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惨敗した「選挙の女王」朴大統領に政権浮揚の「奥の手」はあるのか

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
朴槿恵大統領(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

韓国の総選挙(4月13日)は開票の結果、朴槿恵大統領率いる与党・セヌリ党は事前予想に反し、過半数(151議席)を大きく割り込み、122議席と惨敗した。一議席多い123議席獲得した野党・共に民主党に第一党の座を譲る大敗だった。

野党勢力は民主党から袂を分かれた国民の党の38議席に加え、革新政党の正義党の6議席を加えると、無所属(11)を除いても、167席と過半数を大きく上回る。実に16年ぶりの「与小野大」の国会となった

今回の総選挙は朴政権下での初の総選挙でもあった。ある意味では朴大統領の国政に対する国民による審判、信任投票の性格も帯びていた。

朴大統領はこれまで選挙に強いことから「選挙の女王」と呼ばれていた。金大中政権下の1998年に46歳で政界入りしてから4期連続当選。李明博政権下の2012年4月の総選挙では与党の党首として臨み、苦戦の予想を覆し、善戦したことで「セヌリ党のジャンヌ・ダルク」とも称された。同年12月の大統領選挙では野党の統一候補に勝てる玉として擁立され、激戦の末、ものの見事に当選し、保守政権を維持した。

大統領になってからも「ミニ総選挙」として注目された一昨年7月の国会議員再・補欠選挙(15か所)でも与党は11議席を獲得し、圧勝した。野党が強いソウル及び京畿道の首都圏で5つのうち4つを制し、さらには野党の牙城である全羅南道で26年ぶりに議席を獲得し、「選挙に強い」との神話さえ生まれた。そのジンクスが今回、崩れたのである。

任期残り2年を切った朴大統領にとっては求心力を維持するうえでも今回の総選挙は絶対に負けられない選挙であった。自ら乗り出し、投票日前に「北朝鮮の核問題や経済条件の悪化をはじめ、様々な困難を克服し、国民生活の安定や経済活性化に尽くすには新たな国会が誕生しなければならない」と訴え、国民に間接的に与党への投票を呼び掛けたのもこの選挙の重要性、重大性を誰よりも痛感していた。

「北風」(北朝鮮絡みの事件)は与党には追い風、対北融和派の野党には逆風になるとの過去のジンクスを信じ、脱北者については時間をかけて公表するとの慣例を破り、北朝鮮レストラン従業員13人の脱北を投票5日前に発表したのも、北朝鮮に対する制裁効果をアピールするとともに反北の保守票を掘り起こすことに狙いがあったからに他ならない。

朴大統領としては強力なリーダシップを発揮するには与党が大勝し、国会を制する必要があった。朴政権の目玉である経済活性化のためのサービス産業発展法や労働改革法案等が国会に提出されているが、国会議員の5分の3の賛成がないと法案を上程できないと定めた「国会先進化法」に阻害され、通せないでいる。最大で69万人の雇用を創出できると訴えているサービス産業発展法案に至っては提出して3年経っても塩漬けされたままだ。

朴大統領は仮に与党が単独で3分の2(180議席)を取れなくても、与党の公認から漏れ、無所属から出馬し、当選した議員らを復党させれば180議席になると読んでいただけに、3分の2どころか、過半数を割ってしまい、第一党の座まで野党に奪われたショックは大きい。

「与小野大」の国会となったことで大統領の求心力は低下し、今後政権運営が厳しくなるだろう。野党の協力なくしては、法案は一本も通らないからだ。また、求心力を失った時の世論の風当たりは半端ではない。

「聖域のない徹底調査」を約束しておきながら手を付けないままの客船「セウォル号」沈没事故の真相究明をはじめ大統領の元秘書らの政府人事介入疑惑、情報機関(国家情報院)による大統領選挙介入疑惑、歴代秘書室長ら与党政治家への献金疑惑などが再度追及されるかもしれない。慰安婦問題をめぐる日本との外交決着が蒸し返され恐れもある。また、対北朝鮮強硬路線も修正を余儀なくされるだろう。

大統領の場合、違法行為で弾劾されない限り、国会から不信任を突き付けられ、解任されることはなく、5年の任期を全うできるが、求心力を回復するには何らかの手を打たなくてはならないだろう。

低迷する経済の活性化は政権浮揚のカンフル剤になるが、任期中に世界経済が好転すれば話は別だが、韓国の独力だけでは限界がある。南北首脳会談も切り札にはなるが、朴大統領を「このアマ」呼ばりしている北朝鮮が受けるかどうかもわからない。

「核とミサイルを放棄しなければ、考えを改めなければ自滅させる」とまで言ってきた、息子ぐらい年の離れた相手に対話を呼び掛けるほど屈辱的なことはない。それでなくても、よりによって金第一書記の国防第一委員長就任日という北朝鮮にとってはお目出度い日に選挙で負けたことで金第一書記にプレゼントを献上してしまったと考えると、腸が煮えくり返っているかもしれない。

朴大統領には残された「奥の手」があるとすれば、かつての大統領のように前任大統領の非を追及することかもしれない。

朴大統領は選挙公約で大統領の親族及び側近の不正腐敗の根絶のための特別検事制度の常設化とともに「大統領親・姻戚及び特殊関係人腐敗防止法」を制定し、特別監察官制度の導入の推進を約束していた。まして、前任の李明博前大統領には大統領の私邸用地の不正購入疑惑をはじめ国家に財源的損失を与えたばらまき資源外交疑惑など疑惑が数々ある。

どうやら、後任の大統領が前任者を裁くというジンクスだけは復活しそうだ。李前大統領は枕を高くして寝られそうにもなくなった。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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