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「粘り勝ち」の安倍総理に「根負け」の朴大統領

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

日韓共に新政権下で初めて開かれた注目の日韓首脳会談が2日、終わった。

共同声明も共同記者会見も用意されてなかったことから首脳会談での具体的なやりとりは不明だが、焦点となっていた従軍慰安婦問題では依然として折り合いが付かなかったようだ。

安倍晋三総理の訪問は実務訪問であったことから公式訪問の中国の李克強首相より格下げ、冷遇されたものの、それでも韓国の「開かずの門」をこじ開けたという点では安倍総理の「粘り勝ち」というか、朴槿恵大統領の「根負け」という感は否めない。

朴大統領は一昨年11月の英BBCとのインタビューで「元慰安婦などの問題が解決しない状態では、首脳会談はしない方がましだ」と息巻いていた。またこの年の12月には訪韓したバイデン米副大統領に対して「もし安倍首相と会談して結果を出せなかったら、状況は今よりもっと悪くなる」と慰安婦問題が解決されない限り安倍総理と会談する意思がないことを鮮明にしていた。

朴大統領は昨年も10月に訪韓した日韓議員連盟の額賀福志郎会長との会談で「過去に首脳会談を行った後、むしろ関係が後退した経験を教訓とし、十分な準備をして会談を成功させるような真摯な努力が優先されるべきだ」と述べた上で「従軍慰安婦の問題で日本が誠意を示し、環境を整えることが重要」であると強調し、「前提条件を付けるべきではない」とする安倍総理の無条件開催を拒否していた。

朴大統領のスタンスは今年に入っても変わることなく、1月中旬に来日した徐清源・韓日議員連盟会長は安倍総理に「日本がまず元慰安婦の女性の名誉を回復するのに最善の努力を尽くしてもらいたい」と要望し、朴大統領自身も2月13日に訪韓した自民党の二階俊博総務会長一行に「元慰安婦の名誉回復を図る納得できる措置が早期に取られなければならない」と再三に亘って日本側に注文を付けていた

これに対して安倍総理は慰安婦問題については「筆舌に尽くしがたい辛い思いをされた方々のことを思い、非常に心が痛む」と同情の念を示しながらも、この問題は1965年の日韓条約(請求権協定)で解決されたとの認識に立ち「政治問題化、外交問題化すべきではない」と朴政権にくぎを刺してきた。韓国の「前提条件付対話」についても「課題があれば、まず会って話をすべき」と、「無条件対話」を譲らなかった。

安倍総理よりも二つ年上の朴大統領は原則の人と言われている。一方の安倍総理も信念を曲げない人との見方がある。「原則」と「信念」の意地のぶつかり合いでどちらも先に折れるような状況になかった。朴大統領が「鳴かないなら、鳴かせてみよう」の立場なら、安倍総理はさしずめ「鳴くまで待とう」の立場だった。ところが、結果は、朴大統領が折れる形となった。

その理由については歴史問題などで対日共同歩調をとってきた中国が一足先に日中会談に応じたことへの焦りや日本の投資の鈍化や貿易の停滞、観光客の大幅な減少など経済的な側面、それに北朝鮮の核問題をめぐる安全保障上の理由が挙げられるが、何よりも「日韓関係緊張は負債」(ラッセル米国務次官補)と日米韓の協調体制を急ぐ米国からのプレッシャーを無視することができなかった。

安倍総理は帰国後「従軍慰安婦」問題について「韓国との交渉を通じて、一致点を見いだすことができる」とこの問題で韓国側と交渉を継続する意向を表明していたが、慰安婦問題は1965年の日韓請求権協定に基づき「解決済み」との立場の日本と、あくまで日本政府による法的責任と補償を求める立場の韓国とどう折り合いをつけるのか、早期に妥結しなければ、安倍総理に譲歩した朴大統領は苦しい立場に立たされることになるだろう。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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