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日韓対立は「慰安婦」から「竹島」に飛び火へ

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
「竹島の日」の韓国での抗議デモ(写真:ロイター/アフロ)

「釜山領事館前の慰安婦像の設置は日韓合意に反する」と怒って、日本政府が長嶺安政駐韓日本大使と森本康敬総領事を帰国させてから明後日(9日)でちょうど一か月となる。

(参考資料:「戻りたくても、戻れない」 駐韓日本大使の帰任

日本政府とすれば、韓国側が誠意を示さない限り、帰任させる考えはないようだ。「半年でも、1年経っても構わない」と強気だ。韓国の不条理をこれ以上放置しないとの強い決意の表れでもあるし、また安倍政権の今回の対応を国民の7割以上が支持していることも強気にさせている要因のようだ。

一方の韓国はどうか。日本と合意を交わした当事者の外務省は困惑しているが、韓国全体の雰囲気としてはこれまた国民の7割が慰安婦像の撤去に反対していることもあって一歩も引く気配はない。出馬が噂される大統領候補は与野問わず、誰もが2015年12月28日に交わされた日韓合意の見直しを唱えていることからも窺い知れる。

(参考資料:韓国大統領候補全員が日韓合意見直し、少女像撤去には反対

日本にとっては名分のない帰任はあり得ないし、韓国は韓国で帰任を懇願するわけにもいかない。双方にとって世論や国民感情を無視した譲歩はあり得ない。双方とも面子もあってそう簡単には妥協もできない。

一部には「いずれ時間が解決する」とか「ホトボリが冷めれば」との楽観論もあるようだが、展望は開けそうにない。落としどころもない。それというのも、日韓のガンが「慰安婦」から領土問題の「竹島(独島)」に転移してしまったからだ。「慰安婦問題」が解決したからといって手打ちというわけにはいかないのが実情だ。

対立はむしろさらにヒートアップするだろう。今月22日は日本にとっては「竹島の日」であるからだ。この日に「竹島」が帰属する島根県では竹島が日本の領土であることを確認し、島を奪還するための県主催行事が行われる。

毎年行われる恒例の行事であるが、韓国は今年、この日に合わせて「独島」が帰属する慶尚北道主催の「竹島の日糾弾集会」が開催されるようだ。それも、朴槿恵大統領弾劾蝋燭デモのメイン会場であるソウルの光化門広場で開かれる。金寛容知事は先月25日に竹島に上陸し、「独島を守ることはわれわれの自尊を守ること」と気勢を上げたばかりだ。

地元ではなく、首都でやる理由は「糾弾集会」への国民の支持を取り付けることにある。また、糾弾集会を前後して17日には「島根県独島研究批判学術大会」が、23日には「鬱陵島・独島水中写真撮影大会」が開催される。さらに「竹島の日」を前に今日(7日)から日本大使館前で一人デモが始まる。

この「一人デモ」の主催者は慰安婦像の独島設置を呼び掛けている京畿道の議員から成る「独島を愛し、国土を愛する会」で21日にまでの2週間、リレー式で行うことにしている。同会は日本大使館前に慰安婦像が設置(2011年)された6周年にあたる今年12月14日に竹島に慰安婦像を建てるための募金運動を展開していることで知られている。

「慰安婦問題」とは異なり、領土問題での韓国側の反発は「反日運動化」する。

島根県議会が2005年に2月22日を「竹島の日」に制定した際には文部科学省が検定した歴史教科書に「韓国が不法占拠している竹島」との表記が登場したこともあって暴動に近い「反日運動」が起きた。当時の盧武鉉大統領は「もうこれ以上、見過ごすことはできない。外交的に断固対処する」として、首脳会談を含め日韓シャトル外交を中止してしまった。今の安倍政権の対応と逆パターンだ。

また、2008年7月には慶尚北道による島根県との教員交流の中断、慶尚南道による岡山県との友好協定の延期、義政府市による新発田市とのスポーツ交流の中止、清州市による鳥取市との交流事業の全面停止など地方自体との文化、スポーツ、人的交流を一方的に全面中断させた。この時は、かわいそうにも新潟市サッカー協会と韓国・蔚山市サッカー協会による小学生の親善交流事業までもが巻き添えにあい、中止を余儀なくされた。

韓国にとっては抗議の一つの意思表示かもしれないが、文化・スポーツ交流が中断されたからといって日本にとっては大きな痛手ではなかった。「仕方がない。ほとぼりが冷めるまで待とう」という程度のものだった。このようなやり方は、韓国にとっても得るものは何一つないどころか、百害あって一利なしだった。

韓国も遅れること5年後の2010年に10月25日を「独島の日」に定めるなど対抗措置を取ったが、日韓双方とも領土問題では冷静に対応しなければならないというわけにはいかないようだ。

安倍政権が慰安婦像設置の対抗措置として領土問題で国際司法裁判所(ICJ)に単独提訴に踏み切るというカードも、提訴の正当性をアピールするため竹島周辺海域に海洋調査船や漁船による「行動」を並行させる手もあるようだが、「実力行使」ができるのだろうか?

当面、「竹島の日」にどう対応するのだろうか?政府主催に格上げするのか、それとも県主催の集会にこれまでの政務官ではなく、初めて閣僚を出席させるのか、安倍総理の今回の怒りの本気度を占うには格好の機会となりそうだ。

(参考資料:仏像も、窃盗団も直ぐに日本に引き渡すべきだった!

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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