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高校女子王者・日ノ本が見せた理想のサッカー

大島和人スポーツライター

冬の全日本高校女子サッカーを圧倒的な強さで制したのが、兵庫県の日ノ本学園だ。準決勝までの4試合で27得点0失点という圧倒的な戦果で勝ち上がると、1月16日の決勝戦は藤枝順心に先制を許す展開ながら、後半に一挙4得点。持ち味の攻撃サッカーを存分に見せる4-1の逆転勝利で、夏の高校総体と併せて二冠を達成した。

日ノ本のサッカーで最も魅了された部分が、流れるような人の動きだ。ポゼションサッカーはとかく機械的で単調になりがちだが、日ノ本は違う。準優勝の藤枝順心、ベスト4入りした常盤木学園もしっかりボールを動かしていたが、日ノ本には人の動きというプラスアルファがあった。“4-2-3-1”の1トップに入った池尻茉由、八坂芽依は前で張るのでなく中盤に落ちる、サイドに開くプレーが多い。これはプレスからの逃げでなく、相手を混乱させる布石である。空いたスペースには入江未希、林咲希、小島和希子といったMFが入ってフィニッシュに絡んでいた。入江は中盤の底、ゴール前と広範囲に動き、5試合連続の8ゴールで今大会得点王に輝いている。

何よりの驚きは選手が自由に動いているようで、重ならずに調和を保ち、チームとして機能しているところ。様々なカテゴリーの試合を取材しているが、あれほど流動的でなおかつバランスが取れている、連動しているサッカーは見た記憶がない。

選手に攻撃時の動きを尋ねると、FWには「仲間と目が合ったら落ちる」(小島)という約束事はあるという。1トップが空けたスペースは「誰かがそこに入って行ったり、裏が空くので走り込んだり」(小島)して生かされる。突然の選択、相手を混乱させる意外なプレーでも、日ノ本の選手は皆が同じ絵を描けていた。アルビレックス新潟レディースでプレーし、今年から上嶋明氏より職を引き継いだ田邊友恵監督(33)は「考える力のある子たちだから、相手を見てポジションを変えてということをやれる」と選手たちを称える。

男子の選手権を制した富山第一は、選手全員が自宅生ということで話題になった。しかし日ノ本の選手は、ほぼ全員が寮生活を送っている。背景には男子と違い、トップを目指せるチームがなかなか家の近くにない女子サッカーの現状がある。とはいえ日ノ本の選手を見る限り、日々の生活を共にすることで生まれる意思疎通の深さが、サッカーで生かされているようにも思う。

女子の学生スポーツと言うと、カリスマ的な男性指導者に率いられ、ガチガチの上下関係に縛られた特殊な世界を想像してしまう。しかし日ノ本の選手に聞くと、彼女たちの日常は至って普通だ。寮生活は他部の生徒も一緒で「日曜日は食事が出ない。コンロとIH調理器、フライパンがあるから、仲の良い人で一緒に食事を作る」(八坂)というアットホームなもの。洗濯などの作業も上級生、下級生と関係なく分担するという。トレーニングも「あまり変わった練習はない。いいポジショニングさえあれば、ボール動かせるということしかやってない」(田邊監督)という、攻撃的だがオーソドックスな内容だ。しかし普通の生活、トレーニングの先に、普通ではない理想的なサッカーが築き上げられている。

個々の発想を生かすサッカーは、選手の能力があるから成り立つものだろう。特別なチームワークも、作ろうと思って必ず作れるものではない。しかし条件さえ揃えば、あれだけのサッカーを見せられる--。“なでしこの蕾”が持つポテンシャルを感じさせてくれた、日ノ本学園のサッカーだった。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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