全投手の19番目までが終わったあとは、ラスト33番目のDeNA・今井投手の時まで回ってきません。その間は守備についていたものの「あまりにも守備の時間が長くて、さすがにお腹も空いたから、途中で抜けて食事した」そうです。いい判断でしたね。

ところで、トライアウトまでまだ何日かあったのに鳴尾浜で姿を見なくなって、ファンの皆さんも心配されていたと告げると「秋季キャンプでグラウンドを使えなくなって、練習場所がなかったので」と田上選手。それに黒瀬選手が西武に戻ってスコアラーになることを決めた今月初めからは、一緒に練習する相手もなくなったこともあったのでしょう。「だから大学(母校の創価大)で練習していました。現役選手と一緒に紅白戦もやらせて貰ったし、そういう面ではよかったです」

ちなみに紅白戦の結果は?「4打数1安打。でも大学のピッチャーだから、NPBとは球が違いますね。それこそ田中の球を打ちたかったけど」。プロ注目の田中正義投手は登板しなかったらしく、残念そうでした。ちょうど関東地区大学選手権の頃ですもんね。とはいえ、実戦形式の練習ができたことは大きかったはず。横浜の実家にも寄ったと、この日スタンドからご覧になったご両親がおっしゃっていました。※大学での練習については事前に届け出て、許可をもらってのことです。

このたびのトライアウトについて「自分の中ではまだ悔しい部分がある。まだまだやるつもりでここに来ているので、どういう結果になるかわからないけど野球は続けていきたいです」という田上選手。「今はNPB以外でやることを考えていないですね。社会人とかの話もまだ来ていませんので。とにかく今はまだわからない」というのが、緊張の一日を終えての本音。

そして「最後、走りたかった。やっと塁に出たと思ったんですよ、それまで出られなかったんで。どいて、って…ねえ。あーほんと走りたかった!そこに悔いが残る」と、また悔しさがこみあげてきたみたいです。

終了後の田上選手。アップにするつもりが、やっぱり胸の番号を入れたくて…。
終了後の田上選手。アップにするつもりが、やっぱり胸の番号を入れたくて…。

思い出の試合がもっと増えるように

トライアウトとは関係ないのですが、もうひとつ聞いてみました。戦力外を告げられたあと10月20日に「甲子園の大観衆の中でやれたことが思い出。タイガースファンの方々に感謝しています」と話していた田上選手。一番印象に残っている試合は?「自分が出るとこは緊迫した場面ばかりだったので選びにくいんですけど…一番は桧山さんが打って、それでホームに還ってきたやつですかね。東京ドームの延長戦かな。それが桧山さんのシーズン初安打で」

はいはい、わかります。2013年5月8日の巨人戦ですね。東京ドームで6年ぶりに3連戦3連勝したという試合。2対2で迎えた延長12回、2死から田上選手が四球を選んで、代打の桧山選手が右翼線へ二塁打!田上選手は一塁から生還して、これが決勝点となり3対2で勝っています。9回に失点して追いつかれてしまった久保康友投手が、ベンチ前へ戻ってきた田上選手を笑顔でバンバン叩いている写真がありました。

そんな田上選手の脚を、来シーズンも見られると信じています。この日、関西はもちろん北海道から応援に来られた方があったとか。締めに田上選手の母・安子さんから頂戴したメールの言葉を紹介させてください。

『三塁ネット際に田上タオルを掛けて応援して下さったファンの方、田上頑張れ!と大きな声援を送って下さった方、早朝より駆けつけて下さった方、大雨の中で息子を待って下さり「どこに行っても応援しています」と言って下さった方など、改めて多くの素敵なファンに恵まれた息子は幸せだなと思いました。支えて下さったすべてのファンの皆様に感謝の思いで一杯です。新天地で活躍して、恩返ししてもらいたいと願っています』

※田上選手の前の記事はこちらです。<― 戦力外通告 第2弾 ― 迷わず走り続けることを誓う田上健一選手>

フリーアナウンサー、フリーライター

兵庫県加古川市出身。MBSラジオのプロ野球ナイター中継や『太田幸司のスポーツナウ』など、スポーツ番組にレギュラー出演したことが縁で阪神タイガースと関わって約40年。GAORAのウエスタンリーグ中継では実況にも挑戦。それからタイガースのファームを取材するようになり、はや30年が経ちました。2005年からスポニチのウェブサイトで連載していた『岡本育子の小虎日記』を新装開店。「ファームの母」と言われて数十年、母ではもう厚かましい年齢になってしまいましたが…1軍で活躍する選手の“小虎時代”や、これから1軍を目指す若虎、さらには退団後の元小虎たちの近況などもお伝えします。まだまだ母のつもりで!

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