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米国は北朝鮮のICBMを撃墜できるか

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
移動式発射台上の北朝鮮の長距離弾道ミサイル

北朝鮮外務省報道官は昨日(8日)、金正恩委員長が新年辞で「最終段階に達した」と言及した大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射について「最高首脳部が決定する、任意の時刻と場所で発射される」と述べ、発射はいつでも可能と主張した。

(参考資料:北朝鮮はICBM(大陸間弾道ミサイル)を発射するか

その数日前には北朝鮮国連代表部がグテーレス国連事務総長にICBMの発射実験は「合法」だと主張する書簡を送っていた。北朝鮮は書簡で「水爆実験や核弾頭の爆発実験、ICBMなどの発射実験は、自己防衛措置として国連憲章に規定される、合法的な権利の行使である」と強弁していた。

一連の北朝鮮のICBM発射の動きについて昨日(8日)カータ―米国防長官はNBC放送とのインタビューで「もしそれが我々を脅かすものであれば、また我々の同盟や友人を脅かすならば撃墜する」と北朝鮮に警告を発していた。

カータ―長官は「北朝鮮の核兵器と弾道ミサイルは我々にとって深刻な脅威となっている」との認識を示したうえで「我々は自ら防御できるよう防御システムの数や形態を改善してきた。韓国、日本、グアムのミサイル防衛システムも改善され、韓国には米軍2万8500人が駐屯している。彼らのスローガンは『今夜、戦おう(今夜戦闘になっても勝てる態勢』で、我々は朝鮮半島、そして我々の友人と利益を守る準備ができている)と発言し、強気な姿勢を示していた。

北朝鮮のミサイルの脅威に関する米国内の議論はこれまで発射前にミサイル基地を叩く先制攻撃論が主だったが、「撃墜」に関する言及は最近では珍しい。古くは、7年前の2009年にゲーツ国防長官(当時)が衛星と称された長距離弾道ミサイル「テポドン」の発射に「迎撃も辞さない」と威嚇したことがあった。実際に当時米国務省がロシアにその可能性を事前通告していた。

また、2013年4月9日にサミュエル・ロックリア米太平洋軍司令官(当時)が上院軍事委聴聞会に出席して北朝鮮が弾道ミサイルを撃てば迎撃する能力があるが、特にその迎撃決定については「ミサイルの方向と到達地点に基づいて下される」と説明していた。米本土などの領土に直接落ちるものでなければ、太平洋上公海に落下するものであれば迎撃を試みないとの意味にも受け止められたが、2日後の4月11日、ドニロン大統領補佐官(当時)は「米国を攻撃目標にできるような核ミサイル開発を傍観しない」と発言していた。

ICBMと称される射程距離1万キロメートル以上の北朝鮮が保有する「KN-08」及び改良型の「KN-14」の標的は米本土であって、韓国、日本攻撃用のミサイルではない。従って、米国は着弾地点に関係なく日本列島を飛び越え太平洋(米国)に向かって飛んで来るならば迎撃する可能性は極めて高い。

カータ―長官が言うように昨年末に韓国に赴任したブルックス駐韓米軍司令官は「我々はあらゆる 準備態勢を整えていく中で戦争という最悪の状況は避けたいが、戦争をするしかないという、そういう瞬間には戦争を準備すべきだろう」と語っていたが、トランプ大統領から「レッツゴー」との命令が下れば、米軍はいつでもやれる状態にあるようだ。

(参考資料:「米太平洋司令部が麻痺!?」 ペンタゴンを震撼させた北朝鮮のサイバー戦能力

全長約18m、重量約60トン、弾頭重量約700kgの三段式の北朝鮮のICBMが発射されれば、高度30~40kmの上昇段階では航空機に搭載したレーザー(ABL)で、大気圏に突入する高度中間段階ではイージス艦のSM―3で、大気圏から放物線を描き地上に落下してくる最終段階は高度防御体系(THAAD)とイージス艦のSM―2、地上のパトリオット(PAC3)で迎撃する構えだ。

「KN-08」であれ改良型の「KN-14」であれ北朝鮮のICBMはグアムを標的にした中距離弾道ミサイル「ムスダン」同様に固定の発射台からではなく、16輪の中国製特殊車両(WS51200)を改造した自走式発射台から発射されるので、発射直前まで探知が難しいと言われている。

仮に命中して、迎撃すれば、北朝鮮の反撃次第では、誰もが望まない戦争を引き起こすことになり、全面戦争を覚悟しなければならない。その一方で、仮に迎撃に失敗すれば、無用物ということになり、莫大な費用を投じ、築いてきた米国のミサイル防御(MD)が総崩れとなり、赤っ恥を掻く羽目になる。さりとて、手をこまねいて北朝鮮にICBMの発射を許せば、米国の「警告」を金正恩政権がハッタリと「誤算」し、今度は核実験に踏み切るかもしれない。

金正恩政権にとってもICBMを発射すれば、一層の外交的孤立と経済制裁に直面し,公約の人民生活向上はさらに遠のくことになる。米国の対応次第ではICBMの発射が引き金となり、勝ち目のない軍事衝突、全面戦争という事態を招きかねない。金正恩委員長もまた、よほどの覚悟がなければ、そう簡単に発射ボタンは押せないだろう。

どちらにせよ、北朝鮮がICBMの発射ボタンを押せば、朝鮮半島の軍事的緊張は極限に達するだろう。

(参考資料:ゴングが鳴った「トランプvs金正恩」の危険な「ガチンコ対決」

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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