Yahoo!ニュース

死去直前の金日成主席の最後の肉声「電力問題を解決せよ!」

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
金日成銅像(写真:ロイター/アフロ)

北朝鮮は1980年の第6回大会を最後に労働党大会が開催されてない。1986年にやる予定だったが、第6回大会で提示した第二次7か年経済計画(80-86)も、7年後の1987年に再度発表した第三次7か年経済計画(87-93年)も頓挫してしまったことに原因がある。計画期間中の成長率は1990年が-4.3%、91年が-5.2%、92年が-7.6%、93年が-4.3%と、どうにもならなかった。金日成主席は人民に「白いご飯と肉のスープ」を約束したが、「悲願」を果たせぬまま1994年7月8日に他界した。

金主席は亡くなる2日前の1994年7月6日、党の経済幹部らを招集し、最後の演説を行い、経済を立て直すよう訓示していた。父親の訓示を後継者の金正日総書記は「7月6日遺訓教示」として肝に銘じ、2011年12月17日までの17年間の在任中に経済再建に乗り出したが、これまた叶わなかった。以下は、「遺訓教示」と呼ばれる金主席の最後の演説内容(一部)である。

電力の問題

「何よりも、電力問題を早く解決しなければならない。現在、電気を十分に生産できないため各工場や企業所の生産が正常化できない状態にある。電気が不足し、肥料もセメントも満足に生産できないでいる。電力問題を早急に解決するには重油発電所を建設しなければならない。現在の状況下では原子力発電所や水力発電所を建設するだけでは問題を早期に解決できない。原子力発電所を建設するには時間が長くかかる。そうだからといって水力発電所をもっと多く建設するわけにもいかない。水力発電所を建設しても雨が降らなければ稼働できないという制限がある。石炭生産が不足しているため石炭を使用する火力発電所を建設するのも難しい。重油発電所の建設は簡単で運営も楽だ。問題は重油発電所を稼働するための原油供給が可能かどうかだが、金を出して買ってでも良いから供給する対策を取らなければならない」

化学肥料の問題

「化学肥料を生産して、農村に送ってこそ、党の農業第一主義の方針を徹底的に貫徹し、食糧問題を解決することができる。現在、肥料が不足して、農業が少なからぬ支障を受けている。昨年秋から農業で使用する化学肥料を自力で生産する一方で、外国から買ってくるよう強調しているが、実行されてない。これでは農業が良くなるわけがない。共同農場では化学肥料が不足して、稲とトウモロコシに肥料をあげられないでいる。肥料を与えなければ、穂も出ず、育たない。化学肥料がなければ、人糞でも使わなくてはならない」

鋼材生産の問題

「鋼材生産を増やしてこそ建設も沢山できる。現在、鋼材が不足して施工に入った建設対象は完工できないでいる。今、羅津、先鋒経済貿易地帯に投資し、いろいろな施設を建設したいと言ってくる人(外国企業)が増えている。鋼材を生産して、彼らに売れば、少なからぬ金を儲けることができる。金属工場を回転させようとするならばコーコス問題を解決しなければならない。コークスは一か国(中国)だけに依存せずにいろいろな国から買うべきだ。鋼材生産に必要なコークスはロシアからもオーストラリアからも買うことができる。コークスを買うための必要な外貨は金属工業部門で鋼材を生産し、売った金を充てれば良い」

船舶工業の問題

「船舶工業部門は仕事をしっかりとしていない。船舶工業部を作ってだいぶ経つが、その間、船舶工業を発展させることができなかった。私は船舶工業部に大型貨物船を100隻建造する課業を指示したのにその課業が遂行されないでいる。船舶工業を発展させ、大型貨物船を建造すべきだ。我が国(朝鮮半島)は三面海で囲まれているので大型貨物船が多ければ、対外貿易を発展させることができる。特に東南アジアの国々を含めたアジア諸国との貿易を発展させるには大型貨物船が必要だ。東南アジアとその周辺だけでもベトナム、ラオス、カンボジア、タイ、シンガポール、ミャンマー、マレーシア、インドネシア、フィリピン、インド、パキスタン、バングラデシュを含め我が国と貿易可能な国が10か国以上もある。社会主義市場がなくなった条件下ではこれらの国々との貿易を積極的にやらなくてはならない。我々は軽工業製品を多く生産して東南アジアなど外国に売り、それらの国々から我々が必要とする原料や資材を買うべきだ。東南アジアの国々とその周辺諸国に輸出する製品や我が国に持ってくる原料や資材は全部我が国の船で輸送すべきだ。運送費が高いので、軽工業製品を他国の船で運べば、あまり儲けがなく、むしろ損をする。大型貨物船が沢山あれば、外国の貨物も輸送して、金を儲けることができる」

労働力の輸出問題

「大型貨物船を沢山建造すれば、外国に売って、外貨を稼ぐこともできる。一部の幹部らは労働力を売って、外貨を稼ぐ考えをしているが、それは好ましいことではない。労働力は後進国がやることだ。我が国は社会主義工業国なので外国に労働力を売るよりも各種工業製品を生産して、売ることを考えるべきだ。我が幹部らは商売をすることを知らない。我が幹部らは他の国々を貿易のために見て回らなかったので世界的な貿易問題を知らないでいる。貿易幹部らを外国に派遣し、彼らの視野を広めさせ、貿易慣行も知るようにすべきである。私は今後、いかなる国でも我が国と経済合作をやる国があれば、やるつもりだ。もちろん我が国は他の国々と経済合作をしなくても生きていけるが、経済合作をして損することはない」

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

「辺真一のマル秘レポート」

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

テレビ、ラジオ、新聞、雑誌ではなかなか語ることのできない日本を取り巻く国際情勢、特に日中、日露、日韓、日朝関係を軸とするアジア情勢、さらには朝鮮半島の動向に関する知られざる情報を提供し、かつ日本の安全、平和の観点から論じます。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

辺真一の最近の記事