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南北「渡り蟹合戦」の睨み合いが始まった!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
韓国の警備艇

南北の睨み合いが始まった。黄海(西海)で渡り蟹シーズンが到来したためだ。

海の38度線と称される西海(黄海)のNLL(北方限界線)一帯は、5月下旬から渡り蟹の漁場と化している。

南北の漁船だけでなく、中国の漁船まで群がってくる。自国の漁船が越境、あるいは拿捕されないよう、また中国漁船の不法操業を取り締まるため南北の警備艦が巡回するが、やっかいなことに北朝鮮は陸の三十八度線(軍事境界線)と違い、NLLを認めず、自国の領海であると主張している。

そのためNLL付近では南北艦船による衝突がこれまでに過去4度も起きている。そのうち2回は6月に発生し、「海戦」にまでエスカレートした。その延長戦で2010年には韓国の哨戒艦が北朝鮮潜水艦の魚雷で撃沈され、韓国の領土、延坪島も砲撃されている。今年ももしかすると撃ち合い、あるいは海戦に発展しかねない事件が一昨日(27日)起きた。

北朝鮮の取締船と漁船、各1隻が27日午前7時半ごろ、黄海の韓国に帰属する延坪島付近のNLLを越えて韓国側領海を700~800m侵犯したため韓国軍は通信で警告し、続いて40ミリ艦砲5発による警告射撃を行ったところ、「二隻は北側に引き返した」と韓国合同参謀本部は発表した。

これに対して北朝鮮は即刻、軍最高司令部が「韓国による計画的な挑発である」と主張し翌28日には軍総参謀部が「韓国の艦艇数隻が先に海上軍事境界線を侵犯し、北側の非武装連絡船を照準射撃した」と反発。韓国に謝罪を求めるとともに、今後韓国側が黄海の係争水域を「たとえ0.001ミリメートルでも侵犯することがあれば、警告なしで照準射撃する」と予告した。

韓国は「警告射撃は正当な手続きに則った正常な作戦活動の一環である」として北朝鮮の主張を一蹴している。また、NLLをめぐる北朝鮮のこの種の「脅し」は毎度のことなので無視する構えだが、それでも北朝鮮が挑発した場合、「断固懲罰する」と合同参謀本部は応酬している。

北朝鮮のNLL侵犯の理由については、偶発によるものか、それとも何らかの意図があってのことか、韓国でも分析、評価が分かれている。

前者は、当日は視界が悪かったことから北朝鮮の漁船が蟹を追ってNLLを越えてしまったため北朝鮮の取締艇がこれを防ごうとしてNNLLを侵犯してしまったとの見方である。

一方、後者の見方は、南北軍事会談の必要性をアピールするために警備艇を意図的に侵犯させ、韓国軍の警告射撃を誘発したというものである。北朝鮮が軍事対話を提案してきた直後に「侵犯事件」が発生したことがその根拠となっているようだ。

北朝鮮は「軍事境界線と西海の地域(NLL付近)で軍事的緊張と衝突の危険を減らすための、実質的措置が必要」であるとして国防委員会が20日に、人民武力部が21日、24日に、また対韓部署の祖国平和統一委員会も22日に声明や談話を出して、再三にわたって韓国側に軍事会談を呼び掛けていた。

結果として、韓国への対話攻勢はわずか一週間で暗転し、人民軍西南前線部隊が報復態勢に入ったことで再び軍事対決の局面に取って代わってしまった。

今回の「侵犯事件」が偶発的なものであれば、一過性に終わるが、意図的なものであれば、軍事衝突に発展する可能性も否定できない。

昨年は幸いなことにNLL付近ではのもめごとが起きなかったが、一昨年は5月20日から24日にかけて、二度撃ち合いがあった。

韓国軍が20日に中国漁船の不法操業を取り締まるためNLL越えた北朝鮮の警備艇に10発の威嚇射撃をやったことへの報復なのか、北朝鮮西南戦線司令部が翌21日に「NLL付近の韓国の艦艇は今後、予告なき攻撃の対象となる」と威嚇したうえで3日後に南側で哨戒活動中の韓国艦艇に向け砲弾を2発撃ち込んでいる。幸い、当たらなかったが、韓国はお返しとばかりNLLの北側に展開中の北朝鮮艦艇に向け5発撃ち返したのは記憶に新しい。

韓国軍は哨戒艦沈没事件後「一発撃ったら、10発、100発で報復する」と北朝鮮に警告を発している。金寛鎮国防長官(当時)は「北朝鮮が追加挑発すれば、自衛権の次元から航空機を利用し、(砲撃基地を)爆撃する」とまで公言していた。

韓国軍のマニュアルに従えば、北朝鮮が韓国に向け発砲すれば、被害の発生に関係なく、爆撃機を動員して発射基地及び支援勢力に攻撃を加えることになっている。一昨年の場合、大事にいたらなかったのは、北朝鮮が沿岸から撃ったのか、海上の艦艇から撃ってきたのかわからなかったため韓国軍が攻撃をエスカレートしなかっただけのことである。

韓国軍は西海に2艦隊所属の戦闘艦160余隻と潜水艦10余隻を保有している。さらにNLL海上での衝突に備え、5000トン級の韓国型駆逐艦を含め哨戒艦、護衛艦、高速艇を増強配置するなど戦力、装備面では圧倒的に優勢とされている。

しかし、昨年北朝鮮は延坪島に近い無人島の葛島(カルド)に一砲で40発発射可能な122ミリロケット砲の陣地を築くなど戦力を増強した。地対艦ミサイルや艦対艦ミサイルの性能向上に加え、延坪島から4.5キロしか離れてない葛島に射程距離20kmのロケット砲の陣地が構築されれば、延坪島駐屯の韓国海兵部隊だけでなく、延坪島の南16キロまでの海上で哨戒活動を行う韓国艦艇にも大きな脅威となる。

一貫してNLLの無効を叫ぶ北朝鮮は人民軍西南前線軍司令部の名で昨年5月8日、今後NLLで哨戒活動をする韓国艦艇を「予告なく照準打撃する」との通知文を韓国側に送り、13日から3日間ぶっ通しで夜間砲撃訓練を実施していた。NLL付近で夜間砲撃訓練は極めて異例で、過去に一度もなかったことだ。

北朝鮮はNLLを以南に位置する西島5島の海域に一方的に境界線を設定し、軍事境界線と主張している。そして、今回、北朝鮮軍総参謀部は「軍事境界線を侵犯すれば、警告なしで照準射撃する」とそのハードルを上げている。

北朝鮮が局面打開のため奇襲的な局地行動を起こさないとは断言できない。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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