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サムソンのトップは逮捕されない! その3つの理由

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
検察に出頭した李在鎔サムスン電子副会長(中央)

朴槿恵大統領の収賄容疑を捜査している韓国特別検察官の捜査チームは昨日(16日)韓国最大企業であるサムスングループの李在鎔(イ・ジェヨン)サムスン電子副会長の逮捕状を裁判所に請求した。

李副会長には贈賄と特定経済犯罪加重処罰法上の横領、国会での偽証の容疑が掛けられている。検察からの逮捕状請求に対して裁判所は被疑者である李在鎔副会長への尋問を行った上で令状発布の可否を審査、決定する。一両日中にも判断が下されるものとみられる。

世界企業ランキングで18位の世界的ブランド企業であるサムソンの実質的トップの逮捕だけに裁判所がどのような判断を下すのか、韓国のみならず国際的な関心事となっているが、逮捕されず、在宅起訴になる可能性が大だ。

その理由は3つある。一つは、逮捕の根拠が乏しいことだ。

李副会長は検察の出頭要請に応じ、22時間にわたって尋問を受け、いずれの容疑も否認している。崔順実親子への資金供与の事実は認めたものの「朴大統領から脅迫されたので支援せざるを得なかった」としてむしろ被害者であると主張している。容疑を認めてないこともあってそう簡単には逮捕できない。李副会長にはすでに出国禁止措置が取られており、逃亡の恐れもない。身柄を拘束しなくても、在宅起訴で十分対応できる。

次に、韓国ではほぼ10年前から身柄を拘束せずに裁判が行われる慣習が定着していることにある。

逮捕状請求が却下されることがほとんどない日本とは異なり、韓国では裁判所が検察の請求を棄却するケースは決して珍しくない。昨年9月に横領と背任容疑でソウル中央地検から逮捕状が出されていた辛東彬(日本名:重光昭夫)ロッテグループ会長も逮捕を免れている。ちなみに李副会長の「贈賄額」は430億ウォン(約41億3千万円)とされているが、辛会長の背任と横領の規模は1750億ウォンと4倍以上もあった。それでも逮捕請求権が「逮捕する理由と必要性を認定するのが困難」として棄却されている。

(参考資料:ロッテの重光昭夫会長は逮捕されるか

第三に、財閥トップの逮捕がサムソンのみならず韓国経済全般に悪影響を与えることだ。

サムソンは社員19万人を擁し、世界各地に65の生産法人と130の販売法人を展開し、売上高が300兆ウォンで、韓国のGDPでは22%、輸出額では全体の24%を占め、資産が韓国国富の3分の1に迫る大企業である。

特にサムソン電子は世界企業のブランド価値評価ランキング「ベスト・グローバル・ブランド2016」では7位を記録し、トップ10に入っている。その実質的トップが逮捕となると、ブランドに傷がつき、対外信用度を失墜させ、その結果、輸出や投資に悪影響を及ぼし、経営危機を引き起こしかねない。そうでなくても、サムスン電子は昨年、最新スマートフォンの一部電池の欠陥による出火事故を起こし、米国などでリコール対象となり大打撃を被っていた。

韓国経済は韓国最大手で世界第9位の海運会社である韓進海運が6兆6千億ウォンの負債を抱え、経営破綻するなど低迷状態から抜け出せず喘いでいる。これ以上の「財閥バッシング」は投資や雇用など国家経済全般に影響を及ぼす恐れがある。韓国経済界が李副会長の逮捕にこぞって反対している理由もこれに尽きる。

サムソンのトップを逮捕すれば、韓国経済全体に悪影響を及ぼすと判断すれば、朴大統領への名誉棄損で起訴した産経新聞のソウル特派員を「政治判断」から無罪にした時の様に裁判所が「国益」を優先させ、在宅起訴処分にする可能性が高い。

(参考資料:朴槿恵大統領VS特別検察官 大統領の犯罪を立証できるか

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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