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朴槿恵大統領の秘策は?憲法裁判所の長期化!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
国会で弾劾された直後の朴槿恵大統領(写真:ロイター/アフロ)

朴槿恵大統領が国会で弾劾されたことについて韓国では「国民の勝利」とか「市民革命の勝利」と称されている。

現実には朴大統領を弾劾したのは国民ではなく、国会である。弾劾成立のボーダーラインである3分の2(200人)を大幅に上回る約4分の3(234人)の議員が賛成票を投じた結果、朴大統領は韓国憲政史上二人目となる弾劾大統領との汚名を着せられることになった。

しかし、国会を弾劾に動かしたのは、国民である。朴大統領による「崔順実国政介入事件」が表面化した当初は、政界は朴大統領の退陣を求めてなかった。野党も与党も朴大統領が中立内閣を受け入れるか、与野党が合意した新総理に権限を委譲し、一線から退けば、任期満了(2018年2月24日)までの在任を容認するというものであった。現に野党第1党の「共に民主党」も第2党の「国民の党」も当初は国民が主導した朴大統領退陣街頭デモには加わらなかった。

国民の抗議集会とデモは10月29日を起点に毎週土曜日に行われているが、野党が合流したのは2回目の11月5日からで、しかも糾弾集会には参加したものの退陣を求めるデモには加わらなかった。ところが、2万人からスタートした国民デモが20万、そして100万、190万人と膨れ上がったことで事態が急変し、野党は弾劾へと舵を切り、与党の非主流派が同調したことで弾劾が可決された。「国民の勝利」と称される所以である。

しかし、「国民が勝利した」からと言って、「ポスト朴政権」が必ずしも反政府派、野党勢力が希求する政権になるとの保証はない。想定外の展開となり、結局は元の木阿弥になったというのがこれまでの繰り返しである。

韓国の歴史を振り返れば、過去に「市民革命」は3度あった。一度目は李承晩初代大統領を倒した1960年4月の「学生革命」、二度目は独裁体制を敷く朴正煕大統領が釜山や馬で発生した大規模デモの最中に暗殺(1979年10月)された後に訪れた1980年5月の「ソウルの春」、そして三度目は100万人規模のデモで全斗煥軍事政権を退陣に追い込み、政権の平和的交代を約束させた1987年6月の「民主化闘争」である。

いずれも、大衆、民衆が決起し、時の大統領、政権に印籠を渡したものの、後に誕生したのはいずれも軍人、軍事政権であった。李承晩大統領の後は、朴正煕少将がクーデターを起こし、軍事政権を樹立。朴正煕大統領亡き後は、金大中、金泳三、金鍾泌氏ら3人の与野政治家による大統領選挙によって政権が誕生したのではなく、全斗煥少将率いる軍部が実験を握り、政権を掌握している。そして全斗煥退陣時は大統領選挙で野党は二人の金(金大中と金泳三)の一本化に失敗し、全斗煥大統領から後継者に指名された与党の盧泰愚候補に漁夫の利を与えてしまっている。盧泰愚候補は全斗煥大統領とは陸士同期で、クーデター仲間であった。

民主化が定着した今の韓国で軍が政治に介入する可能性は極めて低い。軍部によるクーデターは考えられない。金泳三文民政権が誕生した1993年2月以来、軍は政治への中立を義務付けられている。

(参考資料:韓国でクーデターは起きないか

従って、今直ぐに大統領選挙が実施されれば、世論調査を見る限り、野党大統領誕生の確率は高い。しかし、憲法裁判所の審判が長引き、政治混乱と空白が続けば、どう転ぶかわからない。野党候補が必ず勝てるとの保証はない。だからこそ野党は憲法裁判所の審判を早ければパク・ハンチョル憲法裁判所長が辞任する1月31日までか、遅くとも盧武鉉元大統領弾劾の時のように2か月間(2月9日まで)で下すよう求めているが、審理すべき大統領に掛けられた弾劾理由(容疑)が多いことから困難とみられる。あれもこれもと容疑を掛けたことが野党にとっては裏目となっている。

憲法裁判所の審判は最低でも7人の裁判官が必要だ。こうしたことから唯一の女性裁判官であるイ・ジョンミ裁判官が退任する3月13日までか、朴大統領が与党幹部に辞任を約束したとされる4月30までか、それとも結審のタイムリミットとなる6月6日までの三択が考えられるが、どちらにせよ大統領選挙は5月~8月までの間となる。これから半年もあれば、与党は体勢を立て直すことは可能で、来年1月中旬に帰国する潘基文国連総長を担ぐならば、勝算は十分にある。

朴大統領もまた、国会で弾劾されても、憲法裁判所がそれを認め、罷免しない限り、大統領の座に留まることができる。最長で来年6月まで居座ることができる。仮に、棄却となれば、復職し、任期満了(2018年2月)まで大統領の座にいられる。

(参考資料:朴槿恵大統領はなぜ、かくも強気なのか

無実を主張している朴大統領は強力な弁護団を編成して、法廷で徹底的に争う構えだ。憲法裁判所の審判が長期化すれば、その間に状況も変わることも考えられるからだ。

高齢者が中心の数千人規模だった大統領支持派のデモも先週(12月10日)は主催者発表で過去最高の30万人(警察発表5万人)に膨れ上がっていた。気温が零下でこれだけ集まったということは「コンクリート基盤」とされる保守勢力が依然として根強いことを示している。

隠れ「朴支持派」が息を吹き返し、保守バネが作動し、仮に4%台に急落した支持率が徐々に回復すれば、朴大統領を取り巻く今の環境も状況も変わってくる。大統領不在による政治空白と混乱の長期化は大統領の即時退任だけでなく、同時に大統領の復権を求める声とで交錯することになるだろう。世論を意識せざるを得ない憲法裁判所にも影響を及ぼし、国会の弾劾決議が棄却される可能性もゼロではない。

特に、北朝鮮によるミサイル発射や核実験などで安保不安が高まれば、来年1月20日に就任するトランプ大統領の対応次第で朝鮮半島有事が迫るようなことになれば、最高司令官である大統領の職務停止が問題となり、国会弾劾決議の取り下げという事態も想定されなくもない。

「転んでもただは起きぬ」朴大統領には強かな計算があるようだ。

(参考資料:盧武鉉大統領はなぜ弾劾され、そして復職できたのか?

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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