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ワシントンを核攻撃? 極限の北朝鮮の対米、対韓威嚇

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
ワシントンを核攻撃するシーン

北朝鮮の対米、対韓挑発はもはや極限状態にあると言っても過言ではない。米韓に対する挑戦的な言動は明らかに「2013年の朝鮮半島危機」よりも度が過ぎる。

北朝鮮の一連の軍事的措置はすべて2月23日の最高司令部の前代未聞の「重大声明」に基づいていることは言うまでもない。重大声明に第一次攻撃対象が「青瓦台と統治機関」、第二次攻撃対象が「アジア太平洋地域の米軍基地」と米本土」と明記されているからだ。

まず、韓国に対しては韓国国内の米韓基地を照準に定めた射程200kmの新型大口径放射砲(3月3日)と朝鮮半島有事の際に米空母や艦船が入港する釜山や米援軍が上陸する浦項を網羅する500kmのスカッド・ミサイルの発射訓練(3月10日)で威嚇。その一方で、陸海空による大規模の上陸訓練(19日)に続き、24日には爆撃機と戦闘機それに長距離砲などを動員し、ソウル陥落を狙った最大規模の訓練を実施し、「ソウル市を火の海にする」と公言した。

その上で、北朝鮮は砲撃訓練を行った長距離砲兵隊の名で3月26日、北朝鮮首脳部を標的にした軍事訓練を行ったことを朴槿恵大統領が謝罪しなければ、またその責任者を「公開処刑」にしなければ「無慈悲な軍事行動に移る」とした「最後通告状」を出すに至っている。但し、期限を設けていないことから、現状は脅しの段階に過ぎない。ちなみに昨年8月の砲撃事件では北朝鮮は「48時間以内に拡声器放送を止め、撤去しなければ軍事行動に移る」との期限を切って、最後通牒を行っていた。

一方、米国に対しても核爆弾の小型化、軽量化の成功発表後にスカッド・ミサイル(10日)を発射し、また、核弾頭再突入の実験後にノドン・ミサイルの発射実験(18日)を行うことで、核搭載可能なミサイルの保有をちらつかせ、さらに24日には米本土を標的にする長距離弾道ミサイル「KN-08」に使用されるかもしれない固形燃料用のエンジン噴射実験を行うなど米国を「核」で脅している。

極めつけが、北朝鮮の対外宣伝媒体である「今日の朝鮮」の首都ワシントンを核ミサイルで攻撃する「最後の機会」とのタイトルが付けられた動画像の公開(3月26日)だ。

「世界の耳目を集める朝米対決は世紀を経て今も続いている」との字幕から始まる約4分間の映像は過去60年間にわたる米朝間の対立や事件を制止画像と動画、そして音楽と字幕による構成となっており、ナレーションはない。

冒頭に「敗戦を繰り返し、朝鮮に降伏書を捧げて来た米国」との字幕と共に朝鮮戦争休戦協定の調印書が映し出され、1950年6月に勃発した朝鮮戦争が「祖国解放戦争」と描写される。画面には「米国は朝鮮に手を出したのが間違っていた」として米巡洋艦「ボルチモア」号の撃沈、B-29爆撃機の撃墜場面が映し出され、最後にマーク・クラーク国連軍司令官が休戦協定に調印する場面が登場する。

次に1968年1月23日に日本海に面した元山沖で拿捕された米情報艦「プエブロ号」が映し出される。ブッチャー艦長ら乗組員らが両手を挙げて、降伏している映像と、米代表が彼らの釈放のため謝罪する米朝会談の場面も流れる。

続いて、1969年4月15日の「EC-121撃墜事件」、1976年8月18日のポプラ事件と称される「板門店事件」、1977年7月14日の武装ヘリ「CH-47撃墜事件」が取り上げられ、北朝鮮兵士に銃を突き付けられ両手を挙げている米飛行士らの姿が次々と映し出されていく。さらに、1994年12月17日に発生した米軍ヘリ撃墜事件で両手を挙げている飛行士の映像も使われている。一連の事件で謝罪したとされる米国の文書が公開され、「敗戦を繰り返し、朝鮮に降伏書を捧げて来た米国」が強調されている。

米国との「核対決」では1993年3月12日に核不拡散条約(NPT)からの脱退を表明した政府声明が掲載された労働新聞と1994年10月にジュネーブ核合意が交わされた際に金正日総書記に送られてきたクリントン大統領の署名入りの(安全保障)担保書簡と、それを載せた労働新聞も公開されている。

後半は、「引き続き恥と敗北を喫する米国」との字幕の下で、昨年6月25日の朝鮮戦争勃発日の労働新聞の記事が紹介され、「米国はまだ気付いてない恐怖、戦慄、惨敗を味わうことになるとの爆弾宣言!」との字幕が映し出され、単距離ミサイル、多連装ロケット、地対艦ミサイル、大口径放射砲や戦車、自走砲などが登場。「勝利は白頭山大国の永遠の伝統である」との字幕が流れると、一斉に発射する場面が映し出される。

さらに、「米国の終局的滅亡の最後のページを米本土で書かせるとの警告を聞き漏らすな」との字幕が映し出されると、艦艇、潜水艦、それに戦闘機2機が飛来し、「米国の降伏書で始まり、降伏書に繋がってきた米朝対決戦!最後の大戦では降伏書にサインする者もいなくなるだろう」との字幕では特殊部隊が落下傘で降下し、戦車が進軍する。そして「米帝が動けば、躊躇うこともなく核で先にやっつけしまう」の字幕では、艦対地ミサイル、潜水艦弾道ミサイル、ノドン・ミサイルの発射シーンが登場。雲の中を飛んでいくミサイルが大気圏を突入し、さらに再突入してワシントンのリンカーン記念館前に着弾し、米議事堂が爆発し、米星条旗が燃える場面がコンピュータグラフィックで処理されている。

最後は「選択せよ、米国!この地球上に米国というに国が存在するのか、しないのか、お前らの選択にかかっている」との戦略軍官「李・フィフン」なる軍人の言葉で映像は締め括られていた。

同じ日、対韓宣伝媒体である「我が民族同士」も「その日が見える」とのタイトルの3分間の似たような映像を流し、ホワイトハウスとペンタゴンが炎上している場面を操作し、公開しているが、これも米国に対する北朝鮮の心理戦の一環である。

北朝鮮の露骨な挑発に米国務省のスポークスマンは26日,「緊張を高めるような言動を慎むよう自制を促す」と北朝鮮にくぎを刺しているが、米国は内心穏やかでないはず。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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