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社会人の夢・東京ドームへ!もと阪神の選手たちが戦った都市対抗予選 <その1>

岡本育子フリーアナウンサー、フリーライター
都市対抗出場を決めた玉置投手(右)と阪口選手。さすが先輩、後輩。同じポーズです!

『第87回 都市対抗野球大会』は毎年4月から第1次予選が始まり、そこを勝ち抜いたチームが今度は第2次予選へと進出。おおざっぱに言うと1次が県単位で、2次が近畿とか東海とかの地区単位という感じですね。その2次予選を突破すると本大会出場!社会人野球のチームが一番に目指す場所、東京ドームへ行くことになります。ことしは、きょう11日に中国地区の第2代表が決まり、残すは北海道地区の1チーム。早ければ12日にも出揃います。

5月から行われた2次予選で、もと阪神タイガースの選手たちも各地で奮闘しました。近畿では若竹竜士投手(28)の三菱重工神戸・高砂、阪口哲也選手(23)のパナソニック、穴田真規選手(23)の和歌山箕島球友会が2次へ進んでいますが、藤井宏政選手(26)のカナフレックスは残念ながら京滋奈1次で敗退…。また野原将志選手(28)の三菱重工長崎は順当に九州地区2次予選に出場しています。

そして、ことしから玉置隆投手(29)が入った新日鐵住金鹿島は北関東地区2次予選に、藤田太陽投手(36)が加入したクラブチーム・ロキテクノベースボールクラブも北信越地区2次予選に出場。その中で、本大会出場を決めたのは三菱重工神戸・高砂、パナソニック、新日鐵住金鹿島の3チーム。昨年、6年ぶりに本大会に出た三菱重工長崎は、あと1勝のところまで行きながら届かず、涙を飲みました。

きょうはまず<その1>として、本大会出場を決めたパナソニック、三菱重工神戸・高砂、新日鉄住金鹿島の戦いぶりをご紹介します。市立和歌山高校の先輩と後輩でもある、玉置投手と阪口選手の話も聞きましたので、合わせてご覧ください。

社会人1年目で本大会、玉置投手

自身の幟(のぼり)の前で胸を張る?玉置投手。撮影はすべてお兄さんです。
自身の幟(のぼり)の前で胸を張る?玉置投手。撮影はすべてお兄さんです。

玉置隆投手は昨年10月、11年間在籍した阪神タイガースを戦力外となり、ことしから新日鉄住金鹿島に入りました。昨年タイガースに入団した横山投手、石崎投手の古巣です。合同トライアウトのあと声をかけてもらい、家族そろって茨城に引っ越した玉置投手。ことしの公式戦で連投を含め、既に多数登板しています。

新日鐵住金鹿島【北関東】

6/2 1回戦 ○22-1 アゼリア館林公式野球クラブ

6/3 決勝リーグ戦 ●2-3 日立製作所

6/4   〃    ○2-0 富士重工業

6/5   〃    ○4-2 全足利クラブ

※3年ぶり16回目の本大会出場

玉置投手が完封した試合のスコア。チーム名ではなく都市名表記なんですね。
玉置投手が完封した試合のスコア。チーム名ではなく都市名表記なんですね。

今回の都市対抗・北関東2次予選は1回戦がトーナメント形式で、8チームのうち1勝した4チームが残り、決勝は各3試合ずつのリーグ戦です。まず6月3日が日立製作所戦。7回裏に追いつかれ、なおもヒットで1死一、二塁となったところで玉置投手が登板。実はこの時、もう翌日の先発が決まっていて「だから投げる予定はなかったんですけど、メチャクチャ強い日立相手に2対2で来てしまって…。そこで『玉置行ってくれるか?』と言ってもらった」のだそうです。

そりゃもう男気あふれる玉置隊長、断る選択肢はありませんよね。で、その回は内野ゴロ2つでピンチを断ち切ったのですが…8回の先頭(4番・菅野選手)にホームランを浴びて、そのまま敗戦。この大会中、毎日プレッシャーで寝られなかったという玉置投手。特に「この夜が一番きつかった」と言っていました。

中島監督の胴上げ。3年ぶりなので喜びもひとしおです。
中島監督の胴上げ。3年ぶりなので喜びもひとしおです。
閉会式で敢闘賞の表彰を受ける玉置投手。
閉会式で敢闘賞の表彰を受ける玉置投手。
完封した試合後、記者の方に囲まれました。
完封した試合後、記者の方に囲まれました。

「新日鐵住金鹿島の力となって、一緒に都市対抗へ行きたいと思ってここへ来たのに、自分のせいで2つ負けたら終わってしまう。そう思ったら」

確かに都市対抗は社会人の“本気”、一番だといろんな方から聞きました。玉置投手も「たとえ日本選手権に出ても、都市対抗に出ないと、その年の評価は0点。出れば100点。それくらいなんです。2年出ていなくてプレッシャーすごかった。そこで声をかけてもらった。なのに自分が2つも負けるわけにはいかない」と繰り返します。

