Yahoo!ニュース

一度も成功してない北朝鮮の「人工衛星」

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

日本のメディアは北朝鮮が主張する「人工衛星発射体」を「事実上のミサイル」と報道している。「事実上の」との枕詞を付けるのは人工衛星を打ち上げたにせよ、本質的には「長距離弾道ミサイルと同じ」との政府見解や国連決議に則っているからだ。

そもそも北朝鮮による「衛星発射」はかつて一度も成功したためしがない。北朝鮮が「衛星」と称する発射は公式的には過去4度あった。1998年8月と、2009年4月、2012年4月、そして直近の2012年12月12日の計4度だ。

一度目の1998年8月は、日本海に面した発射場から日本列島に向けて発射された。1段目は1分15秒後に日本海に、2段目は4分26秒後に三陸沖に落下し、列島を飛び越え、大騒ぎとなった。北朝鮮は発射から4日後に「人工衛星を打ち上げた」と主張した。しかし、北朝鮮は当時、衛星発射に不可欠な宇宙条約にも大気圏条約加盟してなかった。国際民間航空機機関(ICAO)や国際海事機関(IMO)にも事前通告がなかったことから「人工衛星を打ち上げた」と発表しても信じられるはずはなかった。

発表が4日も遅れたことについて北朝鮮は「最初から公表することを決めていたが、衛星打ち上げ成功を確信し、測定資料などを収集した後で公表することにしていたため」と詭弁を弄した。また、事前通告しなかったことについては「その国の主権に属する問題であり、誰に対しても事前通告する義務はない」と開き直った。

北朝鮮は発射から4分53秒後に「衛星が軌道に乗った」として「軌道に上がった衛星からモールス通信を通じて『金日成将軍』の歌が電送されている」とか「衛星が地球を回っているのを肉眼で確認できる」と国民に宣伝し、さらに国民が上空を見上げているシーンをテレビで流していた。奇妙なことに陸を接している韓国も、中国も、隣国の日本も含め北朝鮮以外のどの国も衛星も、北朝鮮が主張する470メガヘルツからのモールス通信も確認できなかった。その後、米国防総省と韓国国防部は「10kg程度の物体を軌道に乗せようとしたようだが、軌道に乗る必要な速度に達せず、失敗した」との公式見解を出した。

二度目の2009年4月の時は前回批判を浴びたことから「4月4-8日の間に試験用通信衛星を打ち上げる」と事前発表し、宇宙条約にも加盟し、国際民間航空機機関や国際海事機関にも通告した。また、米国にも事前通告していた。

1段目は秋田沖に、2段目は銚子沖に落下し、9分2秒後「衛星は無事軌道に上がった」と発表した。北朝鮮は打ち上げられた衛星からは「金日成将軍の歌」と共に「金正日将軍の歌」も流れていると発表したが、これまた中露含めてどの国も傍受できなかった。

北朝鮮は30kgぐらいの物体を軌道に乗せようとしたようだが、軌道に上がらなかった。それでも北朝鮮は発射4日後に開幕した最高人民会議の場で「人工衛星の打ち上げに成功した」と国民に発表した。

北朝鮮は衛星の根拠について「弾道ミサイルは最終段階で地球の水面と40~45の傾斜角を取り、弾道の航路に沿って大気圏内に再突入するが、3段目のエンジンに点火する時、地球の表面と水平を維持しながら、軌道に沿って周回した」と説明した。そして、労働新聞を通じて衛星の写真を公開した。但し、サイズや重量など詳細に関しては全く言及されてなかった。

韓国や日本は「発射推進体は軌道に乗るのに必要な速度には達していなかった」と真っ向から反論した。人工衛星か大陸弾道ミサイルは角度と速度で決まる。衛星ロケットならば秒速5.8-7.5km(弾道ミサイルは4.7km)で飛行しなければならない。

北朝鮮の友好国であるロシアも北朝鮮を庇ったものの「人工衛星は確認できなかった」との立場を取った。これにより、北朝鮮の人工衛星の主張が国連では却下され、安保理で北朝鮮を非難する議長声明が採択された。その後、米国防総省は「テポドンで人工衛星を打ち上げようとしたようだが、失敗した」と、「テポドンによる衛星打ち上げ説」に傾いた。日本もしばらくして防衛庁が最終報告書で「地球周回軌道上に極めて小さな物体を投入した可能性が全くないわけではない」と記述し、「人工衛星説」を完全には否定しなかった。要は、衛星が軌道に上がらなかったことだ。

3度目の2012年4月は、「光明星3号」という名の地球観測衛星を打ち上げると北朝鮮は発表した。方向は従来の東側でなく、南に向けられていた。外国から報道陣を招き、1メートルほどの四角形の、重さ100kgの衛星らしきものを公開した。「通信機材の他に高感度のカメラも設置されている」と説明した。しかし、発射から1~2分程度で空中爆発し、北朝鮮も失敗を認めざるを得なかった。

そして、4度目が前回の2012年12月の発射だ。失敗した「光明星3号」と同じもので発射推進体の「銀河3号」で打ち上げられた。飛行コースも同じ南方向で、1段目は黄海上に落下し、2段目はフィリピン沖に落下し、発射から9分27秒後に「衛星が軌道に上がった」として「衛星発射に成功した」と、北朝鮮は発表した。

発射されたその日、北米航空宇宙防衛司令部(NORAD)は北朝鮮が人工衛星を軌道に投入したとして[KMS3-2]という固有名詞をつけた。しかし、いまだに衛星からの通信電波の発信が確認されていない。画像も配信されてない。作動しないまま、不規則な回転をして、地球の周りを旋回しているだけである。衛星が正確に軌道に乗り、地球を正常に周回し、衛星から電送されるモールス通信が地上でキャッチされ、宇宙から画像が送信されるなど地球観測衛星としての機能が果たされてないのである。

しかし、仮に今回、「人工衛星」の打ち上げに成功し、衛星が正常に稼働したとしても、「いかなる弾道ミサイル技術を使用した発射もこれ以上実施してはならない」と警告した国連決議の違反ということで国際社会の制裁は免れない。

そもそも「衛星」を打ち上げるロケット発射推進体は、ミサイルを改良したものなので、原型はテポドンと変わりはない。事実、北朝鮮もかつて「軍事用にも転用できる」と言ったことがある。また、2009年の発射実験の後、金英春人民武力相(当時)は「軍事的勝利」と口走っていた。さらに2012年4月の発射時まで軍総参謀長だった李英鎬次帥は「人工衛星を打ち上げるのはロケット武器と同じことだ。そのロケットに核兵器を搭載すれば、米本土まで撃てる」とその年平壌で開かれた幹部会議で公言していた。

核爆弾を小型化し「東京を火の海にする」とか「ワシントンもペンタゴンも我々の核ミサイルの照準にある」と威嚇している国がいくら「平和利用」と言っても国際社会には通らないだろう。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

「辺真一のマル秘レポート」

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

テレビ、ラジオ、新聞、雑誌ではなかなか語ることのできない日本を取り巻く国際情勢、特に日中、日露、日韓、日朝関係を軸とするアジア情勢、さらには朝鮮半島の動向に関する知られざる情報を提供し、かつ日本の安全、平和の観点から論じます。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

辺真一の最近の記事