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ゴングが鳴った「トランプvs金正恩」の危険な「ガチンコ対決」

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
トランプ次期大統領と金正恩委員長

予想されたように正月早々からトランプ次期大統領と金正恩委員長との「ガチンコ対決」となった。

事の発端は、金正恩委員長が元旦の新年辞でトランプ次期大統領に「我々の門前で戦争演習騒動を止めないならば、核武力を中枢とした自衛的国防力と先制攻撃能力を引き続き強化する」と警告したうえで「大陸間弾道ロケット(ミサイル)試験発射準備が最終段階に達した」と威嚇したことによる。

(参考資料:北朝鮮はICBM(大陸間弾道ミサイル)を発射するか

金委員長の「挑戦」にトランプ次期大統領は自身のツイートで「そのようなことは起きないだろう!」と軽くいなしたが、北朝鮮問題ではここしばらく音なしの構えだったトランプ次期大統領が「金正恩発言」に敏感に反応したことで、二人の「対決」のゴングが鳴ったと言っても過言ではない。

問題は、「そのようなことは起きない」とのトランプ次期大統領の発言の意味だ。

一つは、北朝鮮はICBM(大陸間弾道ミサイル)を発射する能力をまだ有していないので発射は無理との解釈だ。

米国務省のジョン・カービンスポークスマンは昨日「北朝鮮は核と弾道ミサイル技術を同時に追求しているが、まだ核弾頭を弾道ミサイルに搭載する段階には達してない」とのコメントを出していた。

ロイター通信(1月1日)によれば、トランプ次期大統領が大統領当選後、真っ先に情報当局にブリーフィングを求めたのは北朝鮮の核ミサイルの機密に関するものだったことを明らかにしていた。従って、北朝鮮の技術能力、レベルからして米本土に到達するICBMの発射は非現実的と判断したうえで「そのようなことは起きない」との感想を述べた可能性だ。

次に、「そうはさせない」との北朝鮮への警告の表れとの解釈だ。

発射させない手段の一つとして、中国に圧力を掛け、制止させることを検討しているようでもある。

トランプ次期大統領は40分後に掲載したツイートで「中国は完全に一方的な米国との貿易で莫大な金や富を奪っている。それなのに、(中国は)北朝鮮に関しては(米国を)助けない。素晴らしい!」と、中国を皮肉っていた。

トランプ次期大統領は「中国は北朝鮮の核問題も全く助けてくれないのに、なぜ(米国では)『一つの中国』の原則にとらわれなければならないのか」と発言していた。これは、今後中国が北朝鮮の核やミサイル開発を阻止しなければ、中国が警戒している北朝鮮と関係のある中国企業を標的にした「セカンダリー・ボイコット」の適応だけでなく、中国が嫌がっている台湾へのコミットメントを強めることを示唆したことに等しい。

中国が影響力を行使しない、あるいは中国が規制しても北朝鮮が従わず、核開発やミサイル発射を止めない場合は、次の手段として軍事力行使による阻止を念頭に入れた発言と解釈することもできる。

トランプ次期大統領は大統領選挙期間中に「今日の世の中で核兵器が最も大きな脅威」としながら「この人物(金正恩氏)が突き進むのを放っておいてはならない」と、こぶしを振り上げ支持者に訴えていた。M・ペンス次期副大統領も副大統領候補TV討論で「トランプ候補が大統領になれば、北朝鮮に米国のパワーを侮るようなことさせない」として「我々は力による平和の時代に戻る」と、共和党政権になれば軍事力を通じた対北圧力措置を取ることを示唆していた。

(参考資料:トランプ次期大統領の「北朝鮮(金正恩)関連発言」

トランプ次期大統領は17年前に出版した著書「我々にふさわしい米国」で「北朝鮮の核能力は米国に直接的な脅威」とし「経験がある交渉家として見る場合、北朝鮮が核・ミサイルをシカゴとロサンゼルス、ニューヨークに落とす能力を備えることになれば、その時はこの狂った人たちとの交渉は効果がないだろう」と書いていた。

トランプ政権のホワイトハウス顧問内定者であるケリーアン・コンウェイは昨日、CNNとのインタビューで、トランプの発言について「北朝鮮を制止しようとする意志を表わしたもの」と説明したうえで「トランプは北朝鮮のミサイルがシアトルに飛んで来るのを黙ってみてないだろう」と語り、安全保障関係者と協議し、何らかの措置を取ると語っていた。

最後に「トランプ発言」は北朝鮮と交渉して「止める」という意味にも解釈できるが、現時点での北朝鮮との対話は金委員長の脅しに屈したとの印象を与えかねない。また、そうしたリスクを犯して、仮に交渉したとしても、米朝双方の溝が深いだけに決裂の可能性の方が高い。そうなれば、「私は核戦争(thermonuclear war)を望まないが、交渉が失敗する場合、北朝鮮が実質的な脅威を与える前に、我々が先に無法者を狙って精密打撃するべきだと考える」と述べていることから先制攻撃というオプションが現実味を帯びるかもしれない。

どうやら危険なチキンレースが始まったようだ。

(参考資料:「米太平洋司令部が麻痺!?」 ペンタゴンを震撼させた北朝鮮のサイバー戦能力

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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