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4度目の「ムスダン」発射を強行した理由は何か

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
軍事パレードに登場した「ムスダン」

北朝鮮が再び「ムスダン」を発射したようだ。

「ムスダン」の射程距離は推定3000km~4000kmで、核弾頭搭載可能な中距離弾道ミサイルである。ターゲットは米太平洋上の米軍基地、即ちB-52核戦略爆撃機やF-22ステルス戦闘機が配備されている太平洋のグアムである。

北朝鮮は今年2月23日、最高司令部の重大声明で朝鮮半島有事の際の第一次攻撃対象が韓国の大統領府(青瓦台)と韓国国内の基地及び軍事施設で、第二次攻撃対象が「アジア太平洋地域の米軍基地と米本土である」と公言していた。

実際にこの声明に従い3月から韓国を標的にした射程500kmのスカッドミサイルと日本を照準に定めた射程1300kmのノドンミサイルの発射実験を行い、成功させたが、金日成主席の生誕日の4月15日に試みた「ムスダン」は無残にも失敗。28日に再度挑戦し、午前、午後と2度発射したもののこれまた失敗に終わった。失敗の原因究明と再発射までは最低でも数カ月は要するとされていたが、僅2週間での再発射は5月6日の党大会開催に間に合わすために無理をしたとの説がある。

今回はおよそ1か月ぶりの発射だ。なぜ、このタイミングなのか?

一つに、伊勢志摩サミットでのオバマ大統領の演説との関連だ。

G7では予想とおり、強烈な対北非難声明が出され、オバマ大統領も北朝鮮の核を問題視していた。

北朝鮮はサミット終了と同時に外務省スポークスマンがオバマ大統領の発言を「米穀が核の棒をかざし、対朝鮮敵視政策に執拗に固執し、我々の核放棄を夢見るのはゆで卵からひよこが生まれるのを待つような妄想に過ぎない」と揶揄し、「米国の核脅威と横行が続く限り、自衛的核武力を質量的に強化する」と述べていた。

次に、北朝鮮が韓国に呼びかけていた6月初旬までの軍事会談開催の提案が拒否されたことだ。

北朝鮮は党大会後韓国に断れるのを承知のうえで猛烈な対話攻勢を掛けていた。最高権力機関である国防委員会が5月20日に軍事会談の開催を求め、翌21日には所管の人民武力部が韓国国防部に対して、「実務接触を5月末、または6月初めよう」と提案したが、「北朝鮮の非核化が先である」と韓国は相手にしなかった。北朝鮮からすれば韓国の拒否は想定済で、格好のミサイル発射の口実となる。

また、北朝鮮の警備艇に韓国軍が発砲したことも無関係ではないようだ。

北朝鮮の警備船と漁船が5月27日、黄海の韓国に帰属する延坪島付近のNLLを越えたとして韓国軍が40ミリ艦砲5発で警告射撃を行ったことに対して北朝鮮は即刻、軍最高司令部が「韓国による計画的な挑発である」と主張し、翌28日には軍総参謀部が韓国に謝罪を求めるとともに、北朝鮮が一方的に設定した海上の軍事境界線を「たとえ0.001ミリメートルでも侵犯することがあれば、警告なしで照準射撃する」と予告していた。こうしたことから北朝鮮の警備艇の「NLL侵犯」は偶発的なものではなく、意図的な狙いがあったとの見方が支配的である。

さらに、来月6月28日には日米韓による北朝鮮のミサイル警報(防御)訓練が初めて実施されることも意識しているのかもしれない。

日米韓の合同訓練は北朝鮮のミサイル発射を想定して、探知追跡する訓練である。従って、北朝鮮はその前にやる必要性が生じたものとみられる。

最後に、北朝鮮の「200日戦闘」とも関連しているのかもしれない。

北朝鮮26~28日に党、国家、経済、武力(国防)機関幹部会議を開き、党大会で提示された「国家経済発展5カ年戦略」の「突破口」を開くため「200日戦闘」の開始を宣言したが、スタートが6月1日であることからその景気づけとしての発射との見方である。

「ムスダン」の発射は3月3日に採択された国連安保理制裁決議「2270」の違反である。

安保理は現在、制裁決議後に行われた北朝鮮の度重なるミサイル発射(単距離、ノドン、ムスダン、潜水艦弾道ミサイル)への対応を協議中である。本来ならば、報道向けの議長声明が速やかに出されるところだが、ロシアが待ったを掛けていることから遅れている。更なる「ムスダン」の発射となると、議長声明では済まなくなる。追加制裁は必至だ。そうなれば、金正恩党委員長が党大会で公約した人民生活向上のための5か年経済計画は頓挫しかねない。それでも強行する理由は何か?

第一に、ミサイルの開発は労働党の基本政策、方針であることだ

金委員長は3月15日に「早い時期に核弾頭装着が可能なあらゆる種類の弾道ロケット(ミサイル)試験発射を断行せよ」と指示していた。また、党大会では核と経済開発を並行して進める「並進路線」を恒久的な戦略路線にすると党規約に定め、「核戦力を質量ともに拡大する」と決定したばかりだ。ハッタリでないことを立証する必要性があるのだろう。

第二に、金委員長の体面がかかっていることだ。

高出力固体ロケットエンジン地上噴射実験が成功した際に金委員長は「敵対勢力を無慈悲に打ちのめすことのできる弾道ロケットの威力をより高めることができた」と豪語したが、3度の失敗で米国から「使い道のないシロモノ」「何の脅威にもならない」と「欠陥品」扱いされてしまったわけだから面子が潰れた格好となっている。「張り子のトラ」では何の脅しにもならない。

金正恩第一書記はこれまで一連のミサイル発射実験をすべて現地で参観している。4月23日の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の実験を含めいずれも立ち会ったミサイル発射は「成功した」と発表してきた。しかし、4月15日と28日の「ムスダン」発射については何の報道もない。失敗したから発表できなかったものと思われる。

成功すれば、大々的に発表し、失敗すれば再び黙殺することになる。

さて、今回は?

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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