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米中合作の「北朝鮮指導部除去作戦」が復活するか

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
「G20」開幕前の中国・杭州での米中首脳会談(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

オバマ政権の対北政策は強気一辺倒だ。国際包囲網を敷き、外交的圧力と経済制裁を掛け、金正恩政権をギブアップさせる方針だ。それでも金委員長の核ミサイルの野望を阻止できなければ、選択肢として軍事的手段も辞さない構えだ。しかし、非軍事手段であれ、軍事手段を行使するにせよ、北朝鮮の後ろ盾である中国の同意、協力が前提となる。

(参考資料:全面戦争を覚悟したクリントン政権時代の「北朝鮮攻撃計画」

オバマ大統領と習近平主席との間では先月初旬の中国・杭州でのG20の際も含め、何度も首脳会談が行われ、北朝鮮問題では相当突っ込んだ議論が行われている。米国からは当然、金正恩政権のレジームチェンジを前提とした交渉も持ちかけているはずだ。というのも、米中間ではブッシュ政権下の2002年~03年当時、金正日政権の崩壊を前提とした交渉が行われていた経緯があるからだ

大統領の座に就いてから1年半後、ブッシュ大統領は北朝鮮がクリントン政権下で締結された米朝ジュネーブ合意に違反して、高濃縮ウランの生産を秘密裏に行っていたことに苛立ち、米陸軍士官学校の卒業式(2002年6月1日)で「我々の安保状況は全米国人が必要とする場合、我々の自由と生命を守るため先制措置(先制攻撃)を取るなど積極的で断固とした体制を備える」との決意を表明していた。

ブッシュ政権の戦略は▲第一段階では北朝鮮の核問題を外交交渉で平和的に解決することに力を尽くすが、同時に北朝鮮への経済制裁も強める▲交渉が不調に終わった場合の第二段階では国際社会に協力を求め、北朝鮮経済を封鎖する一方で、中国の同意も得て、北朝鮮経済の息の根を止める。さらには北朝鮮国内の内部混乱と大規模の脱北を誘導する▲封鎖が効かない場合の第三段階では北朝鮮首脳部への精密爆撃を試みるという3段階から成っていた。

当然、ブッシュ政権の「金正日政権崩壊シナリオ」は中国の参与を前提としていたこともあって2002年10月、江沢民主席(当時)が訪米した際、テキサス州の牧場に招き、北朝鮮核問題について相当突っ込んだ。ブッシュ大統領は「北朝鮮への影響力行使は非常に複雑な問題だ」と渋る江主席に「北朝鮮の核問題は米国だけでなく中国の脅威でもある」と述べ、中国の積極的な関与を要請した。

ブッシュ大統領は2003年1月にも江主席に対し「北朝鮮が核兵器計画を継続すれば、日本が核兵器開発に向かうのを止められなくなる」と説得を試み、翌月(2月)10日に再度訪米した江主席に対し「外交的に解決できなければ、北朝鮮への軍事攻撃を検討せざるを得ない」と軍事攻撃の可能性まで示唆していた。

(参考資料:ベールに覆われた米韓連合軍の恐るべき「5015作戦計画」

米国は中国が同調しない場合、日本や韓国、台湾で核武装論が台頭し、その結果、東北アジアの秩序が中国の思うようにいかないことも警告する一方で、台湾問題で破格的な譲歩をすることまで躊躇わなかった。即ち、中国が平和的に台湾との統一を推進するなら米国はこれに反対しないということを通告していた。米国にとって最大の武器輸出国で、莫大な政治、経済的利権を有する台湾を事実上、放棄するということは米国が北朝鮮の核問題に執着している証でもあった。

さらに、金正日政権が崩壊した場合、米軍が直接北朝鮮に進駐することや中国に反中敵対政権が誕生するのを中国が憂慮していたことから「ポスト金正日政権」として「親中政権」を代案として提示していた。米国が提示したこの代替案は中国を満足させるのに十分であった。もちろん、イラク戦争で確認された米国の精密爆撃能力を誇示しながら、北朝鮮を攻撃するとの揺さぶりも欠かさなかった。結果として、6か国協議を主導するなど中国が北朝鮮の核問題に積極的に関与したことで2005年9月に北朝鮮の非核化を盛り込んだ6か国合意を引き出すことに成功した。

オバマ政権もまた、ブッシュ政権の戦術を駆使し、中国としては最悪の場合、米国の先制攻撃で北朝鮮が混乱状態に陥るよりは、可能ならば「自然死」のほうがベターとの考えに誘導しようとしているようでもある。

北朝鮮が5度目の核実験(1月6日)を強行してから新華社通信(3月2日)は「北朝鮮は必要な代価を払うべきだ」と主張し、共産党機関紙「人民日報」(4月7日付)も「北朝鮮の核戦略は究極的に金正恩政権を危険に陥れているので戦略を再考すべきだ」と警告していた。人民日報の姉妹紙「環球時報」(4月25日付)も「国連安保理がより厳格な制裁を論議すれば、中国は北朝鮮に生きる道を開いてあげるのは困難になる。平壌はそのことをはっきりと認識すべきだ」と威嚇していた。

中国の王毅外相は米韓両国に対してより厳格で強力な安保理の追加制裁決議に同調することを約束している。北朝鮮も中国の離反を危惧しているようで労働新聞(4月2日付)は「一部大国は米国の脅迫・要求に屈服した」と、中国を暗黙的に批判し、金正恩委員長もまた8月に順川化学連合企業書を視察した際に「信じるのは自らの力しかない。誰も我々を助けてくれない」と吐露していた。

朴槿恵大統領が2日に北朝鮮の軍人や住民に脱北を呼び掛け、米韓の戦闘機が3日に精密打撃訓練を始めるなどまさに13年前の状況が再現されているようでもある。

(参考資料:北朝鮮を制裁で海上封鎖した場合のシナリオ

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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