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父親譲りの朴大統領の「お告げ外交」

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
窮地に立たされた朴槿恵大統領

朴槿恵大統領は日韓関係が悪化していた昨年までは日本から「告げ口外交」と批判されているが、今、韓国では40年来の友人である崔順実容疑者に操られ「お告げ外交」をしていたと批判、揶揄されている。

検察による崔順実容疑者や千皓宣容疑者(前青瓦台行政秘書官)らへの取り調べの結果、朴大統領が大統領に就任(2013年2月25日)する直前の2013年1月から今年4月まで、全部で45件の大統領機密文書を崔容疑者に渡し、アドバイスを受けていたことがわかった。その中には中国の習近平主席との首脳会談やNATO事務総長や米国務長官、国連事務総長らとの会談や通話資料まで含まれていた。

崔順実容疑者は、朴大統領が信望していた新興宗教団体「永生会」の教祖である崔太敏氏の娘である。「朴槿恵は崔大敏に精神的に捕虜となっていた」との全斗煥政権下の許和平大統領首席秘書官の証言があるように崔太敏氏が1994年に亡くなるまでの20年間、マインドコントロールされていたとされる。父親から後継者に指名された崔順実容疑者も父親の霊的能力を受け継ぎ、予知能力があるとされ、朴大統領はそれにすがっていたとも言われている。

韓国野党第一党の「共に民主党」の秋美愛代表は「一言で言って、恐ろしい神政政治である。自分が任命状を渡した公務員や長官らとは対話せず、唯一、崔順実と心霊対話をやった大統領である」と酷評していたが、こうしたことから朴大統領は数多くの外交懸案や課題を崔容疑者の指南や予言に従って行ったのではないかとの疑惑が持たれている。その疑惑の幾つかを挙げると;

▲額賀元財務相との会談での対応も

大統領就任直前の2013年1月4日、安倍晋三首相の特使、額賀福志郎氏が訪韓し、朴大統領と会談したが、島根県の「竹島の日」(2月22日)に関連する式典を政府レベルで実施しない方向だと言われた場合には具体的な評価を避け「ほほ笑みで返す」よう対応を指示していた。また、従軍慰安婦問題に関しても「日本が先に言及する可能性は低い」と予想したうえで朴氏に対し「個別の問題を議論するより、『歴史に対する日本側の正しい認識が両国関係発展の基本になる』と答えるべき」などと指示していた。

▲北朝鮮に対する強硬発言も

今年に入って朴大統領は北朝鮮について「自滅する」(3月15日)とか、「体制が大きく揺らいでいる」(8月22日)とか、「金正恩の精神状態は統制不能である」(9月9日)とこれまでの大統領が誰も口にすることはなかった過激な言葉を連発したばかりか10月1日には「北朝鮮の住民のみなさん、いつでも大韓民国の自由な懐に来ることを望みます」と、金正恩体制を見限り、脱北を促すような挑戦的な言動を繰り返していた。

この件について「共に民主党」のウ・サンホ院内代表は「崔順実は『2年以内に北朝鮮は崩壊する』と言いまわっていた。呪術的予言者であることが間違いない崔の予言に従って対北強硬政策を取っているのか、朴大統領は説明しなければならない」と問題にしていた。

▲開城工業団地閉鎖も

開城工業団地の閉鎖は朴大統領が2月7日に主宰した国家安保会議では議論されてなかった。ところが、3日後の国家安保会議で突如決定した。主管部署の統一部は「賃金と核ミサイル開発は別物」と主張し、閉鎖ではなく、一時中断とすべきと提案していたが黙殺された。第二野党のチョン・ドンヨン議員は2月8~9日の間に崔のアドバイスがあった可能性を指摘した。2014年の新年辞で朴大統領は初めて「統一大ばくち」という言葉を口にしたが、これも崔容疑者のお告げによるものと囁かれている。

▲拡声器放送の再開決断も

北朝鮮向け心理作戦の一環である拡声器放送の再開について1月7日午前に開かれた国会国防委員会で韓民求国防長官は「政府の総合的な対策が出た後で決定する事柄」と答えていたが、数時間後に国家安全保障会議が開かれ、大統領の決断で再開が決定してしまった。慎重論の国防部の意見が反映されてなかったことからこれまた崔容疑者の「予言」によるものと疑われている。

▲高高度ミサイル防衛システム(THAAD)の配備場所変更も

THAADの配備場所は、当初は慶尚北道の星州郡の砲兵部隊の敷地内に決まっていた。国防部が「これ以上ない最適の場所」と苦労の末、物色したのに大統領の「鶴の一声」で同じ星州郡にあるロッテが経営するゴルブ場に変更された。この変更にも崔順実が関与したのではないかとみられている。

朴大統領の父親の朴正煕元大統領も占いに凝っていたことで知られている。朴正煕元大統領は1972年10月17日に大統領の任期を6年に延長するなどの憲法改正を行ったが、当時、易術に長けた中央情報部(KCIA)の企画室長を通じて某有名な占い師から「10月17日に維新を断行せよ」との「お告げ」をもらい、10月17日夜7時に全国に戒厳令を宣布し、国会を解散し、政治活動を停止させる超法規的な措置を取り、憲法を改正させている。

朴正煕元大統領は軍事クーデター(1961年5月16日)の決行をはじめ重大な決断をする際には必ずと言っていいほど占いに頼っていたが、どういう訳か、肝心要の時に占いに従わなかったため暗殺という悲惨な結果を招いたとも言われている。

朴元大統領は1979年10月26日の夜に側近のKCIA部長に暗殺されたが、その数日前に当時与党(共和党)の事務総長が全羅南道・光州在住の占い師から「朴大統領の身の上に何か不吉な掛が出ているので、私が行くまで当分の間ソウルを離れないよう」と人を会して伝言を受け取っていた。

ところが、それが朴大統領に行き渡らず、10月26日にソウルを離れ、忠清南道の防潮堤起工式に出席した。そして、その夜、KCIAの安家(安全の家=アジト)での酒席の場で暗殺されてしまった。

朴槿恵大統領の占い師である崔順実容疑者は今、拘置所の中だ。果たして、崔容疑者は朴大統領の将来をどう占っているのだろうか。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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