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北の「核の暴走」を傍観してしまったオバマ大統領の「過失」

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
(写真:ロイター/アフロ)

オバマ大統領は政権発足直後の2009年4月5日、EU初の首脳会議のためチェコを訪れた際、首都プラハで演説し、「核兵器を使用したことがある唯一の核保有国として行動する道義的責任がある」として、米国が先頭に立ち、核兵器のない世界の平和と安全を追求するとの決意を表明した。この発言は国際社会から拍手喝さいを浴び、同年10月にはノーベル平和賞を受賞した。

今日、オバマ大統領は米国の現職大統領としては初めて被爆地の広島を訪れ、平和記念公園で献花し、その際再度「核兵器なき世界」をアピールするようだ。しかし、オバマ大統領の意気込みとは裏腹に現実には核廃絶にはほど遠く、むしろ核拡散の危機を招いているのが現状である。その「悪しき象徴」が北朝鮮の核開発である。

オバマ大統領はなぜ、北朝鮮の核開発を止められず、逆に拍車を掛けてしまったのか?

オバマ大統領も「大統領に当選したら核問題で(金正恩委員長と)話し合う用意がある」ことを示唆したドナルド・トランプ大統領候補と同じように「当選すれば敵性国家の指導者らと条件を付けずに会談する」と発言していた。「オバマ外交」を推進するヒラリー・クリントン国務長官も「平壌などを訪問して、北朝鮮の外相と会談する用意があるか」との人事聴聞会での質問に「大統領と同じで米国の国益になるならば私が選択する時期と場所でいかなる外国指導者とも会う用意がある」と語っていた。

クリントン長官は就任するや「ブッシュ政権の北朝鮮政策の最大の過ちは、(北朝鮮と)対話をせず、北朝鮮に核実験に踏み切らせてしまったことだ」と述べ、「北朝鮮の核拡散を阻止するため至急に行動するし、そのため6者会談と2者(米朝)直接外交を推進する」と宣言した。しかし、ヒラリー長官は外相会談を一度も開催できぬままホワイトハウスを去った。6者協議にいたっては、ブッシュ政権下の2008年12月を最後にオバマ政権下のこの8年間、一度も開催されてない。核問題も、ミサイル問題も、北朝鮮との対話も共和党のブッシュ前政権の時代よりも後退してしまった。

オバマ政権の最大の過ちは北朝鮮の核開発にブレーキを掛けられず、むしろアクセルを踏ませてしまったことだ。テポドン発射(2009~2016)を4度、核実験を3度(2009年、2013年、2016年)も傍観してしまったことだ。ブッシュ政権下では長崎に投下された型のプルトニウム核爆弾止まりだったのが、オバマ政権下では広島に投下されたのと同種のウラン型、さらには「水爆」と称する実験まで許してしまった。

オバマ大統領の北朝鮮政策の柱である「戦略的忍耐」は核の小型化や弾道ミサイルの開発、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の開発のための時間稼ぎに利用され、ブッシュ政権が苦労して合意を取り付けた6者合意を事実上、破綻させてしまった。北朝鮮の大量破壊兵器開発を遅らせる、あるいは阻止するという一点においては過去の歴代政権に比べて明らかに怠慢である。

クリトン政権は一期目の1994年には米朝対話を通じて「ジュネーブ合意」を交わし、少なくとも寧辺の原子力施設を凍結させ、核爆弾に使用される使用済燃料棒(8千本)を密封させた。軍事施設として査察を拒んでいた疑惑の施設(再処理施設や核燃料貯蔵施設)へのIAEA(国際原子力機構)の特別査察も受け入れさせ、NPT(核不拡散条約)にも残留させた。

「ジュネーブ合意」についてはいろいろ問題が指摘されているが、それでもクリントン政権時代の国防長官だったペリー氏は「この合意がなかったら、北朝鮮は50~200個の核爆弾を手にしていただろう」(ワシントン・ポスト、2003年7月3日付)と述懐していた。

そして、二期目の2000年にはミサイル問題解決に向けての米朝共同コミュニケを発表し、北朝鮮に「ミサイル交渉中はすべての長距離ミサイルの発射を中止する」ことを約束させている。曲がりなりにも2006年7月まで「衛星」と称する長距離弾道ミサイルの発射を留保させていた。

後任の共和党のブッシュ政権も発足当初は「イラクの次は北朝鮮だ。金正日のような暴君による暴政を終息させる」と強硬姿勢だったが、二期目は外交的解決に軸を置き、2005年9月には6か国協議で合意を取り付け、北朝鮮にすべての核兵器及び既存の核計画を放棄させ、NPT及びIAEAの保障措置に早期に復帰させることを確約させている。

実際に2007年7月から寧辺の核施設の稼動を中断させ、核施設の無能力化作業も進め、追放されていたIAEA要員を現場に復帰させ、再処理施設への封印と監視カメラを再設置していた。2008年6月27日には原子炉冷却塔も爆破させている。

北朝鮮の無能力化は5メガワット実験用原子炉、放射化学実験室(再処理施設)、核燃料棒製造施設など寧辺にある施設が対象で、11の無能力化工程のうち8工程が終了していた。結局、任期切れとなり、最後の6か国首席代表会議(2008年12月)で検証の枠組みとエネルギー支援の完了時期について合意に達しなかったものの核無能力化とエネルギー支援の提供を平行して実施することを再確認して、退任している。

北朝鮮の3度目の核実験から1か月後の2013年3月11日、ドニロン米大統領補佐官(当時)はニューヨーク市内でオバマ政権のアジア太平洋政策をテーマに講演し、「米国は北朝鮮が核保有国となるのを容認しないし、米国を攻撃目標にできるような核ミサイルを開発しようとするのを傍観もしない」と表明していた。

この発言から3年後の今年1月6日、北朝鮮は4度目の核実験を、2月7日には6度目の長距離弾道ミサイル(テポドン)の発射を強行している。結果としてオバマ政権は北朝鮮に核実験もミサイル発射も好き勝手にさせてしまっている。

オバマ大統領はこのまま何もしないまま、次の大統領(ヒラリー?トランプ?)にツケを残し、ホワイトハウスを去るつもりなのだろうか?

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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