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苦境の朴槿恵大統領に高笑いの金正恩委員長

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
朴槿恵大統領の苦境に笑いが止まらない金正恩委員長

朴槿恵大統領対金正恩委員長の全面対決による南北の攻防は上半期までは朴槿恵大統領が圧倒的に優勢で、押し気味だった。

朴大統領は北朝鮮が1月6日に4度目の核実験を強行したことに「忍耐にも限界がある」としてそれまでの融和政策を修正し、強硬策に転じた。「核開発は体制崩壊を促進するだけ」(2月16日)であり、「挑発をづければ自滅するだろう」(3月15日)と、金正恩政権の崩壊、自滅を示唆した。

さらに8月に入ると、「北朝鮮の内部に深刻な亀裂の兆候が見え、体制が大きく揺らいでいる」(8月22日)と公言し、「金正恩の精神状態は統制不能にある」(9月9日)として北朝鮮の党幹部や住民に向け金委員長を見捨てて、韓国側に来るよう促すなど余裕綽々だった。

「金正恩憎し」の朴大統領の私情も手伝って、恒例の米韓合同軍事演習は平壌制圧作戦に従った先制、奇襲攻撃訓練や金委員長の「暗殺」を企図した「斬首作戦」の下に特殊部隊を侵入させる訓練を実施した。

(参考資料:仁義なき「金正恩斬首作戦」VS「朴槿恵除去作戦」

朴政権は経済制裁と外交圧力に加え軍事的圧迫を強めるなど北朝鮮を潰しにかかっていたが、10月になると、状況は一変し、皮肉にも自滅、崩壊の危機にさらされているのは金正恩政権ではなく、朴槿恵政権ということになってしまった。一転守勢に立たされてしまったのは自身にまつわるスキャンダルの発覚が原因だ。

北朝鮮は逆にここぞとばかり、攻勢に転じ、朴槿恵政権へのパッシングを強めているのが実情だ。

朴槿恵スキャンダルを官製メディアで連日伝えている一方で、対韓宣伝機関である「反帝民族民主戦線中央委員会」が「全国民は朴政権を埋葬するため決死抗戦に立ち上がろう」との声明(10月15日)を出し、また朝鮮文化芸術総同盟も「正義と良心を踏みにじった朴政権に待っているのは悲惨な破滅のみ」との談話(10月21日)を出すなど朴政権退陣に立ち上がった韓国国民にエールを送っていた。

今月に入ると、労働新聞や朝鮮中央通信は朴政権の崩壊は時間の問題とばかり、以下のような見出しを掲げ、朴大統領を叩いていた。

「朴槿恵政権の崩壊危機は朴槿恵の不敗無能が招いたもの」(労働新聞11月6日付)

「朴槿恵の危機回避術策の結果は終局的潰滅しかない」(朝鮮中央通信11月12日付)

「朴槿恵の政治的危機は独裁集団の必然的運命」(労働新聞11月19日付)

「人民を愚弄する南朝鮮当局者を埋葬する」(労働新聞11月20日付)

北朝鮮の対韓非難が強まっていることから韓国では政治空白と国内の混乱のスキを突いて北朝鮮が新たな挑発に乗り出す出のではとの危惧が保守層を中心に出ているが、今のところ金正恩政権に動く気配は全く見られない。中距離(ムスダン)あるいは長距離(KN-08)ミサイルを11月7日の米大統領選挙にぶつけるのではと警戒されていたが、意外にも北朝鮮は発射を見送ったままだ。北朝鮮は今年3月から弾道ミサイルを20数発発射しているが、10月20日の「ムスダン」以来、1発も発射していない。再三にわたって示唆していた6度目の核実験も自制したままだ。

今強行すれば、結果として朴政権を利することになりかねないとの判断によるものかどうかは不明だ。確かに、北朝鮮がミサイル発射を強行すれば、朴大統領は北の脅威を理由に延命を図ることができるかもしれない。あるいは、北朝鮮との直接対話を主張しているトランプ氏が大統領に当選したことも発射を控えている理由かもしれない。金委員長との直接対話による核問題の解決を考えているトランプ次期大統領のご機嫌を損ねたくないとの判断が優先されているのかもしれない。

(参考資料:トランプ次期大統領の「北朝鮮(金正恩)関連発言」

しかし、金委員長はいつまで我慢ができるだろうか?このまま年内には何もしないで、朴大統領が退陣するまで、トランプ氏が大統領に就任する来年1月20日まで辛抱強く待ち続けられるだろうか?

不安要因が二つある。

一つは、早ければ来週中にも9月9日の5度目の核実験を懲罰する国連安保理の制裁決議がより強い制裁を掛けることで米中が合意したことで採択される公算が強い。となればこれまでのように対抗措置として更なる核実験に踏み切るかもしれない。

北朝鮮の外務省は5度目の核実験(9月9日)から2日後の9月11日、「我々の尊厳と生存権を保衛するため核武力の質量的強化措置を継続する」と公言し、さらに2日後の17日付の労働新聞は「米国の核脅威と制裁圧力が続く限り、それに伴う我々式の自衛的対応措置も連続的に取ることになるだろう」との記事を掲載していた。先月(10月)6日には北朝鮮の代表が国連総会第一委員会(軍縮・安全保障委員会)で「自衛的な核戦力を質的、量的にさらに強化する」と6度目の核実験を示唆していた。

来月17日は故金正日総書記の命日(5周忌)である。この日はまた、北朝鮮が経済再建のため大々的キャンペーンを展開してきた「200戦闘」の最終日にあたる。さらに、30日は金正恩最高司令官就任5周年と記念日が続く。

北朝鮮は「宇宙制服の活路を開いていく」と述べ、衛星打ち上げ目的で長距離弾道ミサイルの発射を示唆していた。金委員長自身も9月19日、停止衛星運搬ロケット用の新型エンジン噴出試験に立ち会った際「衛星を多く製作し、発射して、数年内に停止衛星保有国にせよ」と指示していた。

北朝鮮が「200日戦闘」の総仕上げ、成果としてテポドンと称される人工衛星を打ち上げることは十分あり得る。そうなれば、米国はじめ国際社会は「衛星」の発射を弾道ミサイルの発射とみなしているだけに再び緊張が高まることになる。

朴大統領の去就同様に金委員長の対応もまた俄かに注目される所以である。

(参考資料:朴大統領は金第一書記とのチキンレースに勝てるか

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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