「試合後に冗談で『玉置、あしたもう全部行け!』と言われて、スイッチ入っちゃいました!」という翌4日の富士重工業戦。予定通り先発マウンドに上がって4回までパーフェクトピッチングを展開、5回と6回に1安打ずつ許したものの最後まで投げ切りました。108球で2安打、10奪三振、しかも無四球の完封勝利!エラーもなく、二塁すら踏ませない完ぺきな内容です。

翌5日はクラブチームながら都市対抗にも出場している強豪・全足利クラブ戦。4対1で迎えた8回、2死から1点返されたところで登板し、残りを4人でビシッと片付けて試合終了です。もう1試合で富士重工業が敗れたため、日立製作所に次ぐ第2代表で、チーム3年ぶりとなる本大会出場が決定。玉置投手は今大会の敢闘賞を受賞しました。

まず1勝、そして目指すはテッペン!

服部部長の胴上げ。いいポジショニングですねえ、玉置投手(左下)。
服部部長の胴上げ。いいポジショニングですねえ、玉置投手(左下)。

阪神時代に完投もなかったでしょう?「ないですね。社会人でも先発の練習はしていないし、最長4イニングなので。完封して僕が一番ビックリしました」。1イニングごとを抑える気持ちで?「そうですね。目の前の1人1人を打ち取っていこうと。5回0点なんて、ありえないでしょ(笑)。あとはスタミナとか考えず、気持ちで体を動かして。プロでは割と冷静な感じだったと思いますけど、吠えまくってましたね!アウトを1つ取るたびに。自分で自分をしごいてた。声を出さないと、切れてしまいそうで」

高校以来の9イニングとのことですが、それも公式戦ではなく練習試合で完封して以来だったみたいですね。その完封を挟む3連投という、社会人野球では見かけるけどNPBではありえない登板をした玉置投手に「本大会出場が決まってホッとした気持ちもある?」と尋ねたら「ホッとしかしてないです」という返事。この3日間を「CSは1試合しか投げてないけど、あんな感じかな」と例えました。

タイトル画像の全貌がこちら。玉置投手(左)と同期、大学卒1年目の坂口選手です。
タイトル画像の全貌がこちら。玉置投手(左)と同期、大学卒1年目の坂口選手です。

7月の東京ドーム。出ることが目標だったとはいえ「初戦敗退したら何を言われるかわからないので。1つ取ったら、あとはもうテッペン目指します!」と気合十分。そして「横山と石崎、喜んでたでしょう?」と。はい、石崎投手に会ったら大喜びでしたよ。「嬉しいです!3年ぶりですもん」とニコニコ。

最後に、決勝リーグを観戦された玉置投手のお兄さんは「阪神で育ててもらい、新日鐵住金鹿島で活躍できて、野球人生を最高に楽しんでいると思います。また東京ドームで弟のピッチングが見られます。母親もかなり喜んでいます!」とおっしゃいました。また連投についても「都市対抗に出るために家族を連れて茨城へ行ったんだから、腕がちぎれても投げると本人は言っていました」とのこと。東京ドームで吠えるところを、見に行かないといけませんね。

若竹投手は3年連続の出場

若竹竜士投手は、三菱重工神戸・高砂に入って3年目を迎えています。チーム名がまだ“三菱重工神戸”で、都市名も神戸市だった1年目の2014年、2年ぶり31回目の出場を果たした本大会。2試合目の3回戦(西濃運輸)で8回に登板し、1イニングを投げ、無安打1三振で0点に抑えました。9回に1点返したものの4対2で敗れ、西濃運輸はそのあと優勝。

昨年も出場していますが、2回戦で敗退。若竹投手は投げていません。ことしは2年ぶりの登板となるでしょうか。ことしの近畿2次予選の結果は以下の通りです。

若竹投手。写真は5月のJABA京都大会のもの。
若竹投手。写真は5月のJABA京都大会のもの。

三菱重工神戸・高砂【近畿】

5/27 準々決勝 ○5-1 ミキハウスBC

5/29 準決勝 ●0-2 NTT西日本

6/3 第2代表 準決勝 ○6-1 新日鐵住金広畑

6/5 第2代表決定戦 ○10-2 NTT西日本

※3年連続33回目の本大会出場

この2次予選は、うまく日程が空いていたのでエースの守安投手が投げきることが多く、若竹投手は最後の第2代表決定戦でリリーフ登板したのみです。でも5月のJABA京都大会では、同じ日に行われた決勝トーナメントの準決勝、決勝が続いて延長へ入り、しかも11回からはタイブレークで、その両方に若竹投手が登板しました。

準決勝はピシャリ!しかし決勝は、12回に犠飛を許して町田公二郎監督率いる三菱重工広島に負けています。とはいえ、1死満塁から攻撃を始めるタイブレークは本当に胃が痛くなるくらい大変!内野ゴロでも外野フライでも試合が決まってしまいますからねえ。若竹投手、お疲れ様でした。本大会でもしびれる場面での登板を期待しています。

