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米韓は北朝鮮と戦い、本当に勝てるのか!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
米韓上陸訓練(写真:ロイター/アフロ)

米韓連合軍の合同軍事演習に北朝鮮軍が対抗する形で上陸訓練やミサイル発射などで威嚇していることから朝鮮半島の緊張は日増しに高まっている。一部では偶発的な衝突による局地戦、全面戦の危険性も囁かれ始めている。仮に第二次朝鮮戦争が勃発した場合、米韓連合軍の圧勝に終わるのだろうか。

昨年秋に就任したジョゼフ・ダンフォード統合参謀本部議長(海兵隊大将)は3月17日に米上院軍事委員会が開催した聴聞会で「朝鮮半島で戦争が勃発した場合、北朝鮮が主導権を握ることもあり得る」と唐突に発言し、出席していた軍事委員らを驚かせた。国防予算を多く勝ち取るため北朝鮮の脅威を意図的に誇張した面も否めないが、それにしても制服組トップの「北朝鮮が主導権を握る」との証言は予想外だった。

詳しく紹介すると、ダンフォード統合参謀本部議長は「米軍は北朝鮮に対して軍事的に優位に立っているが、朝鮮半島で戦争が起きれば、北朝鮮は特殊部隊の投入や大規模の長距離ミサイルの発射などで主導権を握るかもしれず、多くの人的被害は避けられない」と語ったのだ。

さらに、「北朝鮮は核兵器や弾道ミサイルだけでなくサイバー攻撃まで準備しており米本土のみならず北東アジアの同盟国(日本)まで威嚇している」として、「抗戦的な北朝鮮指導部と世界第4位規模の在来式軍事力、さらには年々強化されている核・ミサイル能力は同盟国の脅威になっているばかりか、米本土への脅威も増している」と述べ、北朝鮮の能力を過小評価はしなかった。この日、同じく証言に立ったマーク・ミレー陸軍参謀総長に至っては「北朝鮮とは戦争できない」とまで述べ、その理由について「我が軍隊は満足できるような、戦争を実行する水準でない。犠牲者、死傷者が相当出てくる」と証言したと言うからこれが本当なら驚きだ。

確か、カーティス・スカパロッティ駐韓米軍司令官も先月(2月24日)開かれた米下院軍事委員会聴聞会で「現在の朝鮮半島の状況は過去20年間で最も高い緊張状態にある」と述べたうえで「(双方の)軍事力と武器のレベルなどを考慮すれば北朝鮮との戦争は非常に複雑な形態で展開されるだろう」と証言し、「朝鮮半島での北朝鮮との衝突は第2次大戦に匹敵し、おそらく多くの死傷者が出るだろう」と予測していた。ちなみに第2次大戦での米軍死亡者は約40万5千人、朝鮮戦争では約3万6千人が戦死している。

北朝鮮との一戦がそう簡単ではないこと、苦戦を強いられるかもしれないとの予想、予測は今に始まったことではない。北朝鮮がまだ核兵器も、中・長距離ミサイルを保有してなかった1990年初からすでに囁かれていた。

米国では1990年以降、ペンタゴンが中心となって朝鮮戦争のウォーゲーム(シミュレーション)を毎年行ってきた。これはコンピューター上の模擬戦争で、戦争の可能性の高い双方の兵力、装備、地形、軍事戦略などを入力し、その結果を具体的に予測するものだ。

今から23年前の1993年に「ニューズウィーク」(12月2日号)が朝鮮半島で戦争が勃発した場合「ソウルの防衛線は一、二週間で崩れる」という国防総省の秘密報告書(1991年作成)をすっぱ抜いて大騒ぎになったことがある。この報道に米韓連合司令部が反発したのは言うまでもない。

米韓連合司令部と韓国国防部はこの報告書を「全く根拠がない」と否定し、「戦争になっても韓国が勝つ」と反論した。反論理由として▲所詮コンピューターによるシミュレーションに過ぎない▲インプットされたデーターが不正確である▲使用された軍事力に関するデーターは不公平で、韓国は古いもの、北朝鮮は新しいものが使われていることなどを挙げた。

「ニューズウィーク」のスッパ抜きにより波紋が広がったためチャールズ・ラーソン米太平洋軍総司令官(当時)は記者会見を開き、「韓国軍の近代化と駐韓米軍の支援能力で、北朝鮮の脅威には十分に対応できる。戦争になっても、韓国が勝ち、北朝鮮が勝つ見込みはない」と打ち消しに躍起となった。

また、韓国国防部もその後、合同参謀本部が実施したウォーゲーム(1993年6月)の結果を明らかにしたが、それによると、開戦初期は一進一退の接戦を繰り広げるが、韓国軍が北進し、最終的に韓国が勝利を収めるとの結果が出ている。しかし、当時はそれでも著名な軍事専門家として知られる池萬元氏のように「シミュレーションを行ったところ、韓国は3日で陥落する」と大胆な予想をする人が後を絶たず、韓国国内での波紋は中々収まらなかった。

翌年の1994年、米朝核交渉が決裂したことで北朝鮮への軍事攻撃を検討したクリントン大統領はホワイトハウスで安全保障会議(6月16日)を招集したが、シュリガシュビリ統合参謀本部議長の「戦争が勃発すれば、開戦90日間で▲5万2千人の米軍が被害を受ける▲韓国軍は49万人の死者を出す▲戦争費用は610億ドルを超える。最終的に戦費は1千億ドルを越える」というブリーフィングにホワイトハウスは震撼した。

それもそのはずで当時、在日米軍は3万3千4百人、在韓米軍2万8千5百人で併せて約6万2千人だから僅か3か月間で5万2千人の被害とは俄かに信じ難いからだ。また、韓国軍は65万人のうち3か月間で約50万が戦死するというのもこれまた想像に絶する被害だった。会議に同席していたラック駐韓米軍司令官も「南北間の隣接性と大都市戦争の特殊性からして米国人8万~10万人を含む100万人の死者が出る」と報告していた。

それでもクリントン大統領は「いつかは米国に向け発射されるかもしれない核を北朝鮮が持つことを放置するか、戦争のリスクを冒してでも、今、北朝鮮の核保有を阻止するか、どちらかを選択するよう」求めたペリー国防長官の二者択一提案に後者、即ち、先制攻撃による戦争の手段を選んだというから米国の安保意識も半端ではない。

この時から22年経った今では北朝鮮は核で武装化され、中・長距離弾道ミサイルまで手にしている。米韓連合軍は果たして本当に北朝鮮と戦えるだろうか?

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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