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男性から発信!マタニティマークを支援するムーブメントが巻き起こっている

小酒部さやか株式会社 natural rights 代表取締役

●半数以上の妊婦が常時マタニティマークをつけない

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妊婦向け雑誌「Pre-mo(プレモ)2017年2月号」で、出産経験のある読者約300人からのアンケートが掲載された。そこでは、53%の妊婦が常時マタニティマークをつけていないと分かった。常時つけていない理由として、31%の妊婦が「電車など公共の場で嫌がらせを受けるかもしれないから」と不安の声を漏らし、27%の妊婦が「気を使われるほうがいやなので」と遠慮していることが分かった。実際に公共の場で嫌な思いをしたことがあるのは、15%(約45人)と「6~7人に1人」となっている。その内容は、「優先座席に座っているときに文句を言われた」約11人、「おなかを押されたり、突き飛ばされたりした」約7人「傷つく言葉をかけられた」約4人など深刻だ。マタニティーマークへの嫌がらせは以前から話題になっており、「公共の場でのマタハラ」と呼んでいいだろう。

しかし、本当は妊婦さんに思いやりをもって接したいと思っている人の方が多いはず。悪いニュースだけが目立ち、” 優しさの見える化”ができていないだけということで、マタニティマークを支援するムーブメントが”男性主体”で起こっている。

アンケート出典:「Pre-mo」(プレモ)2017年2月号(主婦の友社)

●マタニティを応援するマーク

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会社員の市橋直久さん(46歳)は、13年前まだマタニティマークがない頃に奥さんが妊娠し、この頃から公共の場で妊婦さんをサポートするマークがあったらいいと思っていたそうだ。当時は大きいお腹で電車に乗るだけでジロジロ見られたり、ベビーカーや乳幼児を受け付けないお店もまだまだあった。いつか誰かがサポートマークを作ってくれるだろうと思いながら月日は経ち、最近ではマタニティーマークをつけた人が嫌がらせを受けたというニュースを目にして心を痛めていた。「誰もやらないなら自分で作ろう!」とイラストを自ら考案。男性も女性も身につけやすいように、描いた人物像は男女どちらともつかないように工夫した。

「妊婦さんだけがマタニティマークをつけるからよくない。誰もがまずはマークを身につけて、マークをつける人がどんな気持ちか多くの人に味わって欲しい」と市橋さんはいう。実際に応援マークをつけると、つけている自覚を持て、乗車した際に周囲を気にするようになるという声が上がっている。今後は自治体が、母子手帳とともに妊婦さんにマタニティマークを配布する際に、まずはパパさんに「マタニティマークを応援するマーク」も配布してくれたらと思う。また、部下の育児と仕事の両立を支援する上司「イクボス」を表明している企業や団体での配布も期待したい。

(※なお、マタニティマークは2006年に厚労省が公募によりデザインを決定した。著作権は厚労省に帰属している。)

参考:マタニティマークを応援するマーク

●妊婦さんとサポーターをマッチングする「スマート・マタニティマーク」

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スマート・マタニティマークとは、電車で立っているのが辛い妊婦さんと、席をゆずりたいと思っているサポーターをマッチングするサービスだ。妊婦さんがビーコン付きキーホルダー(スマート・マタニティマーク)を押すと、アプリをインストールしている周囲のサポーターのスマホに通知が行く。サポーターが席を譲りたい意志を表示すると、妊婦さんのキーホルダーが光るという仕組みになっている。「妊婦が安心して暮らせる社会」さらには「やさしさからやさしさが生まれる社会」の実現に向けて、テクノロジーで社会問題を解決したいと願っているのはタキザワケイタさん(38歳)だ。

発案者のタキザワさんが約1300人に行ったアンケート調査では、約9割の人が「妊婦さんにやさしく配慮したい」という一方で「スマホをいじっていて妊婦さんに気づかない」という人が約6割にも上ることが分かった。そこで、「妊婦さんが近くにいますよ」と半径2mにいるサポーターに通知を送り、気づかないという問題を解決した。

参考:「スマート・マタニティマーク」ムービー

「サービスの実現を目指すと同時に、マタニティマーク=危険というネガティブなイメージを、まずはポジティブなものに変えていきたい」とタキザワさんはいう。すでに活動に賛同する企業も現れており、企業の福利厚生やCSR活動の一環として普及してくれることを期待する。

参考:スマート・マタニティマーク

参考:サービスの実現に向けて応援をお願いします!

●「ヘルプマーク」など他のサポートが必要な人への広がりも

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公共の場で手助けしない問題は、妊婦さんに限られた問題ではない。そこでスマート・マタニティマークは、ヘルプマークを使用するなど他のサポートが必要な方々への展開も構想している。ヘルプマークとは、東京都が作成したマークで、義足や人工関節を使用している患者、内部障害や難病の患者など、援助や配慮を必要としていることが外見では分からない人々が、周りに配慮を必要なことを知らせるもの。

耳が不自由な方や目が不自由な方、困っている外国人旅行者など、他のサポートが必要な方々への広がりも期待できる。

参考:ヘルプマーク東京都福祉保健局

●同様のムーブメントは、世界ですでに起こっている

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イギリスでも「Babee on Board」というアプリがある。妊婦さんとサポーターがこのアプリをインストールし、妊婦さんが座席に座りたいことを通知すると、その車内に居合わせている他のユーザーに通知が届くというもの。日本と発想が違うのは、妊婦さんを助けるためだけでなく、「妊婦さんを助けない自分の恥ずかしさをなくせるアプリ」をコンセプトにしている点だ。

参考:イギリス「Babee on Board」

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韓国では、鉄道会社のキャンペーンとして「PINK LIGHT」が実施されている。ビーコン付きキーホルダーを持った妊婦が近づくと、手摺のライトが点灯し周囲に知らせるサービスだ。

参考:韓国「PINK LIGHT」

東京は他人に無関心な社会かもしれない。けれど、マタニティマークのおかげで見知らぬ人の優しさにふれた経験がある妊婦さんも多いはず。現在妊娠中の私も、母親世代の女性に席を譲られ「うちの娘も譲ってもらったの。かわりばんこだから」と言葉をかけてもらったことがある。身近に経験すれば、サポートへの理解は深まるもの。周りがやってると自分もやろうという気になり、優しさは伝播する。

マークを利用するのが妊婦だけに偏っている現状に広がりを持たせ、サポートする人・他のサポートが必要な人にもマークやアプリを使ってもらい、” 優しさの見える化ムーブメント”が伝播していくことを願う。嫌な目にあったというツイッターを凌駕する量の嬉しかったことツイッターが、SNSで拡散して欲しい。

株式会社 natural rights 代表取締役

2014年7月自身の経験から被害者支援団体であるNPO法人マタハラNetを設立し、マタハラ防止の義務化を牽引。2015年3月女性の地位向上への貢献をたたえるアメリカ国務省「国際勇気ある女性賞」を日本人で初受賞。2015年6月「ACCJウィメン・イン・ビジネス・サミット」にて安倍首相・ケネディ大使とともに登壇。2016年1月筑摩書房より「マタハラ問題」、11月花伝社より「ずっと働ける会社~マタハラなんて起きない先進企業はここがちがう!~」を出版。現在、株式会社natural rights代表取締役。仕事と生活の両立がnatural rightsとなるよう講演や企業研修、執筆など活動を行っている。

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