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朝鮮半島有事、北朝鮮有事の際の日本への難民は?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

内戦から端を発したシリアの難民問題は周辺国のトルコ、そしてギリシャ、ハンガリー、ドイツなどEU諸国を巻き込む大きな政治、人道、社会問題に発展している。仮に朝鮮半島で有事が現実となった場合、あるいは北朝鮮がシリアと同じような状況に陥った場合、どのような事態が想定されるのだろうか?

「地雷事件」が引き金となった南北の軍事衝突は危機一髪のところで回避されたが、仮に

朝鮮半島で戦争が勃発した場合、又は、可能性は低いが、北朝鮮でクーデターが発生し、権力抗争による内戦状態となった場合には大量の難民が発生することになる。

朝鮮半島有事の場合、南北共に難民が発生するが、日本に難民が押し寄せるとすれば、その大半は北朝鮮からではなく、韓国からであろう。特に釜山をはじめとする南部沿岸の地域からは開戦と同時に漁船や貨物船などに乗って大量の避難民が日本に押し寄せて来よう。

第一次朝鮮戦争(1950年6月25日-1953年7月27日)勃発時には韓国から200万人が避難してきた。現在、韓国の人口は5千万人を突破している。そのうちたった1%でもその数は50万人に上る。今では輸送、移動手段も多々あるのでおそらく開戦から3日~1週間の間に100万単位が押し寄せて来るものと推定される。

戦争勃発ではなく、韓国が将来あり得ると想定している「北朝鮮有事」、即ち北朝鮮の現体制が崩壊した場合、あるいはクーデターや人民蜂起が発生し、シリアのような内戦状態となった場合はどうか?それでも大量の難民が発生する可能性が大だ。

平時でも北朝鮮から韓国への脱北者は2006年から2011年までの6年間、毎年2千人台に達し、2009年には3千人近い2,927人に及んだ。その後、2010年には2,706人、2013年には1,514人、昨年は1,397人と減ってきたが、これは脱北者を難民として認めない中国側の規制と金正恩体制になって北朝鮮の国境警備が一段と強まったことによるものである。必ずしも北朝鮮の状況が改善された結果ではない。

内乱などによって中央政府の統治能力が失われれば、無秩序な社会が出現する。秩序のない社会では多くの場合、家族や仲間といった小さな単位でそれぞれ勝手に生存のための行動に走る。無秩序によりこれまで制限されていた移動が自由になれば生き残りのため人々は国境の外に出ようとするだろう。そうなれば、近隣諸国にとっては悪夢のような事態が発生する。やって来るのは両手で数えられるほどの脱北者ではない。キューバ、ベトナム、あるいは今、シリアで起きているような大量の難民発生だ。

地理的に見て、北朝鮮から難民が流れ込む国は陸続きの韓国、中国、ロシア、そして海を隔てた日本の4か国しかない。このうち韓国は同族なので、難民には理想的だが、休戦ラインを越えるのは容易ではない。南北両側から100万以上の銃口が向き合い、200万個以上の地雷が埋まっている軍事境界線地帯を潜り抜けるのは至難の業だ。これまでも38度線を越えて韓国に亡命した北朝鮮の軍人は稀にいるが、民間人は極めて少ない。船を利用する手もあるが、船をチャーターし、燃料を確保するのも簡単なことではない。 従って、北朝鮮の難民にとって脱出先として最も可能性が高いのが中国である。

北朝鮮と中国は鴨緑江(全長803km)と豆満江(全長547km)という二つの川で国境を接しているが、この二つの川は1月初旬から3月中旬まで凍結するので歩いて渡れる。また、それ以外の季節でも、底の浅いところを選べば越境することができる。まして、国境を接している吉林省など中国東北部には180万人以上の朝鮮族も居住している。

しかし、朝鮮半島と高句麗の帰属問題を抱える中国としては、吉林省などに難民が雪崩れ込み、「朝鮮族」が急増することは将来朝鮮族による分離・独立運動を引き起こしかねない危険性があるだけに国境を封鎖し、徹底した封じ込めを行うだろう。

では、脱出先としての日本はどうか?

北朝鮮には1960年代から1970年代にかけて帰国した約10万人弱の在日朝鮮人及びその家族、親族がいる。彼らが日本を目指すことも考えられるが、韓国に入国さえできれば日本に行けることを知っているので船を利用したとしても近場の韓国行きを目指すだろう。日本は距離が遠いうえ、日本海の波が高いため、命を落とす危険が高い。それでも中には何であれ、船を手に入れ、日本を目指してやってくる者も相当数いるだろう。

その証拠に1987年1月に福井に錆だらけの老朽化した50トンの小型船に乗って2家族11人が漂流したのをはじめ、2007年6月には青森、そして2011年9月にも長崎に木造船でやってきている。過去28年間でたったの3件だが、どれもこれも大騒ぎになったのは記憶に新しい。

長崎に漂着した木造船には子供3人が成人男女6人と一緒に乗船していた。エンジンが備え付けてあったもののボートは毛が生えた程度の小型船で750kmも離れた日本海を渡ってきたからわけだから驚きであった。青森に漂着した4人は当初、新潟を目指していたことがわかった。これら3件とも、全員韓国に引き渡された。

ボートピープルの日本亡命が成功し、日本経由で韓国に行けたということが口コミで北朝鮮に伝わったことで北朝鮮には「脱北予備軍」が大勢いるものと思われる。有事の際には「難民」として日本に向かってくる可能性は大いにある。生きるため、生活するため脱北してきた経済難民ならば国連難民保護法や2006年に施行された北朝鮮人権法に則って日本政府は人道的に対応しなければならない。

韓国へのダイレクトのボートピープルは1997年に新義州から脱出した2世帯14人による集団脱北が第一号だ。14人の中には1歳そこそこの幼児もいた。

亡命直後にまた韓国に定着した後にも何度もソウルで会い、彼らを取材したが、一家の長は「難破の危険もあったが、子供や孫の将来のことを考えて決行した」と語っていた。船が転覆し、溺死したあのシリアの幼子の父親と同じだった。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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