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異例ではない北朝鮮の対中批判

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
劉雲山政治局常務委員と金正恩第一書記(写真:ロイター/アフロ)

国営放送の朝鮮中央通信(4月1日)に続き、党機関紙の労働新聞(4月2日)までもが名指しを避けながらも「米国の卑劣な脅迫や要求に屈従した」と中国を非難したことを韓国のメディは「異例」と伝えているが、北朝鮮の対中批判は異例でもなんでもない。

北朝鮮はこれまでも中国が国連の非難、制裁決議に同調する度に管制メディアを通じて批判を展開してきた。その事例はいくらでもある。

北朝鮮が2006年10月に初の核実験を行った際に中国が「国際社会の普遍的な反対を無視し、勝手に核実験を実施した」と強く批判し、国連制裁決議「1718」に同調するや労働新聞(21日)は「大国の顔をうかがい、大国の圧力や干渉を受け入れるのは時代主義の表れである。時代主義は支配主義の案内人で、その棲息の土壌となる。干渉を受け入れ、他人の指揮棒によって動けば、自主権を持った国とは言えない。真の独立国家とは言えない」の論評を載せていた。「大国」とは中国を指す。

また、3年後の2009年に「衛星」と称するテポドンの発射と2度目の核実験を行った時も北朝鮮は外務省スポークスマン談話(5月29日)で「我々の前では衛星発射は主権国家の自主的な権利であると言いながら、いざ衛星が発射されるや国連で糾弾する策動を行った」と、中国を指して「米国にへつらう、追随勢力」と批判。労働新聞も論説(6月9日)で「大国がやっていることを小国はやってはならないとする大国主義的見解、小国は大国に無条件服従すべきとの支配主義的論理を認めないし、受け入れないのが我が人民だ」と、猛反発していた。

金正恩政権になった2012年4月に金日成主席生誕100周年に際して「衛星」(テポドン)を発射した際にも5「国連安保理常任理事国は米国の対朝鮮敵視政策に便乗し、我々の自主権と平和的宇宙及び核利用権利を侵害する不法行為を行った。深刻なのは、常任理事国が公正性からかけ離れ、絶え間ない核脅威恐喝と敵視政策で朝鮮半島核問題を作った張本人である米国の罪悪については見て見ぬふりして、米国の強盗的要求を一方的に後押ししていることだ。無視できないのは、国連安保理が米国の策動に追随し、主権国家の自主権を乱暴に侵害したばかりか、我が共和国の最高利益である国家と民族の安全を直接侵害する道に入ったことだ」との外務省スポークスマン談話(5月6日)を出して、中国の対応を露骨に批判していた。

特に、国連が制裁決議を採択した際には外務省声明(2013年1月23日)で「衛星発射を最も多くしている国々が我々の衛星発射を『弾道ミサイル技術を利用した発射』であるので問題となるとほざくのは自己欺瞞と二重基準の極致である。間違っていることを百も承知でそれを正す勇気や責任感もなく、誤った行動を反復させることこそ自らを騙し、他人も騙す臆病者らの卑劣な行為である」と、中国への反感をむき出しにしていた。そのことは、翌1月24日に出された国防委員会声明でも明らかで「世界の公正な秩序を打ち立てることに先頭に立たなければならない大国までもがおかしくなり米国の横柄と強権に押され、守るべき初歩的な原則もためらわずに投げ出してしまっている」と、中国の対応を嘆いて見せた。

この時、労働新聞も論評(1月25日)で「制裁決議案に賛成の手を挙げた国々は自らの行動が何を意味しているのか意識できないほど世の中が変わったようだ。最初のボタンを掛け間違えればそれを直せば良いことだ。しかし、愚かな国は最初のボタンを掛け間違えたままにしてしまったため服が歪もうが最後のボタンまでそうせざるを得ない悲惨な姿をさらけ出している。今回、決議案に賛成した国々に言いたい。我々に対する圧力が将来、自らの首を絞める結果をもたらすことになるだろう。我々をひっかけ米国と自らの難問題を取引できると考えるのは大きな誤算である」と、中国を牽制していた。

この年の対中批判は尋常ではなく、5月3日にも労働新聞は社説で「一極化世界を企む米国と他の核保有国らはお互いに対峙する国家利益と理念を持っている。しかし、他の国の核保有についてはいかに相手が長い付き合いの友であっても、また、その国の生死存亡がかかっていたとしても、意に介さず、お互いに野合し、必死で妨害している。19世紀の欧州のブルジョア政治家が『永遠の聯盟はない。あるのは永遠の利益だけだ』と言ったことがある。今日の核大国はこの政治家の説教とおり、動いている」との対中批判を展開していた。

一昨年も中韓首脳会談で北の核開発を認めないことで一致したこととの関連で国防委員会政策局が代弁人談話を出して「一部の見苦しい国々も盲従し、米国が描くシナリオに従っている」と、中国を「見苦しい国」と酷評していた。労働新聞も論評(7月24日)で「世界の公正な秩序を立てるうえで先頭に立つべき国であるにもかかわらず、非劇はこれらの国までが間違っていることを知りながら自国の利害関係だけを優先させ黙認する態度を取ることで米国がますます横暴になっていることにある」と、中国を痛烈に批判していた。

北朝鮮の対中不満は今回に限ったことでなく、鬱積していたことがわかる。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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