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国連の制裁は北朝鮮に効いているのか?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
国連安保理で対北制裁決議採択(写真:ロイター/アフロ)

北朝鮮の核とミサイル開発を阻止するため国連安保理は強力な経済制裁を科し、北朝鮮を孤立させるためこれまた強力な外交圧力を掛けている。

国連安保理の制裁決議は2006年10月の「1718号」、2009年6月の「1874号」、2013年1月の「2087号」、2013年3月の「2094号」、そして今年(2016年)3月の「2270」と5回採択されている。イランの核開発は4回で止まったが、北朝鮮の「暴走」は止まらない。

特に「2270」には船舶と航空機の規制、原油供給の規制、資源取引の規制、全ての武器取引の禁止、金融取引の制限拡大、不法行為の外交官追放、贅沢品の規制対象の拡大が盛り込まれるなど「過去20年で最強の制裁決議」(サマンサ・パワー駐国連米大使)と評価されている。

「2270」では制裁対象として軍需工業部、偵察総局、原子力工業省、宇宙開発局など20の団体と、李万建需工業部部長や崔春植第二自然科学院長、玄光一宇宙開発局開発局長ら12人が追加され、トータルで団体は32、個人28人となった。「制裁決議」をレッドカードに例えるならば、5枚も出しているのに北朝鮮は退場せず、核・ミサイルゲームを続けていることになる。

国連安保理の非難決議も議長声明も、また報道向け声明もこれまでに何度も出されてきた。

「2270」以後だけも、「スカッド」の発射(3月10日)、「ノドン」の発射(3月18日)、「ムスダン」の発射(4月15日)、発射潜水艦弾道ミサイル(SLBM)の発射(4月23日)、2度目の「ムスダン」の発射(4月28日)、さらに3度目の「ムスダン」の発射(5月31日)の度に国連安保理はその都度、強く非難する報道機関向けの声明を発表している。これまたイエローカードに例えるな、この3カ月間だけですでに5枚も出していた。それでも、北朝鮮は言うことを聞かず、6月22日に「ムスダン」の発射を強行している。

北朝鮮のミサイル乱射を止められないことから韓国の国会は24日、外交統一委員会全体会議に尹炳世外相を呼び、国連の経済制裁や韓国独自の制裁が北朝鮮の核やミサイル開発の阻止に役立っているのかどうか、質す場面があった。

冒頭に質問に立ったのは野党第一党の「共に民主党」のキム・ギョンヒョプ議員で「大統領や与野党の院内代表に対北制裁の可視的な成果を報告したことは?」と質した。これに尹炳世外相が「海運分野、外交分野、金融分野、(北朝鮮と)ウガンダなどアフリカ諸国との人的交流の中断や各種教育訓練の中断などで実際に効果があった」と答弁すると、キム議員から「それは制裁の方法であって、そうした制裁方式によって北朝鮮にどのような変化が起きたのか、打撃があったのかを聞きたいのだ」と畳みかけけられた。

尹外相はそれでも「金正恩(委員長)自らが、党大会で国際社会の制裁を批判する発言を行っており、(北朝鮮の)国防委員会も国連の歴史上最も強力で野蛮的な制裁措置を掛けられていると言っている。北朝鮮も痛がるような発言をしている」と北朝鮮の「言動」を紹介しながら制裁が効果を上げていることを説明した。

ところが、与党「セヌリ党」のソ・チョンウォン議員までもが「国民は国連の強力な制裁と開城工業団地の閉鎖措置後に(北朝鮮に)どのような変化があったのか知りたがっているのだ」と質問をし、「制裁決議後も(北朝鮮は)ミサイルを発射しているわけだから外交のやり方も変える必要があるのでは」と政府に注文を付ける始末だった。

与党議員からの質問に尹外相は「制裁効果が出るまでには時間がかかるという側面はある」として、4月の中朝貿易が22%以上も減少したこと、中でも北朝鮮の石炭輸出が40%も減ったこと、さらにはロシアの1月から3月までの対北貿易が80%も大幅減少した実例を挙げながら、朴槿恵政権が主導している制裁が徐々に効果を上げていると、議員らに理解を求めた。

しかし、キム・ギョンヒョプ議員は収まらず「北朝鮮の経済に実質的にどのような影響を及ぼしたのかが問題なのだ。可視的な成果と効果分析がなってない。北朝鮮が制裁でどのような影響と打撃を被ったのか、科学的な分析が必要だ」と尹外相を攻め立てた。

また、同僚のパク・ビョンソク議員も「問題は、圧迫を続ければ、本当に北朝鮮の態度を変えることができるのか?ということだ。国際社会の制裁が多角的に行われている瞬間にも北朝鮮は核とミサイルを高度化しているではないか。時は我々に味方しているのか?イランと異なり、北朝鮮はすでに閉鎖経済なので制裁に痛みを感じないようだ。戦争中でも対話をするわけだから、対話を通じて要求事項の接点を探すべきでは」と対北政策の転換を求めた。

「セヌリ党」のウォン・ユチョル議員も「国連の安保理制裁決議に実効性があるのか?全くないとは言わないが、新たな接近方式の制裁とか、挑発ができないようにする抑止策が必要では?6か国協議の実効性が失せたなら、新たな協議体を政府は主導すべきではないか」と問題解決のための新たなアプローチを模索すべきと提言した。

尹外相は与野党の質問攻めに「米国をはじめ多くの国々は北朝鮮の欺瞞行為に照らし合わせて、今は圧迫に重点を置くべきであるという点で一致している。北朝鮮を非核化協議のテーブルに引き戻すためにも圧迫するだけ圧迫してみよう」と理解を求めたが、与野党の外交委員らは納得しなかったようだ。

国連の制裁で北朝鮮が干し上がり、音を上げる日が訪れるのか、制裁を主動した当事国の韓国が半信半疑とは、困ったものだ。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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