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韓国を翻弄させた「金正恩死亡」デマ情報

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
「イースト・アジア・トリビューン」

金正恩朝鮮労働党委員長が「爆弾テロで死亡した」とするデマが駆け巡り、ソウル外国為替市場に一時緊張が走った。さらに韓国のメディアが一斉にこの怪情報に飛びついたことで韓国政府当局も振り回される始末となった。

ソウル外国為替市場では噂が広がった17日午前10時47分頃からウォンが対ドルで急落。前日終値より6.6ウォン安の1ドル=1178ウォンをつけた。韓国コスタック市場では防衛産業であるB社の株が9%、S社の株も7%とそれぞれ急騰。結局デマであることが分かり、その後市場は安定を取り戻した。

韓国政府当局は韓国メディアが確認を求めたため対応に大わらわ。国防部は爆弾テロの噂について「信憑性は高くないと把握している」とコメントしたものの、確信がないのか、断定は避けた。しかし、所管の統一部は「情報を流した報道媒体をみればわかるだろう。信頼できるものではない」と完全否定。

今回の「金正恩死亡説」の震源地は上海にある「イースト・アジア・トリビューン(East ASIA TRIBUNE)」というインターネット媒体で「North Korean Leader Kim Jung-un Dead After Apparent Suicide Attack」という見出しの記事がネットに上がると、「金正恩が死んだって」との流言飛語が拡散した。

外国のメディアが発信するこの種の記事は本来ならば、眉唾物が多く、相手にされることはないのだが、今回は記事の内容が比較的に詳細にわたっていたことから噂が噂を呼び、伝播したようだ。

北朝鮮にまつわるこの種の怪情報は常に「いつ、どこで、誰に、どうやって」が脱落していたが、16日付けのこの記事には「金委員長が午後2時に平壌普通江区域で開かれたある記念式典に参加した際、一人の女性が警護員の警戒網を潜り、爆弾を炸裂させた」と報じ、加えて「テロ発生後、金委員長は病院に運び込まれたが、到着した時はほぼ死亡していた」と伝えたことで乗っかってしまったようだ。

また、ご丁寧にも「関連ニュースを平壌管制媒体の朝鮮中央テレビが今日早朝(現地時間16日)流した」と伝えていたことから引っかかってしまったようだ。朝鮮中央テレビも朝鮮中央放送もその種の情報は流してないし、仮に事実であったとしても流すことはない。

この日(16日)の朝鮮中央放送と朝鮮中央テレビは金委員長が「平壌穀産工場を視察した」と報じただけである。

朝鮮中央テレビによると、金委員長は同工場の近代化の最大の成果として「設備の国産化の割合を95%以上保障したこと」とした上で、設備がどれも「美男子のようだ」と満足感を示したそうだ。

北朝鮮は金正日時代から「米国は革命の首脳部にテロ(暗殺)を準備している」とみてテロを警戒しているのは事実であるが、実際に発生したのは2004年4月に金正日総書記の専用列車が通過した直後に龍川駅で大規模な爆破事件が起きた一件のみである。

北朝鮮はこの時以来「米帝とその追随者が専門的なテロ情報組織を作り、スパイとテロ分子を我が国に浸透させている。また、最先端の殺人装備をそこに集中させている。革命の首脳部を擁護護衛する事業において千回のうちたった1回でもミスがあってはならない。全ての問題を革命の首脳部護衛の見地から注意深くみなければならない。そのようにしなければ取り返しのつかない重大なことになりかねない」として、蟻一匹入る余地のないぐらい金正日ファミリーに対する警護を徹底されているので、女性が体に爆弾を巻いての爆弾テロは現実的に不可能である。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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