JABA京都大会、2試合連続タイブレークで登板しました。
JABA京都大会、2試合連続タイブレークで登板しました。

ところで、ことし29歳になる若竹投手は玉置投手の1つ下です。阪神時代、なぜか今も覚えている2人の会話があります。玉置投手が3年目、若竹投手が2年目のシーズンでした。若竹投手は「玉置さん。玉置さんって2年目、何勝したんですか?」と聞き、玉置投手が「4勝」と答えたら「じゃあ僕は5勝しよ」と若竹投手。

2人ともファームで先発していましたからね。“挑発”してくる後輩に「なんやと~」と憤慨するフリをしながら笑っていた玉置投手が、とても大人に見えたものです。懐かしいですねえ。ちなみに若竹投手は2年目、ファームで3勝でした。この2人が東京ドームで投げ合うところ、見てみたい!

阪口選手も初の本大会!初の東京ドーム

パナソニック【近畿】

5/29 1回戦 ●3-4x ミキハウスベースボールクラブ

5/31 第4代表 1回戦 ○8-0 ニチダイ

6/1  〃  2回戦 ○5-0 和歌山箕島球友会 

6/3   〃 準々決勝 ○3-1 ミキハウスBC

6/5   〃  準決勝 ○8-0 新日鐵住金広畑

6/8 第4代表決定戦 ○6-0 大阪ガス

※2年ぶり50回目の本大会出場

昨年は初戦(準決勝)で大阪ガスに負け、敗者復活の第2代表・準決勝は勝ったものの、決定戦で負け、第3代表、第4代表、第5代表の決定戦すべて落として4連敗と、まさかの予選敗退でした。そのため企業チームには珍しく1回戦からの登場で、しかもミキハウスベースボールクラブに負けたのです。ここで負けると同じ敗者復活戦でも、いきなり第4代表の山型の一番下に回るので、昨年よりもさらに厳しい道のりとなります。

出番はなくとも、大きな声を出してベンチを盛り上げる阪口選手。
出番はなくとも、大きな声を出してベンチを盛り上げる阪口選手。

それが、いい意味でプレッシャーになったのでしょうか。1回戦、2回戦で完封勝ち、準々決勝は3対1でミキハウスにお返しして、準決勝も決勝も完封勝ちの5連勝!第4代表として、2年ぶり50回目の都市対抗出場を決めました。

阪口哲也選手から試合後に「勝ちましたー!嬉しいです!東京に行けます!」と喜びのメッセージが。実は最近スタメンから外れるだけでなく、出場しない試合も多い阪口選手で、和歌山箕島球友会戦も最後まで出ずじまいでした。でもそれ以降の試合は最後に守備で出たりしています。決勝も、8回に代走で出てホームを踏み、サードの守備についたとか。試合終了の瞬間にはサードからマウンドへ「走って!」歓喜の輪に入れたそうです。

なお、タイガースの先輩でもあるパナソニック・梶原監督は、阪口選手について「足りないのは気合い」と言います。阪神時代にあった寮生へのアンケートの『一番熱い選手は誰?』という設問で、阪口選手が最多票を集めたみたいだと伝えると「熱いのと気合は違うんですよ」と梶原監督。「技術は持っているし、一生懸命やってる。あとは気合い」と繰り返しました。

タイトル画像の全貌です。阪口選手(左)と同期の渕上選手、盾を手に記念撮影。
タイトル画像の全貌です。阪口選手(左)と同期の渕上選手、盾を手に記念撮影。

まあ優しいところがありますもんね。同級生の多いチームにあって、自分を使え!ってくらいのギラギラしたもの、でしょうか?本人は気合いが入っているけど、そう見えないってことも言えます。でも初めての都市対抗、そして初めての東京ドームでは「スタメンで出られるよう頑張ります!」と力のこもった言葉。

それと、自身が退団後も「原口さん、支配下になれますか?」と聞いてきていた原口選手の、月間MVPやオールスターファン投票1位という快挙に「すごいですね!かっこいいですねえ、原口さん」と喜んでいました。こういうところ、本当に素直で優しい哲ちゃんです。

※今回の都市対抗野球は残念ながら予選を突破できなかった野原将志選手や藤井宏政選手、穴田選手らの話は次の記事でどうぞ。こちらからもご覧いただけます。<もと阪神の選手たちが戦った都市対抗予選 ・その2 ―次のステージに向かって>

フリーアナウンサー、フリーライター

兵庫県加古川市出身。MBSラジオのプロ野球ナイター中継や『太田幸司のスポーツナウ』など、スポーツ番組にレギュラー出演したことが縁で阪神タイガースと関わって約40年。GAORAのウエスタンリーグ中継では実況にも挑戦。それからタイガースのファームを取材するようになり、はや30年が経ちました。2005年からスポニチのウェブサイトで連載していた『岡本育子の小虎日記』を新装開店。「ファームの母」と言われて数十年、母ではもう厚かましい年齢になってしまいましたが…1軍で活躍する選手の“小虎時代”や、これから1軍を目指す若虎、さらには退団後の元小虎たちの近況などもお伝えします。まだまだ母のつもりで!

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