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実は全国ワーストではなかった!?「魅力のない街・名古屋」のからくり

大竹敏之名古屋ネタライター
ネット上を駆け巡った「名古屋=魅力のない街」のニュース

週刊ポストの「名古屋ぎらい」記者が筆者の記事や発言を引用するも・・・

反省するのはどっちだ!?と名古屋人総ツッコミの週刊ポスト「名古屋ぎらい」第4弾
反省するのはどっちだ!?と名古屋人総ツッコミの週刊ポスト「名古屋ぎらい」第4弾

週刊ポストの「名古屋ぎらい」特集でヘイト報道の標的となってしまった名古屋。ポスト誌は懲りもせず第4弾(9月30日号)を掲載し、ついでにカープ優勝に沸く広島をも「広島ぎらい」と新たなターゲットとするなど、全国の都市を敵に回そうとしているかのようです。

ポスト誌の第4弾記事では、私の当サイトの記事(「なぜ週刊ポスト『名古屋ぎらい』特集は組まれたのか?」)や、私が登壇したシンポジウム「魅力のない街?名古屋について考える」での発言も引用されています。記者さんはわざわざ名古屋まで取材に来たようですが、現場にいながら声をかけてくれなかったのは残念でした。記事の中身はというと、偏見や曲解にのっとった強引な印象操作を狙った相変わらずのポスト節が炸裂していました。

「名古屋=最も魅力のない街」調査の落とし穴

ポストが「名古屋ぎらいシンポジウム」と紹介した討論会(撮影/あいざわけいこ)
ポストが「名古屋ぎらいシンポジウム」と紹介した討論会(撮影/あいざわけいこ)

さて、今回の記事の本旨は、ポスト誌への意趣返しではありません。一連のバッシング記事の引き金にもなったと思われる「名古屋=最も魅力に欠ける街」のアンケート調査についてです。ここでは、不名誉なワースト1になってしまった調査の仕組みに着目することにします。

前回の記事では「当の名古屋人が名古屋の魅力に気づいておらず、また外に向けてアピールしようという意識に乏しい」ことが低評価を招いた要因だと書きました。これは内なる問題として間違いないと思うのですが、最下位になったのにはもうひとつ大きな原因があります。それは、この都市イメージ・ブランド調査の指標が「観光都市として魅力があるか」に偏っていることです。

調査対象都市は名古屋市、札幌市、東京都23区、横浜市、京都市、大阪市、神戸市、福岡市の8都市。名古屋以外は全国を代表する観光都市です(沖縄・那覇市は都市としても観光地としても条件が違いすぎるのであえて外したのでしょう)。全国主要都市を網羅しているわけではなく、仙台もさいたまも静岡も金沢も岐阜も愛媛も広島も熊本も含まれていません。

調査項目も「買い物や遊びで訪問したいか」「買い物や遊ぶ時に訪れたいところ、体験したいこと」など観光的視点が中心となっています。もともと観光都市ではない名古屋にとっては、厳しい評価が下されることは事前にある程度予想できたことでした。

名古屋市による都市イメージ・ブランド調査。「魅力的か否か?」の質問で名古屋大自爆
名古屋市による都市イメージ・ブランド調査。「魅力的か否か?」の質問で名古屋大自爆

つまり、名古屋はわざわざ自分の不利な土俵に全国の猛者を集めて相撲を取ったようなもの。トップの精鋭たちに胸を借りたところ弱点が明らかになったという図式であって、実は一般にイメージされてしまっている全国ワーストと言えるようなものではないのです。

「住みやすさ」と「観光」どっちが大切か・・・?

一般的に、街のランキングの指標にされることが多いのは「住みやすさ」です。こちらの視点で調査をすれば結果はまったく違ったものになったはずです。

名古屋人が日頃実感している街のよさは、まさにこの住みやすさ。“実家の近くに一軒家を建てやすい”とか“道が広くて走りやすい”とか“お母さんと百貨店に買い物に行くとブランド物を買ってもらえる”とか“晴れの日が多い”とか、住んでいてこそ享受できるメリットが多く、これらは他地域の人にことさらアピールする類のものではありません。

そして、この「住みやすさ」という利点は、「観光地」としての魅力と天秤にかけるべきものでもありません。どっちが重要というものではない・・・というよりもむしろ前者が優先される方が街として健全ではないかと思うのです。

もちろん、名古屋市が今後観光に力を入れていこうとすること自体は悪いことではありません。しかし、そのために重要なのは、慌てて元来苦手な外向けのプロモーションにお金をつぎ込んだり、ましてや巨大なハコモノを作ることではありません。モノづくり、固有の食文化、武将文化いった既存の個性に磨きをかけること、市民が日々快適に過ごせる街であること、そして人々がそれに誇りを持って来訪者を迎え入れることこそが土台となるべきです。

自ら招いたイメージダウンを払拭する一手を

とは言え、先の調査は名古屋市が自ら行ったものであり、イメージ戦略を図ろうとして真逆のマイナスイメージを流布してしまったのですから、墓穴を掘ってしまったことは疑いようもありません。かくいう私も、実はアンケート結果を関係者から事前に見せてもらっていたのですが、ことさらネガティブな取り上げられ方をするとは予想しておらず、認識が甘かったと言わざるを得ません。しかし、だからこそ「魅力のない街ワースト1」という誤解にもとづいたレッテルに対し、あの調査は特定の都市を対象に特定の視点で行ったものに過ぎないことを広く理解してもらうよう取り組む必要があります。

というわけで、微力ながらまずは私がマイナスイメージ払しょくのために一筆とりましたので、名古屋市の担当部署の皆さんもどうぞよろしくお願いいたします。

名古屋ネタライター

名古屋在住のフリーライター。名古屋メシと中日ドラゴンズをこよなく愛する。最新刊は『間違いだらけの名古屋めし』。2017年発行の『なごやじまん』は、当サイトに寄稿した「なぜ週刊ポスト『名古屋ぎらい』特集は組まれたのか?」をきっかけに書籍化したもの。著書は他に『サンデージャーナルのデータで解析!名古屋・愛知』『名古屋の酒場』『名古屋の喫茶店 完全版』『名古屋めし』『名古屋メン』『名古屋の商店街』『東海の和菓子名店』等がある。コンクリート造型師、浅野祥雲の研究をライフワークとし、“日本唯一の浅野祥雲研究家”を自称。作品の修復活動も主宰する。『コンクリート魂 浅野祥雲大全』はその研究の集大成的1冊。

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