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【敗戦70年目の百姓宣言】―「『戦没農民兵士の手紙』は二度と書かない」賛同署名が動きだした出す

大野和興ジャーナリスト(農業・食料問題)、日刊ベリタ編集長

国会では「平和安全法制」という名の「戦争法案」の審議が行われています。国会の外では、あらゆる年代、あらゆる分野の人びとが、憲法と民主主義を守ろうと動いています。農業の分野でも、敗戦から70年を経て、百姓が再び戦争に借り出されることを拒否する『敗戦70 年目の百姓宣言』の賛同者を募っています。この宣言は、先の侵略戦争では“殺す側”の兵士として駆り出され、戦後の経済成長に翻弄された農民の歴史を 振り返り、それでも「百姓の創造と抵抗」は深まり広がっているとして、「私たちは憲法を壊す戦争法案(安保法案)をただちに廃案・廃止」することを要求しています。

賛同呼びかけの対象は、大地を耕し、種をまく営みをしているすべての人びと。規模の大小や販売か自給かおすそわけか、などは問わず、「自ら『百姓』であると自認する人はぜひご賛同ください」と呼びかけています。百姓宣言らしい特徴は、故人も賛同に参加できること。「すでに亡くなったおじいちゃんやおばあちゃん、ひいじいちゃんやひいばあちゃんで、この人はきっと戦争に反対したと思われる方も呼び戻してください。「故○山○子」といった形で、賛同に入ってもらいます。百姓というのはそんな営みだと思うからです」と呼びかけ文は述べている。

◆宣言文◆

敗戦70年目の百姓宣言

「戦没農民兵士の手紙」は二度と書かない

岩手の村々から戦争にとられた農民兵士が戦地から実家に送った手紙をまとめた『戦没農民兵士の手紙』(岩波新書、1959)をご存知でしょうか。戦地で倒れた百姓青年たちの手紙は、お母さんのこと、農事のこと、家族のことで埋まっていました。敗戦から70年がたちました。自衛隊を世界中に送り、戦争に参加することを可能にする法案が国会に出され、軍靴の響きが現実になろうとしています。

アジア太平洋戦争の最中、百姓は戦争遂行のために食料増産を強いられ、食糧にならない桑や花卉や果樹が引き抜かされました。「満州」移民となって、他国の同じ百姓の土地を奪ってしまった歴史もあります。動ける百姓は赤紙1枚で侵略戦争に駆り出されました。彼らは戦場で交戦相手の兵士や侵略先の人びとと直に向かいあい、”殺す“側に立たされました。戦地で銃弾に倒れ、餓死し病死した兵士の圧倒的部分も農民兵士でした。

男たちを戦争にとられ、年寄りと女、子どもばかりになった村では、コメもムギもイモも“供出”させられ、女たちは家を村を守ることが国を守ることだと強いられたのでした。今も、食糧法や武力攻撃事態での国家の国民への対応を定めた国民保護法によって、緊急時において食糧や医薬品の強制収用や土地の強制接収が出来ることになっています。

そして敗戦。農地改革で自分の土地を手にした百姓は、うれしさをかみしめながら生産に励み、戦後の飢餓に立ち向かいました。開拓農民として未来を切り拓こうと荒れ地に入植した人たち。しかし、百姓が生産する喜びを味わったのは、ほんのひとときでした。経済が復興し、経済成長の軌道に乗ると同時に、規模が小さい農業は効率が悪く、経済の発展を阻害するとされ、国策によって百姓は淘汰の対象となりました。世界を市場競争に巻き込む、いわゆるグローバリゼーションの時代が訪れ、そこにいまTPP(環太平洋経済連携協定)がかぶさり、百姓の農業はますます追いつめられています。

もちろん百姓は負けてばかりではありません。土地、農産物価格、地域再生、自給と地産地消、都市との交流と連携、百姓を次代に引き継ぐさまざまな試み、などなどあらゆる局面で国策に抵抗し時代を創る取り組みを重ねています。百姓の抵抗と創造はいま都市の人びとを巻き込みながら次第に深まり、広がっています。

百姓の抵抗と創造を支えてきたのは、戦争のない70年でした。それは平和におだやかに生きることを人間の権利として定めた憲法によってもたらされたものです。その憲法が今ずたずたにされようとしています。私たちは憲法を壊す戦争法案(安保法案)をただちに廃案・廃止することを要求し、百姓として宣言します。

私たちは二度と「戦没農民兵士の手紙」は書かない。

2015年8月15日

賛同人・賛同団体

(お名前を列記)

賛同する人は下記へ。

●連絡先  〒368-0023 秩父市大宮5734-4  大野和興/西沢江美子

メールアドレス korural@gmail.com

≪連絡内容≫

お名前・年齢

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一緒にご賛同いただける方のお名前など

ジャーナリスト(農業・食料問題)、日刊ベリタ編集長

1940年、愛媛県生まれ。四国山地のまっただ中で育ち、村歩きを仕事として日本とアジアの村を歩く。村の視座からの発信を心掛けてきた。著書に『農と食の政治経済学』(緑風出版)、『百姓の義ームラを守る・ムラを超える』(社会評論社)、『日本の農業を考える』(岩波書店)、『食大乱の時代』(七つ森書館)、『百姓が時代を創る』(七つ森書館)『農と食の戦後史ー敗戦からポスト・コロナまで』(緑風出版)ほか多数。ドキュメンタリー映像監督作品『出稼ぎの時代から』。独立系ニュースサイト日刊ベリタ編集長、NPO法人日本消費消費者連盟顧問 国際有機農業映画祭運営委員会。

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