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日本が「ムスダン」を迎撃すれば、北朝鮮は報復するか

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
(提供:U.S. Navy/アフロ)

北朝鮮が日本海に向けて中距離弾道ミサイル「ムスダン」発射の動きを見せていることから日本政府は迎撃ミサイルSM―3を搭載したイージス艦による警戒監視を強化する一方、自衛隊に迎撃を可能とする破壊措置命令を出したが、本日(22日)早朝に発射された「ムスダン」と思われるミサイルはまたもや失敗したようだ。失敗が事実ならば、4月15日の1回目の発射から連続して5度失敗したことになる。

破壊措置命令は、弾道ミサイルが日本に飛来する恐れがあり、日本の領土、領海に落下し、人的被害、物的損害を及ぼすような場合に発令される。不測の事態に備えた、自衛隊法82条の3に規定されている自衛隊の行動であり、日本領空又は公海において弾道ミサイルの撃破を行うことができる。

これまでも北朝鮮のミサイル発射の兆候の際には発令されてきたが、ミサイルの追跡は行われたものの実際に破壊したことはない。その理由は、日本海に面した舞水端基地から日本列島に向け発射された2009年4月のテポドン2号を最後にミサイルが日本の上空を飛来していないことによる。

テポドンは2012年4月と12月、さらには2016年2月と3度発射されているが、いずれも、舞水端基地からではなく、発射黄海(西海)に面した東倉里基地からで、そのコースは南、即ち石垣島、宮古島など南西諸島からフィリピン沖に向けられていた。エンジントラブルなど器機に故障が起き、コースが外れない限り、日本の領土、領海に落下する可能性は低かった。

一方、テポドンについて北朝鮮は「平和目的のための人工衛星の打ち上げである」と主張している。「どの国にも宇宙を平和利用できる権利を有する」として、衛星発射は自主権に属する問題と主張している。従って、衛星を撃ち落すことは、国際法上許されないとして、迎撃を「宣戦布告」とみなし、日米韓によるテポドン迎撃については報復を示唆している。

日本による迎撃は、切り離されたブースターが誤って日本の領土、領海に落下する場合に備えての、国民の生命と安全を守ることを目的としたものだ。「飛翔体」の落下は、厳密に言えば、領土、領海、領空侵犯に該当するので、迎撃は国際法的に許される。北朝鮮も、そのことは十分に認識しているはずで、従って北朝鮮による報復は日本が備えている落下物への迎撃を指しているものではない。

北朝鮮が言う報復とは、「人工衛星」が宇宙空間に向かって上昇中に迎撃された場合を指す。例えば、第一段のブースターが切り離される前後にイージス艦のSM-3で「人工衛星」が撃ち落された場合は、報復の可能性は極めて高いと思われる。

米韓合同軍事演習の真っただ中にあった2009年4月、北朝鮮のテポドン発射の動きにゲーツ米国防長官(当時)は「発射すれば、迎撃も辞さない」と警告した際、人民軍参謀部は「(米国が)人工衛星に迎撃行動をとれば、迎撃手段だけでなく、本拠地にも報復打撃を開始する」との声明を出していた。実際、国防委員会の朴林洙政策局長(当時)は発射直後に訪朝した米元高官に対し「迎撃されれば、日米のイージス艦を撃沈する態勢だった」と伝えていた。

当時、日本もミサイル本体や燃焼後のブースター(推進エンジン)が日本の領土、領海に落下する事態に備え、日本海に「ちょうかい」など2隻のイージス艦を配置、米軍と共同でミサイル防衛(MD)システムによる迎撃も検討していた。

「イージス艦撃沈」の指示は最高指導者の故金正日総書記ではなく、父親と共に発射に立ち会っていた当時まだ26歳だった後継者の金正恩氏から出されていた。実際に金正恩氏の29歳の誕生日にあたる2012年1月8日に放映された金正恩活動記録映画をみると、金正恩氏はミサイル発射を父親と共に平壌の管制総合指揮所で参観していた。映画のナレーションでは「仮に迎撃された場合、戦争する決意であった」との金正恩委員長(当時党中央軍事委員会副委員長)の言葉が流れていた。

当時、北朝鮮が日米のイージス艦に対する攻撃手段として特攻隊を編成し、スタンバイさせていたことが昨年3月に金第一書記が航空部隊を視察した際に朝鮮中央通信が「(2009年4月の)光明星2号(テポドン)の発射成功を保障するため作戦に参加し、偉勲を発揮した14人の戦闘飛行士らの偉勲を称えた記念碑の前で記念写真を撮った」と報道したことで判明した。

偉勲を称えられた14人は「党の命令貫徹のため死を覚悟し、決死戦に出た戦闘飛行で肉弾自爆した」と紹介されていたが、実際には自爆はなく、飛行訓練で1人が亡くなっただけで、残り13人は健在だった。

では、ミサイル「ムスダン」の場合でも報復するのだろうか?、できるのだろうか?

「ムスダン」は北朝鮮も認めているように軍事用のミサイルである。軍事パレードに登場させているし、このミサイルの攻撃目標が米太平洋上の米軍基地、グアムであることを北朝鮮も隠していない。

グアムが標的なら、飛行コース上、日本列島を飛び越えなければならない。領空、領海を侵犯となるので迎撃は国際法的に何の問題もない。領空、領海外であっても、ミサイルが日本に向かって飛んで来るわけだから自衛権の行使としての迎撃できる。

北朝鮮と日本は交戦状態にはないので、日本が北朝鮮に向けてミサイルを発射しない限り、北朝鮮は反撃も、報復もできない。従って、北朝鮮が唯一、反撃、報復する可能性があるのは、自主権の侵害、即ち「衛星」と称する「テポドン」が迎撃された場合に限られているようだ。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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