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カウントダウンが始まった拉致被害者再調査結果

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

米韓合同軍事演習(フリーダム・バンガード)が当初の予定を一日繰り上げ、8月28日に終了した。

北朝鮮は「自衛的対応を取る。その対応にはミサイル発射や核実験などが含まれる」(8月7日付の朝鮮中央通信)とか「予測つかないより高い段階の軍事的対応を取る」(8月18日の外務省代弁人声明)とか「正義なる自衛措置をこれから連続的に取る」(8月19日付の労働新聞)と威嚇していたが、この期間対抗措置を取ることはなかった。

米韓合同軍事演習終了とほぼ同時に30日からは首都・平壌でアントニオ猪木氏と北朝鮮共催による「インターナショナル・プロレスリング・フェスティバル イン平壌」という冠のプロレスを中心とした格闘技大会がある。

北朝鮮は19年ぶりに開催されるこのイベントをテレビなどで大々的に宣伝している。インターネットによる生中継も認めた。今大会を重視しているのは北朝鮮にとっては恒例のアリラン祭典に代わる一大イベントとして位置付けているからである。

プロレスが終われば、次に先代の金正日総書記肝いりの平壌国際映画祭(9月17日~24日)が控えている。今年はフランス、英国、カナダ、オーストラリアなど西側諸国からも出品される。また並行して9月19日から韓国の仁川でアジア大会が開催されるが、金正恩政権は「スポーツ強国」を目指すとして選手団の派遣を決定している。

国威発揚の場として「建国記念日」(9月9日)もあることから油断はできないが、グアムに配備されていた核戦略爆撃機B―2やB-52が演習に参加しなかったことから対抗措置を取ることはないだろう。これで予定通り、9月の第二週には北朝鮮の拉致被害者再調査結果が日本に通告されるだろう。

再調査結果は当初は、早ければ「8月下旬から9月初旬にかけて」日本側に知らせることになっていた。事実、ミャンマーで8月10日に開催された東南アジア諸国連合(ASEAN)の地域フォーラム(ARF)閣僚会議で岸田文雄外相と会談した北朝鮮のリ・スヨン外相は「9月初旬に調査結果を報告する」と言明していた。

遅延の理由が第一次調査に対する万景峰号の入港解禁など日本からの見返りがないことへの北朝鮮側の不満によるものか、それとも日本側の事情によるものか定かではないが、安倍総理は9月3日に内閣改造を予定しており、組閣後の6日から8日までバングラデシュとスリランカを訪問し、国内を留守にする。

現状では、北朝鮮の調査結果は第三国で行われる政府間協議、即ち外務省局長級協議の場で通告される可能性が大だ。今年5月のストックホルムでの日朝協議合意は伊原純一局長が持ち帰り、安倍総理自らが発表していた。今回も安部総理自身が発表したいがため日時を遅らせた可能性もないとは言えない。

今回の北朝鮮の再調査の最大関心事は、ずばり政府が認定した12人の拉致被害者に関する安否結果にある。

日本の国民感情からして全員が生存、帰国してこそ、さらに拉致された疑いのある多くの特定失踪者が出てきてこそ「進展した」との評価になり、仮に生存が再び「ゼロ」あるいは一人程度ならば、またも「嘘をついている」ということになる。

北朝鮮は「調査の過程で日本人の生存者が発見された場合には、その状況を日本側に伝え、帰国させるための必要な措置を講じる」と約束しているが、その対象を「拉致被害者及び行方不明者」としていることでもわかるように「発見、帰国対象者」が必ずしも政府認定の12人とは限らない。「発見・帰国」があるとすれば、後者の行方不明者、それも拉致ではなく「自らの意思で入った日本人」ということも考えられなくもない。

北朝鮮が調査を誠実に行ったのか、騙していないのか一体、何を持って判別すればよいのか、その基準が難しいが、最大の焦点は横田めぐみさんと田口八重子さんの安否にあると言っても過言ではない。

めぐみさんについては2004年に北朝鮮側からめぐみさんの「遺骨」として提出されたものが日本のDNA鑑定の結果、偽物と断定されたことで生存の可能性が取沙汰されている。加えて、安部総理自身が今も「横田滋さんと早紀江さんが自らの手で、めぐみさんを抱きしめる日が来るまで、私の使命は終わらない」と述べていることもあって、多くの国民がめぐみさんの生存、帰国を信じ、期待を寄せている。

また大韓航空機爆破事件の実行犯である金賢姫に日本語を教えたとされる「李恩恵」こと田口八重子さんを北朝鮮がどう扱うかも焦点の一つだ。

仮に日本政府が認めた拉致被害者のうち死亡者扱いされた横田めぐみさんや田口八重子、有本恵子さんら8人をAグループ、同じ認定者でありながら北朝鮮が入国していないと主張している松本京子さんや曽我ひとみさんの母親を含む未入国者4人をBグループ、拉致されたかもしれない三桁に上る特定失踪者をCグループ、そして、今回新たな調査の対象となった在北朝鮮残留日本人や日本人妻らをDグループと分類した場合、北朝鮮は切りやすいカードから切り、日本のマスコミや世論の動向を見守る一方で、日本政府が万景峰号の入港や人道支援に踏み切るかどうかを見極めながら、段階的に「拉致カード」を切ってくる公算が高い。

いずれにせよ、拉致被害者の再調査結果発表はカウントダウンに入った。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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