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朝鮮半島で近々、軍事衝突が起きるか!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
米韓連合軍と北朝鮮人民軍

ロシアのメドベージェフ首相は先のアジア欧州会議(ASEM)首脳会議の総会での演説(7月16日)で朝鮮半島情勢について触れ「朝鮮半島で大規模な危機が徐々に現実化しつつある」と、朝鮮半島で軍事衝突が起きる危険性について警告していた。

北朝鮮の核実験やミサイル発射から端を発したアジアの火薬庫である朝鮮半島情勢が関連国である米韓と北朝鮮双方による度重なる軍事演習によって悪化の一途を辿っていることから朝鮮半島が大規模の危機の震源地に変貌する可能性があるとの主張だった。

北朝鮮の暴発を危惧しているのか、あるいは高々度ミサイル防衛システム(THAAD)の配備を牽制するため意図的に危機を煽っているのか定かではないが、ロシアの首脳がこの種の発言をするのは極めて珍しい。

「朝鮮半島は一触即発の状態にある」とか、「いつ戦争の火が噴いてもおかしくはない状況にある」というのは北朝鮮の口癖であるが、中国の王毅外相もまた「朝鮮半島は危険な状況にあるので、各国は緊張を高めるような言動を慎むよう」再三に亘って北朝鮮や米韓など関係国に注意を促してきた。

実際にロシアが憂慮するような大規模な危機、即ち軍事衝突が勃発する可能性は低い。戦争になれば、双方合わせて大変な被害が発生する。在韓米軍のカーティス・スカパロッティ司令官は今年2月に米下院聴聞会で「(朝鮮半島の)兵力と兵器の規模を見れば、朝鮮戦争や第2次大戦と酷似しており、またさらに複雑であるため、おそらく多くの死傷者が出るだろう」と証言していた。オバマ大統領もその1か月前にユーチューブのインタビュー(2016年1月22日)で、「戦争になれば韓国が深刻な影響を受ける」として、「軍事的な解決は考えていない」ことも強調した。

韓国国防部も北朝鮮人民武力部も「挑発すれば、懲罰する」と威嚇しあっているが、所詮宣伝戦に過ぎない。軍事紛争が現実になれば、北朝鮮が「200日間戦争」のスローガンの下に12月17日まで完成を目指している40~80階建ての高層アパートから成る平壌のヨミョン通り建設を含め経済建設は水の泡となる。韓国も2年後に予定されている平昌五輪は開催不可能となる。南北にその気がない以上、軍事衝突が起きる可能性は極めて乏しい。

しかし、その一方で、南北双方共に有事の備えを急いでいるのもこれまた紛れもない事実である。

韓国は米軍と共に今春米韓史上最大規模の合同軍事演習を実施したが、▲米海兵隊と韓国海兵隊による連合上陸訓練▲北朝鮮への進攻に向けた合同渡河訓練▲米軍第31海兵機動部隊と韓国海兵隊第1師団砲第11大隊による合同火力訓練▲艦艇13隻と海軍航空機が参加した連合訓練▲F15k、F16、軽攻撃機FA50FAからなる戦闘機16機と攻撃編隊軍訓練としては初のC130H輸送機2機を投じた空軍による大規模攻撃編隊軍訓練▲水上艦や潜水艦など艦艇約50隻と、陸・海・空軍航空機を動員した日本海(東海)と黄海(西海)で海軍の連合海上訓練▲米原子力空母ジョン・C・ステニスを含む空母打撃群による空母護送作戦や迎撃訓練▲韓国海軍と空軍による日本海での北朝鮮艦艇想定した実射訓練など実践本番ながらの訓練を行った。

イラク、アフガン戦争で名をはせた米陸軍機械化部隊である米7師団第2ストライカー旅団1大隊傘下1個小隊も訓練に参加して、20の模擬建物がる市街に侵入し、大量破壊兵器を除去する訓練も行われた。先制攻撃で平壌を陥落させ、制圧する作戦計画「5015」に基づき、核兵器承認権者(金正恩党委員長)を除去する「斬首作戦」も遂行された。

さらに、米空軍は今月6日、核爆弾を投下できる超音速戦略爆撃機B1Bランサー数機をグアムの空軍基地に配備する。米国がB1Bをグアムに配備するのは2006年4月以来である。

米韓の「5015作戦計画」に危機感を抱く北朝鮮も金第一書記ら指導部及び平壌攻撃の兆候があった場合「先制攻撃を行う」として朝鮮人民軍最高司令部の名による重大声明(2月23日)を発表し「第一次攻撃対象を青瓦台(大統領府)と統治機関、第二次攻撃対象をアジア太平洋地域の米軍基地と米本土とする」と目には目の対応を打ち出した。

実際に3月からは韓国を標準に定めた500kmの弾道ミサイル、太平洋上の基地である在日米軍基地を標的にした射程1300kmの「ノドン」ミサイルの発射実験を行い、さらにもう一つの太平洋上の米軍基地であるグアムを照準に定めた最大射程4000kmのムスダンの発射実験も行った。ソウル解放作戦計画に沿って奇襲上陸演習の他に日本海に面した江原道・元山一帯で爆撃機と戦闘機約10機、長距離砲などを動員した史上最大規模の訓練も実施した。平壌近郊に韓国大統領府「青瓦台」の模型建物を作って打撃演習を行っていたことも衛星写真によって確認されている。

「米国は一線を超えた」として、米国への敵意をむき出しにしている北朝鮮は7月28日、声明を出して「米韓合同軍事演習が行われる8月にどのような事態が誘発されるのかは誰にも予測がつかない」と米国を威嚇する一方で、李英浩外相もまたその二日前の26日、アセアン地域フォーラムでの演説で「8月に朝鮮半島情勢が統制不能となった場合の責任は我が最高尊厳を傷つけ、最初に宣戦布告した米国が全的に責任を負うべき」と不気味な発言を行っていた。

南北は「挑発すれば、先制攻撃も辞さない」と牽制しあうことで、微妙な軍事的バランスが保たれてきたが、いつもと違って危険なのは、相手の目つきが悪いだけで「殺気を感じた」として手を出しかねないことだ。相互不信が根強いだけに誤判は起こり得る。

「一発撃ってきたら、現場の判断で10発反撃せよ」(韓国国防相)「ちょっとでも動いたら、徹底的に叩け」(人民軍総参謀長)と睨みあっている状況下では偶発的な出来事や誤算がその引き金となりかねない。

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ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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