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日本は米国では韓国のロビー外交に勝てない

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

日本は米国では韓国のロビー外交に勝てない

歴史認識や領土問題をめぐる日韓の対立は、米国にその舞台を移しているが、日本は劣勢を強いられ、防戦におおわらわである。その象徴が、米カリフォルニア州グレンデール市の「慰安婦像」の設置であり、バージニア州の公立学校教材での「日本海」と韓国名「東海(トンヘ)」の併記採用ではないだろうか。

バージニア州公立学校の「教科書問題」では、駐米日本大使館が「日本海」表記の現状維持を要望したにもかかわらず州の下院議会では「日本海」の表記と並んで「東海」を併記する法案をなんと賛成81反対15の圧倒的な差で可決してしまった。

韓国の「圧勝」は、一にも二にも政府と民間、および現地の在米韓国人が一体となってロビー活動を展開した賜物である。もちろん、日本も、手をこまねいていたわけではない。

米議会専門媒体である「ザ・ヒル(The Hill)によれば、日本政府はワシントンにある「ホーガン・ロベルス」及び「ヘクター・スペンサー&アソシエイツ」などのロビー会社を使って、ロビー活動を展開していたそうだ。その活動費用として「ホーガン・ロベルス」にはこの1年間で52万3千ドル、「ヘクタ―」には19万5千ドルを支払い、議会に対する組織的なロビー活動と情報収集を委託していた。

具体的には、両社は歴史問題で韓国に組する共和党のエド・ロイス下院外交委員長(カリフォルニア選出)や民主党のマイク・ホンダ(カリフォルニア選出)議員らの従軍慰安婦に関する発言を文書にまとめるなどして日本に情報提供していた。

また、韓国のメディアの報道では、これとは別に駐米日本大使館はバージニア州議会の「東海」表記法案の採択を阻止するため法律会社「マグワイア・ウッズ」を雇用し、昨年12月から3か月間で7万5千ドルを払っていたそうだ。しかし、結果は、日本の惨敗に終わった。

そもそも、米国内でのロビー活動ではどうみても韓国に勝てそうにもない。

第一に、米国に在住する日本人と韓国人の数が違いすぎる。日系人130万人に対して韓国系は40万も多い、170万人だ。

「慰安婦」像が設置されたカリフォルニア州グレンデール市は、韓国系住民が約1万2000人なのに対し、日系住民はたったの100人。人口約800万のバージニア州では韓国系はこの10年で約2倍に近い7万577人に急増しているが、日系はこの10年間ほとんど変動なく、9,471人と、1万人にも満たない。選挙に例えるなら、基礎票ですでに勝負がついている。

次に、争点の歴史認識問題では日本は加害国というハンディーを背負っていることだ。

日本が加害国、韓国が被害国という相関関係上、日本がいくら主張、反論しても、並大抵のことではこのハンディーを克服することはできない。米国で最も大きな影響力を持つとされるユダヤ系のロビイスト団体の「アメリカ・イスラエル公共問題委員会(AIPAC)」などが韓国に同調し、連帯するのも、ユダヤ人と韓国人は同じ第二次世界大戦の被害者という立場にあるからではないだろうか。

さらに、ロビー活動のキャリアと質が違いすぎる。

一般には知られてないが、米政府は17年前に従軍慰安婦と戦前生体実験部隊として知られる「731部隊」に関連した日本人の入国を禁止する措置を取っている。当時、米司法省は第一次として関連者16人をリストアップし、彼らの入国を禁止すると発表した。

以前からナチ戦犯の米国への入国は禁止されていたが、日本人に対してもこのような措置が取られるとは、日本政府にとっては予想外の出来事だった。

日本政府も、司法省の決定を覆すため「挺身隊関係者らの入国を禁じるなら、我々も広島に原爆を落とした米国人の入国を禁じる」と牽制したが、日本の反発は逆効果を招くことになってしまった。

米政府は対日配慮と温情から16人の名の公表を控えているが、この時、従軍慰安婦と「731部隊」に連座した日本人の入国禁止を米政府に働きかけたのは在米韓国人の李鍾淵弁護士であることを知る者は少ない。

李鍾淵氏は、1954年に移民として米国に渡り、弁護士となり、その後、ワシントン挺身隊対策委員会理事長に就任している。韓国にはこの手の「人材」が余るほどいる。

バージニアでの圧勝で勢いを得た韓国は米国のすべての州で「東海」の表記を使わせることを目標に掲げ、すでにニューヨーク州とニュージャージ州でロビー活動を展開している。

ニューヨーク州では選挙区に韓国人が多くいる民主党のエドワード・ブラウンスタイン州議員が、また、ニュージャージ州では在米韓国人の権利伸長運動団体である「市民参与センター」が中心となって2年前から働きかけた結果、民主党のジョセフ・ラガナ議員とゴードン・ジョンソン議員が共同で法案を発議している。

在米韓国人らによる賛成票を投じた議員への永年にわたる献金や選挙協力など常日頃の「草の根運動」が下地になっているからこそ韓国側のロビー活動は功を奏しているのであろう。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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