Yahoo!ニュース

米国が「B-2」vs「ムスダン」による一触即発を回避か!?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
「B-2」ステルス戦略爆撃機(写真:ロイター/アフロ)

目には目(脅しには脅し)、歯に歯(軍事訓練の応酬)の対立が米韓と北朝鮮の間で続いているが、最大の山場は現在行われている史上最大規模の米韓合同軍事演習「フォーイーグル」(野外機動訓練)に米国が核搭載可能なステルス戦略爆撃機「B-2」を投入した場合、対抗して北朝鮮が東海岸基地に中距離弾道ミサイル「ムスダン」を配備した時に訪れると予想していた。

金正恩第一書記ら最高司令部を含む主要目標を精密に爆撃できる「B-2」は北朝鮮が最も恐れている米国の最先端兵器であり、グアムを標的にした「ムスダン」もまた米国が最も警戒している核搭載可能な移動式発射ミサイルであるからだ。「B-2」が投入されれば、「2013年の危機」以来実に3年ぶりのことであり、一方「ムスダン」は2013年に配備されたものの、これまで一度も発射実験されたことがない。

「ムスダン」については「2013年の危機」の際、ケリー米国務長官が「発射は深刻な判断ミスとなる。不必要な誰も望まない状況が発生する。選択は金正恩にある」と発射ボタンを押せば、ただでは済まされないと警告していた。他方、「B-2」については人民軍最高司令部が「飛来すれば、軍事的対応措置を取る」とこれまた警告を発していた。

「2013年」の時は、3月下旬から4月上旬に危機が訪れていた、前例からして早ければ今週前半にも山場が訪れるのではとみていたが、韓国紙世界日報(3月31日付)によると、米国はどうやら「フォーイーグル」への「B-2」の投入を留保するようだ。

同紙はこの情報を伝えた駐韓米軍消息筋の話として、前半の「キーリゾルブ」演習が終了した3月18日の時点で「駐韓米軍は米戦略兵器の朝鮮半島での展開を中断し、当分の間(出撃)を考慮しないことにした」と報じている。但し、5月7日に予定されている第7回労働党大会を前後に北朝鮮が5度目の核実験や長距離ミサイルの発射に踏み切れば状況は異なるとして「B-2」の追加投入はあり得るとのことだ。

韓国のメディアの中で、米軍が「B-2」の投入を見送ったとの情報を伝えたのは、唯一「世界日報」だけだ。その他の大手メディアには載っていないことや、ペンタゴンや韓国国防部の公式反応がないことから即断はできないが、この報道が事実ならば、「B-2」vs「ムスダン」による一触即発の状態は回避されるかもしれない。

米国は今年の米韓合同軍事演習を「史上最大規模」にするため原子力空母を始め原子力潜水艦、「B-2」や「F-22」ステルス戦闘機など戦略兵器を投入することにしていた。すでに3月7日から始まった「キーリゾルブ」には原子力空母「ジョン・C・ステニス」(10万3千トン)を参加させていた。4月30日まで行われる「フォーイーグル」には「B-2」も投入する方針ですでに3機をグアムに配置させていた。

見送りの理由について前出の消息筋は「米国がこれまで順次に戦略兵器を朝鮮半島に展開させ、強固な米韓同盟を誇示すると同時に北朝鮮を圧迫するうえでも満足すべき効果があったから」と説明している。

「満足すべき効果」が何を指すのか定かではないが、1月6日の4度目の核実験と2月7日のテポドン(衛星)発射直後に戦略爆撃機「B-52」や「F-22」を急派させたことや、米韓合同軍事演習に「ジョン・C・ステニス」を派遣し、北朝鮮を圧迫したたことを指しているのかもしれない。しかし、北朝鮮が米韓合同軍事演習開始3日後の10日にスカッドミサイル、18日にノドンミサイルを発射したのをはじめ陸海空による韓国上陸作戦やソウル攻撃に向けての史上最大規模の砲撃演習を行っていることなどからして「満足すべき効果」があったとはとても考えにくい。

「B-2」投入留保の考えられる理由は、北朝鮮に5度目の核実験を思いとどまらせる、あるいは「ムスダン」や米本土を攻撃する「KN-08」の発射実験を阻止する「交換条件」として提示したか、それとも、「合戦モード」の北朝鮮とのこれ以上のチキンレースは北朝鮮の暴発(戦争)を招きかねないとの危惧から考慮したのか、どちらかだろう。

