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JA全中はTPPで条件交渉に転換か 減反・戸別所得補償などでの政策転換を是認の兆候

大野和興ジャーナリスト(農業・食料問題)、日刊ベリタ編集長

農協内部で石破自民党幹事長と萬歳章JA全国農協中央会(全中)会長の間で、TPPと今後の農業政策展開で手打ちが成立したという石破・萬歳密約説が流れている。真偽は蚊帳の中だが、減反の段階的廃止と戸別所得補償制度の日本型直接支払制度への転換という政府・自民党が現在打ち出している政策変更を認めるという方向に動き出したことは読みとれる兆候がある。。こうした農業政策の新しい方向は、TPP(環太平洋経済連携協定)成立を見こして打ちだされているもので、全中がこれを認めることは、現実にTPPを受け入れ、条件交渉に入ったことを意味する。

10月下旬、政府・自民党は、TPP後の農業のあり方を見据え、零細な農業構造を支えてきたとして減反政策を抜本改革する方向を打ち出した。減反廃止で小規模農家を淘汰し、農業を大規模化を促進することをめざしたものだ。これによって農業の競争力強化を図り、TPPに備えようというねらいがある。具体的には、戸別所得補償制度で減反をした農家に一律に出ている10アール1万5000円の助金を段階的に削減し、補助金の支給対象を大規模農家に絞ったりすることなどが検討されている。具体的には北海道で10ヘクタール以上、都府県で4ヘクタール以上に限る案などが浮上している。

こうした動きを受け、林農相は10月25日の閣議後の記者会見で、減反や戸別所得補償制度について具体的な見直し作業に入る方針を明らかにした。減反は段階的に廃止し、補助金は減額のうえ、大規模農家に限定する方向で調整するというものだ。

10月29日には林農林水産大臣とJA全中の萬歳会長が会談した。その会談で萬歳会長は「(減反見直しで)現場の混乱は避けて欲しい」と要請したが、減反廃止の賛否については明言を避けたという報道が流れた。萬歳会長は「どの社会においても、需要にあった生産というのはあるべきです」と述べたことをとらえ、反対を表明した(読売10月29日号)と書いたメディアもあったが、実際はあたりさわりのない意見を述べて、今の政府・自民党の動きを是認したとみるほうが妥当。

その後全中は、この問題について沈黙している。こうした歯切れの悪い全中の対応をみていると、冒頭述べた石破・万歳密約説はうなずけるものがある。これまで農協の農政運動の受け皿となっていた自民党農林族も、衆参二つの選挙で大勝し、高支持率を誇っている安倍官邸に抑えつけられて手も足も出ない状況となっており、事実上JAはTPP反対の旗を巻きはじめたを見られる。

ジャーナリスト(農業・食料問題)、日刊ベリタ編集長

1940年、愛媛県生まれ。四国山地のまっただ中で育ち、村歩きを仕事として日本とアジアの村を歩く。村の視座からの発信を心掛けてきた。著書に『農と食の政治経済学』(緑風出版)、『百姓の義ームラを守る・ムラを超える』(社会評論社)、『日本の農業を考える』(岩波書店)、『食大乱の時代』(七つ森書館)、『百姓が時代を創る』(七つ森書館)『農と食の戦後史ー敗戦からポスト・コロナまで』(緑風出版)ほか多数。ドキュメンタリー映像監督作品『出稼ぎの時代から』。独立系ニュースサイト日刊ベリタ編集長、NPO法人日本消費消費者連盟顧問 国際有機農業映画祭運営委員会。

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