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「水害大国」北朝鮮 洪水被害が恒例、慢性化

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
北朝鮮北部・咸鏡北道を襲った集中豪雨よる被害状況

北朝鮮は何かにつけ、「大国」という枕詞をつけたがる。「強盛大国」「科学大国」「スポーツ大国」という具合に。どれもこれも国家目標だが、どうやら「水害大国」になっていることだけは間違いないようだ。

先月29日から今月2日の間に発生した咸鏡北道一帯の洪水状況は、北朝鮮曰く「建国以来最悪の災害」だとのことだ。

死者138人、行方不明400人、倒壊、流出家屋2万9800戸、被災者延べ14万人に加え、破損した公共施設900棟、道路180か所、崩壊した橋60本以上、そして2万7440町歩(1町歩=3000坪)の農耕地に浸水などの被害が出たようだ。

集中豪雨による水害被害は北朝鮮では珍しいことではなく、むしろ恒例化しており、慢性化している。

昨年も北朝鮮が経済特区に指定している咸鏡北道・羅先市で洪水が発生し、死者40人、被災者1万1000人を出し、公共施設99棟、鉄橋51か所が倒壊、流出、破損している。

また、4年前の2012年にも6月から8月にかけ北朝鮮全域が水害に見舞われ、死者300人、行方不明者600人、被災者29万8050人も出している。倒壊、浸水した家屋も8万7280戸に上った。人命被害も、物的被害も今年よりも規模がはるかに大きかった。

史上初の核実験を行った翌年の2007年には8月、9月と連続して水害被害に遭い、8月は中旬に平壌市、黄海北道、平安南道、江原道を中心に降った大雨で死者・行方不明者600人、倒壊、浸水家屋24万戸、被災民は90万人にも達した。9月も18日から21日の3日間の集中豪雨で家屋1万4000戸が浸水し、13万町歩の農耕地がダメージを受けた。

その2年前の朝鮮半島解放60周年の年の2005年にも6月から8月にかけて断続的に降った集中豪雨により死者・行方不明者500人、浸水家屋1万4千戸の被害を出したが、何といっても建国以来最悪は1995年の7月31日から8月18日に全土を襲った集中豪雨と洪水による被害だろう。

死者・行方不明者こそ不思議なことに68人と少なかったものの、国連人道援助局(DHA)の報告では▲国土の約75%にあたる8つの道(県)と145の市、郡が被害にあい▲520万人が被災し、そのうち10万世帯、約50万人が家を失っている。被害総額は驚いたことにGNPの4分の3にあたる150億ドルに達していた。

被災者が総人口(当時2150万人)の4分の1に上り、1994年同時の基準でGNPが212億ドルの国で被害総額がGNPの4分の3ともなれば、通常ならば国家としての機能は完全に麻痺する。従って、当時は北朝鮮当局が国際社会からの人道支援を呼び込むため被害状況を誇張したのではないかとの疑惑が向けられていた。即ち、520万人という被災者数は、被災地(145の郡)の総人口が520万人という意味で、直接的被害ではなく、間接的被害も含めたのではないかと言われていた。

また、150億ドルという被害総額も疑問視された。というのも、150億ドルというと、当時韓国のウォンで11兆7000億ウォンに値するからだ。

韓国も同時期に水害を被ったが、韓国内務部の統計では韓国の被害総額は4000億ウォンで、北朝鮮のそれは韓国の29倍も上回っていた。北朝鮮の被害総額は韓国の1985年度の国家予算(約12兆5000億ウォン)に匹敵する数字だった。北朝鮮の前年の貿易総額が輸出入合わせて21億6000万ドル、国防費が56億6000万ドルと見積もられていたこともあって、北朝鮮が主張する被害総額はあまりにも膨大で、水増ししているとの疑いが援助する側の韓国で持ち上がっていた。

自給自足を豪語していた北朝鮮は水害被害を理由に本格的に国際社会に食糧支援を要請し始めたが、食糧不足は洪水発生前年の1994年から深刻な問題となっていた。

(参考資料:死去直前の金日成主席の最後の肉声「電力問題を解決せよ!」

北朝鮮は1990年に入り、食糧不足が深刻となり、91年が165万トン、92年が207万トン、93年が231万トン、そして94年が278万トンも不足していた。94年の生産量が412万トンなのに対して95年の重要は672万トンと、95年の年も260万トンも不足していた。

慢性的な食糧難に瀕した原因は大きく分けて二つある。

一つは、ソ連や東欧諸国の瓦解により社会主義経済圏が解体し、石油集約的農業が行き詰ったことだ。友好価格による石油が入らず、トラクターなど農機具だけでなく、化学肥料や農薬などの調達が困難となった。化学肥料工場の生産能力は368万トンあるが、工場が正常に稼働しないため実際の生産量は70万トン程度だった。

次に、旱魃や洪水などの自然災害が重なり、耕作地の流出、土壌の悪化で生産量の大幅な減少に繋がったことだ。それに農地開拓のため山の木を伐り、段々畑としたことも洪水を引き起こす原因となった。

北朝鮮は1995年の大水害による農産物の被害は約190万トンに上るとして国連機関に食糧支援を緊急要請したが、当時日本はコメ50万トン(無償15万、有償35万トン)と医療品50万ドルの緊急支援を行い、1996~97年にかけても合計で8万2千トンのコメを援助した。また、2000年にも3月、10月とそれぞれコメ10万トン、50万トンの支援を行ったが、金額にすると、300億円は軽く超えている。そして、その見返りは今もってゼロである。

核問題も拉致問題も進展、解決せず、逆に昨今のミサイル乱射や、5度の核実験で返ってきているのが現状である。

(参考資料:北朝鮮は核とミサイル開発資金をどうやって調達しているのか

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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