「2013年の危機」の時は、「キーリゾルブ」にグアムからB-52戦略爆撃機に加え、ロサンゼルス級核潜水艦「シャイアン」が参加したが、北朝鮮はこの時は、最高司令部代弁人声明で「B-52が離陸するグアムの空軍基地と各潜水艦が発進する日本の本土、沖縄の海軍基地も精密打撃手段の射程圏内にある」と「口撃」しただけで、具体的な対抗措置は取らなかった。しかし、「フォーイーグル」の演習に「B-2」が参加すると、その日の深夜に金正恩第一書記が作戦会議を緊急に招集し、「米国と総決算する時が来た」と述べ、グアムを標的にした中距離弾道ミサイル「ムスダン」を東海岸基地に移動させ、発射待機状態に置いていた。

「スカッド」や「ノドン」など一連の発射実験は核爆弾搭載のための、あるいは大気圏再突入の実験だったとも伝えられている。仮に発射となれば、「ムスダン」も「KN-08」も同様の実験の可能性が考えられる。米国の安全保障上、放置できない問題である。さりとて、阻止するため先制攻撃すれば、全面戦争を覚悟しなければならない。

ジョゼフ・ダンフォード統合参謀本部議長は3月17日に米上院軍事委員会が開催した聴聞会で「北朝鮮は特殊部隊の投入や大規模の長距離ミサイルの発射などで主導権を握るかもしれず、多くの人的被害は避けられない」と語っているし、マーク・ミレー陸軍参謀総長に至っては「北朝鮮とは戦争できない」とまで述べ、その理由について「我が軍隊は満足できるような、戦争を実行する水準でない。犠牲者、死傷者が相当出てくる」と証言していた。

カーティス・スカパロッティ駐韓米軍司令官も先月(2月24日)開かれた米下院軍事委員会聴聞会で「朝鮮半島での北朝鮮との衝突は第2次大戦に匹敵し、おそらく多くの死傷者が出るだろう」と予測していた。ちなみに第2次大戦での米軍死亡者は約40万5千人、朝鮮戦争では約3万6千人が戦死している。事はそう簡単なことではない。

米国は軍事的手段ではなく、国際社会による圧力と国連を軸とした制裁、即ち平和的手段で北朝鮮の核放棄を目指している。そのことを証明するかのように3月31日の核安全サミットを前に開かれた日米韓首脳会談でオバマ大統領は国連制裁決議「2270」を履行することが北朝鮮の核放棄に繋がると強調していた。

但し、会談をリードした朴槿恵大統領は日米首脳との共同記者会見で「最も重要なことは決議を徹底的に履行することで北朝鮮に核放棄しなければ生存できないことを気付かせることだ」と述べていたが、言うなれば、核放棄しなければ、金正恩体制を生存させない、存続させないと言っていることに等しい。

さらに、「国際社会は北朝鮮の挑発を決して座視しないし、仮に北朝鮮が再び挑発を行えば、北朝鮮はより強力な制裁と孤立に直面するほかないことをもう一度警告しておく」と力を込めて語っていた。

北朝鮮もまた、核安全サミットの前日に出された外務省代弁人声明で「米国が我々の最高利益と自主権を少しでも侵害するならば直ちに核武力を含むすべての手段を動員して、無慈悲な懲罰を加える」と警告していた。ここで言う「最高利益」と「自主権」とは「衛星」(ミサイル開発)と核開発を指す。ということは、おかまいなしに核実験もミサイル発射も継続するということのようだ。

「B-2」投入留保で安堵し、矛を収めるのか、それとも米国の「譲歩」に付け上がり、一気呵成に「5度目の核実験」に踏み切るのか、北朝鮮の対応が注目される。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

「辺真一のマル秘レポート」

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

テレビ、ラジオ、新聞、雑誌ではなかなか語ることのできない日本を取り巻く国際情勢、特に日中、日露、日韓、日朝関係を軸とするアジア情勢、さらには朝鮮半島の動向に関する知られざる情報を提供し、かつ日本の安全、平和の観点から論じます。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

辺真一の最近の記事