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北朝鮮の「ゲシュタボ」のトップが電撃解任!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
電撃解任された金元弘国家安全保衛相

韓国紙「セゲイルボ」が本日(2月3日)付で金正恩体制を支える支柱の一つである国家安全保衛省のトップに君臨する金元弘保衛相が労働党組織指導部の検閲を受け、「電撃解任された」と報じたことについて韓国統一部は金保衛相の解任を公式確認するとともに「保衛省の次官級(副部長級)幹部が多数処刑された」と発表した。

処刑された次官級の中に拉致担当の徐大河(ソ・デハ)次官(副部長)や金明哲(キム・ミョンチョル)国家安全保衛部参事が含まれているかどうかは定かではない。

統一部によると、金保衛相は「先月(1月)中旬、党組織指導部の調査を受け、解任され、軍の階級も大将から少将に3階級降格された」とのことである。

解任理由については保衛省が行った人権蹂躙と越権行為、さらには不正腐敗などが挙げられているようだが、金正恩委員長が核心的側近でもあり、恐怖政治を支えてきた金保衛相を解任したことで幹部らの間に動揺が走っていると統一部ではみている。

国家安全保衛省の前身は国家安全保衛部で、「国家安全保衛省」に名称が変更していたことは昨年12月18日に朝鮮中央テレビで女性アナウンサーが金正日銅像にまつわるエピソードを紹介した際に「国家保衛省に祀られた将軍様の銅像」と伝えていたことで明らかとなった。人民武力部も人民武力相に名称変更していたことから昨年6月に開かれた最高人民会議で国防委員会が国務委員会に改編されたことに伴い国防委員会傘下の人民武力部や国家安全保衛部もそれぞれ名称を変更したものとみられている。

党組織指導部による国家安全保衛省への検閲説は昨年末から流れていたが、金保衛相が粛清され、電撃更迭されたと報じられたのは今回が初めてだ。

それにしても「粛清者」が粛清されたとは青天の霹靂だ。それも、ありえそうにないことが実際に起きたから衝撃的だ。

金正恩政権は2014年にタイで軍事クーデターが発生し、陸軍司令官が権力を掌握した出来事や今年、昨年トルコで未遂に終わった軍の一部勢力によるクーデターの企てなどを反面教師にして、蟻一匹入る余地のない体制を築くうえで軍保衛司令部(保衛総局)と護衛司令部(護衛総局)、それに情報機関の国家安全保衛部を最重要視し、そのトップには絶大な信頼を寄せてきた。その証左として、この三つのポストの長は金正恩体制下では不動のままだった。

(参考資料:金正恩委員長が解任、更迭しない3人の将軍とは誰?

過去5年間の軍トップ3の人事をみると、軍No.1の総政治局長は崔龍海(2012年4月就任)から黄秉西(2014年4月)と、交代は一度だけだが、No.2の人民武力相は金正角(2012年4月)→金格植(2012年11月)→張正男(2013年5月)→玄永哲(2014年6月)→朴英植(2015年5月)に入れ替わっている。

また、No.3の軍総参謀長のポストも李英鎬(2009年2月)→玄永哲(2012年7月)→金格植(2013年5月)→李永吉(2013年8月)→李明秀(2016年2月)とこれまた5人目だ。第一副総参謀長(作戦総局長も兼ねる)に至っては李永吉→辺仁善→金春三→呂光鉄→林光一→李永吉と6人目である。

空軍司令官や海軍司令官、さらには前線の軍団長クラスも総入れ替えしている。国内治安を預かる日本の警察にあたる人民保安省のトップも李明秀(2011年3月)→崔富一(2013年4月)に交代しているが、唯一動かしてないポストが保衛司令官(趙慶チョル大将)と護衛司令官(尹正麟大将)、それに国家安全保衛省(金元弘大将)の三つのポストのトップであった。

保衛司令官の趙大将は2010年4月に、護衛司令官の尹大将も2010年9月に、そして国家安全保衛相の金元弘大将は2012年4月に就任して以来、3人とも更迭されることなく今の座にあった。

(参考資料:暗殺・クーデターを防ぐ金正恩委員長の「守護神」保衛司令部の実態

中でも、ドイツのゲシュタボ(秘密国家警察)にあたる国家安全保衛部は反体制の動きを監視、摘発する秘密組織である。国内だけでなく海外の情報も収集し、国境の警備や政治犯収容所の管理も担当している。法的手続きもなく、容疑者を拘束し、裁判にも掛けずに処罰できる恐るべき組織である。李英鎬軍総参謀長も、金委員長の叔父の張成沢党行政部長(国防委員会副委員長)も玄永哲人民武力省を「反逆罪」で逮捕、処刑したのもこの組織である。

金元弘保衛相は2003年に保衛司令官として金正日体制を支え、2010年に一時的に軍総政治局副局長に転出したが、金正恩体制下の2012年に国家安全保衛部部長に任命された。金正日総書記の葬儀では57位にランクされていたが、現在の序列は18位である。

金保衛相は2012年に政治局員、国防委員にも選出されているが、金正恩委員長が後継者に内定した2009年に軍総政治局副局長として金委員長の軍掌握をバックアップした功績による。実際に金委員長がお披露目された2010年9月の第3回党代表者会では金委員長の隣に座っていた。

この3人のうち一人でも更迭となれば、軍参謀長や人民武力相らの更迭よりも金正恩体制に与える影響は大きいだけに金委員長は今後さらに身辺警護を徹底させることになるだろう。

なお、後任の国家安全保衛相に誰が起用されたのかは不明。

(参考資料:朝鮮人民軍No.3の作戦局長も処刑されていた!

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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