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朝起きたら、ミサイルが発射されていた! 北朝鮮のミサイル乱射に麻痺か

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
北朝鮮の中距離弾道ミサイル「ムスダン」

北朝鮮が早朝に黄海北道の黄州一帯から日本海に向けて弾道ミサイルを3発発射した。飛距離が500km~600kmならば、3月10日に日本海に面した元山から2発発射された射程500kmの弾道ミサイル「スカッド」の可能性が考えられる。

射程500~600kmの単距離ミサイルならば、日本の安全に直接的な影響を及ぼすことはない。心配無用だ。しかし、一つ気になることがある。最近の北朝鮮のミサイルが早朝に発射されていることだ。どれもこれも、「朝起きたら、ミサイルが発射されていた」という具合だ。

例えば、3月10日の射程500kmのミサイル「スカッド」は午前5時20分に、3月17日の日本向けの射程1300kmの中距離弾道ミサイル「ノドン」2発はいずれも午前5時55分と6時17分に発射されている。

米太平洋上の米軍基地(在日米軍基地とグアム基地)をターゲットとしている中距離弾道ミサイル「ムスダン」は4月15日、4月30日、5月31日、そして6月22日に合計6発発射されているが、4月30日に再発射された3発目だけが午後7時26分と例外で、他は全部早朝に発射されている。

具体的には4月15日の1発目は午前5時33分、4月30日の2発目は午前6時40分、5月31日の4発目は午前5時20分、6月22日の5発目は午前5時58分に発射されている。北朝鮮が「大成功」と発表した6月22日の6発目は午前8時5分と少し遅いがそれでも朝に発射されていた。

問題は、どれもこれも、日本海に向け発射されていることだ。成功されたとされる6発目は高度1400kmまで上昇し、発射地点から400km離れた日本海の目標地点に着弾していた。

「ムスダン」については、北朝鮮が「衛星」と称する長距離弾道ミサイル「テポドン」同様に日本は事前に発射の動きをキャッチし、防衛大臣が内閣総理大臣の承認を得て、自衛隊に破壊措置命令を出していた。破壊、即ち迎撃は、北朝鮮の弾道ミサイル等が日本に飛来する恐れがあり、その落下による日本の領域における人命又は財産に対する被害を防止する必要があると認められる時に容認される。これは、自衛隊法82条の3で容認されている自衛隊の行動である。

「ムスダン」がいずれも日本の領空、領海に飛来してこなかったこともあって、発射後に日本政府は官房長官が、あるいは防衛大臣が決まって「日本の安全に直接的な影響を及ぼすものではない」とのコメントを出している。実際に2005年にこの規定が設けられ、「テポドン」や「ムスダン」絡みで何度も破壊命令措置が発令されているが、実際に北朝鮮のミサイルを迎撃した事は一度もない。幸いなことだ。

しかし、気になることがある。「ノドン」や「ムスダン」では「テポドン」とは異なり、ミサイル発射情報警報(Jアラート)が出されないことだ。Jアラートは人工衛星を経由し、弾道ミサイルの飛来情報や緊急地震情報、津波警報などを送信し、受信した市村長が防災無線や携帯電話へのメールなどで情報を伝えるシステムである

直近では、今年2月7日にフィリピンに向け衛星と称する「テポドン」が西海岸に面する東倉里基地から発射された際には政府は発射から3分後の午前9時34分には緊急情報ネットワーク「エムネット」と全国瞬時警報システム(Jアラート)を通じて全国の地方自治体などに発射情報を配信していた。

「テポドン」が通過した沖縄県では「発射情報。発射情報。先ほど、北朝鮮からミサイルが発射された模様です。続報が入り次第、お知らせします」とのJアラートを県内全市町村が受信していた。

それが、日本を標準に定めた「ノドン」や「ムスダン」が日本海に向け発射されているにも関わらず発動されないのはどういうことなのだろうか?日本列島からは遥か遠く離れた南方に向けて発射されるミサイルには警報が流れ、日本列島に向かって発射されるミサイルには音なしの構えとはどう理解すれば良いのだろうか。

発射を事前に予告したうえで固定式発射台から発射される「テポドン」以外は移動式発射台から発射されるため発射瞬間を予知、探知するのが難しいからなのか?それとも発射瞬間、米軍の衛星が捉えた早期警戒情報(SEW)や地上に配備されたレーダーでミサイルを捕捉した結果、日本列島に飛来して来る可能性がないと判断したからなのか?後者ならば安心だ。

地震が頻繁に起き、その都度、警報が流れている昨今、北朝鮮のミサイルが発射されたからといってその都度、早朝未明からアラートが流れるのではたまったものではない。とは言え、麻痺してしまうのも困る。

北朝鮮の弾道ミサイルが日本列島手前の公海上に落ちるのか、それとも日本の上空に飛んで来るのか、早い段階で見極められれば良いのだが、危険に気が付いた時にアラートを鳴らしては手遅れとなり、対応のしようがない。朝鮮半島有事が現実となれば、ミサイルは通告、予告なくいつ、どこからでも発射されるからだ。

朝鮮半島の緊張が日々、高まっている時だけにやはり気になって仕方がない。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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