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国連安保理の北朝鮮制裁決議はなぜ遅れているのか

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
前回満場一致で採択した国連安保理の北朝鮮制裁決議(写真:ロイター/アフロ)

北朝鮮の5度目の核実験を懲罰する国連安保理の制裁決議の採択が遅れている。

当初は「北朝鮮の核開発を容認しない」との国際社会の結束を示すためにも迅速な採択が重要と言われていたが、9月9日の核実験から10月30日現在、51日経過してもまだ決議案の草案すら作成されてない。

北朝鮮の核実験に対して安保理はその都度制裁決議を採択してきたが、核実験から制裁決議採択までの過去の日数を見ると、

1回目の2006年10月9日の初の核実験では、5日後の14日に制裁決議「1718」が、2回目の2009年5月25日の2度目では、19日後の6月13日に「1874」が採択されていた。また、3回目の2013年2月12日の3度目でも、24日後の3月7日には「2094」が採択されていた。国連決議は3回目までは最短で5日、どんなに遅くとも1か月以内には採択されていた。

しかし、今年1月6日の4度目では、3月3日の「2270」採択まで57日間も要したが、どうやら5度目の今回は、この最長記録を上回ることになりそうだ。それというのも、「2270」の場合、核実験から48日目の2月23日には決議案の草案が出来上がり、25日には安保理メンバーに回覧されていたからだ。

大幅に遅れている理由は、日米韓の求める北朝鮮の骨身に染みるような「最大級の制裁」(尹炳世韓国外相)に常任理事国の中露が同調するのを渋っていることに尽きる。

(参考資料:北朝鮮への「最大級の制裁」に賛成?反対?ハムレットの心境の中国

日米韓の3か国は「2270」の決議を補完し、そのうえで新たな制裁を追加させることに主眼を置いている。特に、前回の「2270」には抜け穴があったとして、それを防ぐことに全力を挙げている。「抜け穴」とは中国及びロシアが「一般国民の生活に影響を及ぼすべきでない」として民間目的に限って許可した輸出入品目である。

例えば、北朝鮮への原油供給は空軍とロケット使用に限って禁じられているが、それ以外の目的ならば供給が可能となっており、また北朝鮮の外貨獲得の最大輸出品目の石炭や繊維なども大量破壊兵器の資金とみなされなければいくらでも輸出が可能だ。

現に北朝鮮の対中輸出の40%を占める石炭の8月の輸出量は247万トンと月間としては過去最高の量であり、その結果、北朝鮮は7月から9月の3か月間で2億8千万ドルを手にしている。減少するどころか、昨年の同じ期間に比べて5%も増えている。

また、北朝鮮の対中繊維も年間7億ドル以上もあり、これも北朝鮮にとっては貴重な外貨獲得手段となっている。

中朝貿易は3月に最強の制裁(「2270」)が掛けられているにもかかわらず7月から9月までの3か月間で15億5千万ドルと、昨年同期よりも3.4%も増加している。北朝鮮の対中輸出品品目の1位が石炭(2億8千万ドル)で、2位が男性用コート(8千7百万ドル)、3位が水産物(6千7百万ドル)となっている。

中国は「安保理決議は北朝鮮の核実験に対する決議でなければならない」として「民間で使用されるものは例外にする」とのこれまでの立場を変えず、また北朝鮮にとって命綱である原油の供給も含めて石炭の輸入を禁じる考えがないようだ。

日米韓とすれば、この他にも5万人に上るとされる北朝鮮の海外出稼ぎ労働者による資金(2~3億ドル)の流出を止めたいところだが、これには追加制裁に積極的なロシアが「住民生活に影響を及ぼしてはならない」(マリヤ・ザハロフ外務省スポークスマン)として反対している。それと言うものも、ロシアは中国と並んで北朝鮮労働者を最も多く受け入れている国であるからだ。その数は極東シベリアだけでなく、首都モスクワやサンクトペテルブルクなどロシア全域で約3万人に上るとされている。

中国とロシアが日米韓主導の制裁に同調しない場合、日米韓は独自にセカンダリーボイコット(北朝鮮と取引する第三国への制裁)を検討していると言われているが、北朝鮮への追加制裁を巡る中露と日米韓の綱引きがどう決着を見るのか、遅くとも11月中旬までにはその内容が明らかになるだろう。

一方、北朝鮮は仮に国連が新たな制裁を科せば、それを口実に6度目の核実験に踏み切る構えのようだ。「いつでも核実験が可能」(朴槿恵大統領)と言われながらも、踏み切らないのは、国連安保理の決議待ちの可能性が高い。過去のケースでもいずれも安保理の制裁、あるいは非難決議を大義名分にして核実験を行っている。

(参考資料:新たな追加制裁で北朝鮮の核実験、ミサイル発射は止まるか

初の核実験(2006年10月9日)は安保理が人工衛星と称したテポドンを非難する決議(7月15日)が採択されてから86日後に、二度目の核実験(2009年5月25日)も同じくテポドン発射を非難した安保理議長声明(4月13日)から42日後に、そして3度目(2013年2月12日)も前年のテポドン発射への制裁決議(1月23日)から20日後に強行している。

前回4度目の核実験(2016年1月6日)は国連の制裁決議が直接的な引き金となっていないが、5度目(2016年9月9日)は国連安保理の3月3日の「過去20年来最強の制裁」及び「ノドン」や「ムスダン」、さらにはSLBMなど弾道ミサイルの発射への安保理の非難声明を口実にしていた。

決議から核実験まで最短で20日であることから11月中旬までに決議が採択されれば、早ければ11月中、遅くとも12月までには6度目の核実験に踏み切るのではないだろうか。

(参考資料:国連安保理が追加制裁すれば、初のICBM発射か、6度目の核実験か

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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