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ヘビースモーカーの金正恩氏が禁煙した!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
煙草を手にした金正恩氏と後方の崔龍海政治局常務委員

ヘビースモーカーの金正恩委員長がどうやら禁煙を始めたようだ。

金正恩委員長は名立たる愛煙家として知られている。金正日総書記の料理人で知られる藤本健二氏によれば、今年33歳の金委員長は未成年の頃から喫煙していた。喫煙歴は足掛け16年間になる。お気に入りは外国のイブ・サンローランと国内産では「7.27」という銘柄の煙草である。

祖父の金日成主席も父の金正日総書記も共に愛煙家だった。金主席は還暦過ぎたあたりからはキューバのカストロ議長に勧められたのか、時たま葉巻のようなものを吸っていた。金総書記は外国製のダンヒルにマルコポーロを好んで吸っていた。

二人ともヘビースモーカーであったが、それでも喫煙の際は場所柄を弁えていた。ところが、ヘビースモーカーのDNAを引き継いだ金正恩委員長の場合、TPOに関係なく、喫煙する。どこに行っても、煙草を離さなかった。歩きながらでも、また座っていても目の前のテーブルには必ず灰皿が置かれていた。

驚いたのは、昨年2月に元山の愛育院を訪れ時のことだ。幼児らが集まっている愛育院でも右手に煙草をくわえていた。さらに音楽会や舞踏会でも、妊婦の李雪主夫人が隣に座っていても、また元老や長老らの前であろうが、おかまいなしに平気で吸っていた。

昨年9月3日のモランボン楽団の公演では両脇には黄秉西人民軍総政治局長と金己男党政治局員が座っていたが、黄炳誓局長は76歳、金己男政治局員に至っては87歳だ。若輩の金第一書記からすれば、二人は父親、祖父のような存在だ。ところが、場内でタバコを吸っていたのは金委員長だけだった。

いかにヘビースモーカーとはいえ、映画館や音楽会などでの喫煙はあってはならない。また、部下とはいえども、年寄りの前での喫煙は、朝鮮半島の礼儀作法として好ましくはない。それでも、金委員長だけは別格で、喫煙が許された。喫煙は金委員長にとってストレスの発散の賜物であるからだ。

韓国紙・朝鮮日報は(2015年9月26日付)によると、韓国政府は金委員長の肥満が進み、体形や足取りから、過去5年間で体重が約30キロ増えて現在は約130キロと分析している。肥満が進行すれば、循環器系の病気につながるため、もしかすると、肥満防止のため欠かさないのかもしれない。

ほぼ中毒に近いと言っても過言ではないヘビースモーカーの金委員長が禁煙を始めたのではないかと囁かれ出したのは、4月24日付の労働新聞に「煙草が人体に与える影響」との記事が掲載されたことによる。記事には金委員長が「革命をやろうとするな、体も健康でなければならない」と言ったと書かれてあった。ということは自ら音頭を取って禁煙したことになる。

その後、労働新聞には喫煙が原因による肺癌発生に関する記事(5月15日付)が掲載され、平壌を中心に全国各地に禁煙研究所が設立されるなど禁煙を本格的に奨励している事実も判明した。

国営通信の朝鮮中央通信が5月17日に伝えたところによる、喫煙研究所は喫煙者の相談窓口となっており、喫煙者に対しては世界保健機構(WHO)が認定した禁煙栄養錠剤や禁煙パイポなど禁煙に関する健康製品や喫煙によって発生する疾病を治す医薬品などを補給しているとのことだ。

禁煙キャンペーンは金委員長の許可なく勝手には始められない。ということは、金委員長が率先して禁煙したことの証とも言える。

現に金委員長が手に煙草をくわえている写真は2か月以上にわたって配信されていない。煙草を手にしている姿は3月15日の弾道ロケット大気圏再突入環境模擬試験に立ち会った時が最後だ。それ以来、2か月以上もその種の写真は公開されてない。

金委員長はこのまま忍耐強く、禁煙を続けられるだろうか?結論を先に言えば、父・金正日総書記の前例からして、難しいだろう。

父親の金総書記は2001年に訪中した際に中国の幹部に「健康に悪いので禁煙した」と語っていた。当時、北朝鮮のメディアは「喫煙は心臓を打ち抜く銃と同じだ」との金総書記の言葉を紹介し、今と同じように国民に禁煙を奨励していた。

しかし、金総書記は2009年に再び煙草をふかし始めた。同年4月14日、平壌の中心を流れる大同江の辺で行われた金日成主席生誕97周年を祝う花火大会を鑑賞した際に金総書記のテーブルの前に灰皿が置かれていたことから判明した。そして、この年の9月にロシアの文化使節団を率いて北朝鮮を訪問し、金総書記と面会した音楽家である団長のパーペル・オフシャンニコフ氏が「米国の煙草(マルボロ)を吸っていた」と証言したことで決定的となった。

長年禁煙していたタバコを復活したことについては「太り過ぎないため」の説と、激務による「ストレス軽減のため」の説が交錯していたが、理由はどうであれ、それから2年3カ月で金総書記は父・金日成主席同様に心臓発作を起こして急死してしまった。

肥満体の金委員長がいつまで禁煙を続けられるのか、いつ再び喫煙するのか?健康問題との関連で今後注目されることになるだろう。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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