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PTA会長は男性向き? 女性が「長」になりづらい理由

大塚玲子ライター
(写真:アフロ)

先の参院選では、女性候補の当選数が過去最多だったことが話題となりました。といっても改選121議席のうちの28ですから、割合としては4分の1未満です。日本の政治における女性の参画は、やはりまだ遅れている状況です。

PTAでも、似たような状況があります。先日の記事にも書いたように、PTAでは「男は“長”、女は“ヒラ”」という構図が一般的です。まれに女性会長が多い地域もありますが(例・奈良市)、全国的に見るとやはり「会長は男性」というところが断然多数です。

なぜそうなるのか? どんな要因があるのか、考えてみました。

*要因1/会長の集まりは夜が多いから

あまり知られていませんが、PTA会長が担うメインの仕事は「夜、校外のさまざまな会合に出席すること」です。

一般保護者から見ると、PTA会長といえば「入学式や運動会のときに、前に出て挨拶をする人」といったイメージですが、じつはそれだけではないのです。

昨今、行政がPTAに期待する「地域と学校の連携」という役割の多くはPTA会長に求められており、会長はしょっちゅう、行政から委嘱された委員の会合や行事に呼ばれているのです。

これは、母親にとってはなかなか厳しいタスクです。日本では現状、育児をメインで担うのは母親であることが多く、父親が勤務先から帰ってくるまで家で子どもを見るものとされているからです。

会合のあとには、しばしば懇親会(飲みの席)が続くため、子ども連れで参加することも難しいのが実状です。

会長職を引き受けたある女性は、このように話していました。

「会長をやってほしいと頼まれたけれど、そうなると夜は、上の子が部活から帰るまでのあいだ、下の小1の子を家において出かけなければならなくなるので、最初はずっと断っていたんです。最終的にはお引き受けしたんですが、それでも夜の会合が続くときは、子どもに『ごめんね』と思います」(都内公立中学校PTA会長・てぃーこさん)

女性会長は、こういった葛藤・負担を抱えることもあります。

*要因2/女が前に出てはいけない、という意識があるから

いまの若い世代にはピンとこないかもしれませんが、いまの40~50代が育ってきた時代には、「女性は前に出過ぎてはいけない」という規範がまだ色濃く残っていました。

「女は三歩下がって」とまでは言わないものの、自分から前に出る女の子は「目立とう精神」「いい子ブリッコ」(どちらもいまは死語ですが)などと陰口を叩かれることがありました。

そのため、いまでも「前に出る仕事だけは、絶対にイヤ」と言って、会長や部長(委員長)の役を固辞する母親は珍しくありません。

なかには、出席者のなかにひとりでも男性がいると、本人の意思にかかわりなく即座に「長」にまつりあげるお母さんもいます。“礼儀”だと思っているようですが、男性からしたら、それはそれで迷惑な話かもしれません。

*要因3/交渉ごとが多いから

PTA会長は、地域の会合などに出席して、自治会長や行政など他団体の代表と交渉する場面が多々あります。「こういった交渉ごとは、男性のほうが得意だから」というのも、よく聞く理由のひとつです。

話を聞くとたしかに、男性のほうがやりやすいかもしれないな、と思います。それはべつに、女の論理性や説得力が男に劣るからではありません。要因2とも重なりますが、女性には「男性が話し始めると黙って聞く」という習性、傾向がよくみられるからです。

筆者はときどきPTA経験者の座談会やワークショップに参加するのですが、こういった場で、男性は自分から遠慮なくどんどん発言します。一方で女性は、男性が話し始めると聞き役にまわることが多く、その結果、最初から最後まで男性がしゃべっている、という展開をたびたび見かけます。(女性だけのテーブルはまた全然様子が違うのですが)

このような傾向は、交渉の場では不利でしょう。それで「やっぱり会長さんは男性がやったほうがいいね」ということになりやすいのではないかと思います。

*要因4/男性文化が強すぎるから

これまで男性文化が強すぎた、という要因もあるでしょう。

「4年くらい前に副会長をやっていたとき、会長が集まる会に一度だけ参加したことがあるんですが、『こっちに来て飲みなよ!』とか『副会長(女性)を間にはさんで座ろうよ~』みたいなノリが、ちょっときつかったです……」(都内公立中学校PTA会長・てぃーこさん)

これでは女性が会長職を敬遠するのは当然です。ただ、PTAもここ2~3年でだいぶ世代交代が進み、こういったセクハラ風味の男性会長はだいぶ減ってきたようです。

また、こんな声も聞きました。

「女性会長は、地域の会合で発言権を得るまでに、男性会長よりも時間がかかるんです。私も1年目は相手にされませんでしたが、いろんな活動に貢献して信頼を得るうちに、だんだん認められるようになってきました」(奈良市公立小学校 元PTA会長Sさん)

男性文化のなかで女性が立場を得るのには、どうしてもハンデがあるようです。

女性がPTA会長になりにくい大きな要因は、以上のようなものではないかと思います。

べつに誰か意地悪な人がいて、女性が会長になるのを妨げているわけではなく、これまでの慣習や、それに伴うさまざまな事情のなかで、こうなってしまっているのでしょう。

これは、日本で女性の社会進出が遅れている理由全般と重なる話かもしれません。

もし女性のPTA会長が増える世の中になったら、きっと女性の政治家も、会社の女性役員も、いまよりずっと増えていくのではないでしょうか。

ライター

主なテーマは「保護者と学校の関係(PTA等)」と「いろんな形の家族」。著書は『さよなら、理不尽PTA!』『ルポ 定形外家族』『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』ほか。共著は『子どもの人権をまもるために』など。ひとり親。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。ohj@ニフティドットコム

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