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「テポドン」か「人工衛星」か 北のミサイル問題対立の原因は18年前の今日

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
「テポドン」?「人工衛星」?

今日8月31日は、1998年に北朝鮮が「衛星」と称して長距離弾道ミサイル「テポドン1号」(光明星1号)を発射した日だ。早いもので、もう18年も経つ。

振り返れば、北朝鮮の外交孤立も、国連の経済制裁もすべてはこの日に始まったと言っても過言ではない。

1998年8月31日午後12時7分に日本海に面した咸鏡北道花台郡舞水端基地から発射された「テポドン」は1分15秒後に1段目が日本海(253km)の公海上に落下し、2段目は4分26秒後に発射地点から1,646km離れた三陸沖の太平洋上に着弾した。日本中が騒然となったのは言うまでもない。

沈黙を守っていた北朝鮮は発射から4日後になって唐突に「人工衛星」を打ち上げたと発表した。

一度も成功してない北朝鮮の「人工衛星」

「発射から4分53秒後に衛星を軌道に乗せた」と主張する北朝鮮はその根拠として「衛星が軌道に上がり、モールス通信が27メガヘルツで地球上に電送され、『金日成将軍の歌』と『愛国歌』が流れている」と強弁した。しかし、北朝鮮と陸を接している韓国も隣国の日本も、北朝鮮と同盟関係にある中国も友好国のロシアも含め世界のどの国も衛星もモールス通信もキャッチできなかった。軌道に乗る必要な速度にも達していなかった。

発表が4日も遅れたことについて北朝鮮は「最初から公表することを決めていたが、衛星打ち上げ成功を確信し、測定資料などを収集した後で公表することにしていたため」と釈明した。

本当に衛星発射が目的ならば、事前に「宇宙物体登録条約」や「大気圏条約」に加盟してしかるべきだが、加盟してなかった。また、国際電気通信連合(ITU)にも国際民間航空機構(ICAO)にも国際海事機構(IMO)にも事前通告してなかった。予告もせず、不意に発射したのだ。

北朝鮮は事前通告しなかったことについては「その国の主権に属する問題であり、誰に対しても事前通告する義務はない」と開き直った。しかし、民間航空及び海運に危険を生じさせかねないだけに事前通告なしの発射は暴挙極まりなかった。当時、日本海あるいは三陸沖海域には漁船が多数操業し、民間航空機も通過時には7機飛来していた。仮に日本国内、あるいは米軍の三沢基地に着弾していれば軍事衝突に発展する恐れもあった。

国連安全保障理事会(安保理)が招集されたが、この時は制裁決議も、非難声明も出されなかった。北朝鮮が発射したものが何かも特定せず、「ロケット推進による物体を打ち上げた行為に対し遺憾の意を示す」との報道発表(プレス声明)にとどめた。

2009年4月5日の発射時は、前回事前に航空禁止区域を宣言しなかったことで国際的批判を浴びたことから朝鮮宇宙空間技術委員会の名で「4月4-8日の間に人工衛星を打ち上げる」と予告し、さらに宇宙物体登録条約にも加盟し、国際民間航空機機関や国際海事機関にも事前通告していた。

1段目は発射地点から650km(秋田沖130km)、2段目は発射地点から3,600km(銚子沖2,150キロメートル)の地点に落下し、9分2秒後に「衛星が軌道に上がった」と北朝鮮は発表した。またも「衛星は軌道を順調に周回しており、衛星からは『金日成将軍の歌』の旋律がモールス通信によって地球に電送されている」と主張し、市民らが上空を見上げ、指差しているそれらしい写真まで流した。しかし、これまた不思議なことに北朝鮮以外のどの国もモールス通信を受信できなかった。

この時も安保理は制裁決議も非難決議も採択しなかった。発射された飛翔体を特定せず「4月5日の発射」という玉虫色の表現を用い「4月5日の発射は1718号に違反する」として、北朝鮮に今後いかなる発射も行わないよう要求した。国連決議「1718号」とは、2006年10月の核実験を非難して採択された決議で、その中で北朝鮮に対して「弾道ミサイル計画に関連するすべての活動を停止するよう」求めていた。

北朝鮮は2012年4月13日の発射でも宇宙空間技術委員会が「4月12-16日の間に発射」すると予告し、外国のメディアを招き、先端に搭載するとされる「衛星」らしきものも公開した。しかし、発射から1-2分で爆発し、失敗に終わった。

安保理は直ちに議長声明で「過去の安保理決議への深刻な違反である」と非難した。大陸間弾道ミサイルに繋がるロケットそのものを問題にしたのである。

北朝鮮は安保理の対応を「不当である」と批判し、「我々の自主的な宇宙利用権を引き続き行使する」と「人工衛星」発射の継続を宣言しているが、人工衛星の打ち上げであっても、弾道ミサイルの技術が使用されていれば「いかなる弾道ミサイル技術を使用した発射もこれ以上実施してはならない」との国連決議に違反する。この決議には北朝鮮の友好国である中露も同意している。

北朝鮮に限っては、国連決議が撤回、解除されない限り、人工衛星の打ち上げは許されないのである。仮に国際社会が信じるに値するような衛星であったとしても、弾道ミサイルの技術が使われる限り、国連決議違反となり、禁止、制裁の対象となる。

最初にボタンを掛け間違えると、後後まで後を引くという典型的なパターンだ。

核実験は凍結しても、「人工衛星」は止めない!?

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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