Yahoo!ニュース

「金正恩が出て来た!」――「今年最長失踪」の理由は?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
煙草を手に11日ぶりに姿を現した金正恩委員長

朝鮮中央通信は昨日(18日)、金正恩委員長が平壌に新しく建設された柳京眼科総合病院を視察したと報じた。金委員長が公の場に姿を現すのは今月7日の万景台革命史跡記念品工場視察が報じられて以来11日ぶりである。

金委員長が今年に入って10日以上も姿を見せなかったことから一部韓国のメディアには健康不安説が流れていたが、2012年に政権の座に就いてからの5年間で10日以上、公の場に出て来なかったことは過去にも何度もあって珍しいことではない。

例えば、2012年には10月14日から28日までの14日間、翌11月も29日から12月16日までの間、18日間も表に出て来なかった。また、2013年にも元旦に金日成宮殿を参拝したのを最後に19日まで間姿を現さなかった。この年は4月にも1日から祖父の誕生日の15日まで消息を絶っていた。

極め付きは2014年で、この年は9月3日にモランボン楽団の新作披露音楽会を鑑賞した後、10月14日に「衛星科学者住宅地区を現地指導した」と報じられるまで40日以上も姿をくらましていた。9月9日の建国記念日の式典にも、25日に召集された最高人民会議も欠席したわけだから尋常ではなかった。

最高人民会議の翌日(26日)に朝鮮中央テレビが放映した金正恩活動記録映画の中に金委員長が足を引きずっている場面が流れ、ナレーターが「不便な体で精力的に視察している」と語っていたことから、足の治療のため長期間療養していたことが判明した。

金委員長が足を引きずっていたのは7月5日のソンドウォン国際少年団キャンプ場を視察した時からだった。11日後の7月16日にも水産研究所を視察した際にも足を引きづっていた。いずれも左足だったことから痛風を患っているのではないかと囁かれた。その一方で、韓国からは「糖尿病や心臓病などを併発しているかもれしれない」との観測も流れた。

ところが、8月に入ると、今度は右足を引きずり、最後は杖を手にしていた。そうしたことから「左足を庇うあまり、右足に負担がかかったのでは」とみられ、また足を痛めた原因も辺境地など足場の悪い所を視察した際に捻挫したとの見方が有力視された。

今回は、写真を見る限り、健康不安は感じられない。足も引きずっている様子も見られない。ただ相変わらずの肥満で、煙草も手放してなかった。

今年3月15日に弾道ロケット大気圏再突入環境模擬試験に立ち会った際、長距離弾道ミサイルの前で右手指にタバコをくわえていたのを最後にその種の写真も映像も配信、公開されることはなかった。そんな折、突如、4月24日付の労働新聞に「タバコが人体に与える影響」との記事が掲載され、記事には金委員長が「革命をやろうとするならば、体も健康でなければならない」と述べていたと書かれてあったことから金委員長が率先して禁煙を始めたと伝えられていた。ところが、6月4日、新たに建設された万景台少年団野営所を視察に訪れた金委員長がタバコを手にしている写真が配信された。3月15日以来、約80日ぶりの喫煙写真の公開であった。驚いたことに子供らが集う少年団野営所で喫煙していたのである。今回もよりによって病院視察での喫煙である。

(参考資料:禁煙に失敗?金正恩委員長の喫煙復活の謎

仮に健康不安でないとすれば、韓国で囁かれているように北朝鮮へのピンポイント攻撃が可能な原子力空母「ロナルド・レーガン」が投入された米韓合同海上演習(10-15日)を恐れて雲隠れしていたのだろうか?

しかし、同じ規模の原子力空母「ジョン・C・ステニス」が参加して、北朝鮮の主要施設への先制攻撃だけでなく、「斬首作戦」まで取り入れられた今春の米韓合同軍事演習期間中には何度も姿を現していたことを考えると、勝ち気で、強気で、虚勢を張る金委員長の性格上、その可能性も乏しい。では、なぜ、不在が11日も長引いてしまったのだろうか?

結論を言うなら、15日の中距離弾道ミサイル「ムスダン」の発射が成功していれば、もっと早く姿を現していたはずだ。

金委員長はこれまで「成功した」と発表した一連のミサイル関連実験にほとんど立ち会っている。6月22日の「ムスダン」、8月24日の「SLBM」、そして9月5日の「ノドン」の発射がその一例だ。現場で、満面に笑みを浮かべている金委員長の写真が公開されていたのはまだ記憶に新しい。

しかし、失敗した場合は、立ち会っていたかどうかも明らかにされることはない。「ムスダン」が失敗した4月15日、4月30日、5月31日の時も、また「SLBM」が失敗した4月23日、7月9日の失敗などがその例だ。

仮に、今回「ムスダン」が成功していたら、もっと早く公の場に出ていたのではないだろうか。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

「辺真一のマル秘レポート」

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

テレビ、ラジオ、新聞、雑誌ではなかなか語ることのできない日本を取り巻く国際情勢、特に日中、日露、日韓、日朝関係を軸とするアジア情勢、さらには朝鮮半島の動向に関する知られざる情報を提供し、かつ日本の安全、平和の観点から論じます。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

辺真一の最近の記事