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解任された国家安全保衛相と処刑された人民武力相が「金正恩記録映画」に登場!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
記録映画に登場した金元弘保衛相(左から二人目)と玄永哲前人民武力相

労働党幹部序列では18位にあるが、金正恩政権下で国家秘密警察を率いていた実力者の一人である金元弘(キム・ウォンホン)国家安全保衛相の電撃解任を韓国の統一部が2月3日に正式に確認、発表したが、一昨日(6日)夜に放送された金正恩委員長の活動を伝える記録映画に登場していたことがわかった。また、金委員長の演説中に居眠りしたことで2年前に「処刑された」とされる玄永哲(ヒョン・ヨンチョル)前人民武力相もこの記録映画に数回にわたって登場していたことも判明した。

(参考資料:北朝鮮の「ゲシュタボ」のトップが電撃解任!

通常、北朝鮮では「反革命」など重罪で粛清された幹部や高官らがその後、テレビにその姿が映り出されることはない。編集、カットされるのが常だ。新聞にも二度とその名が載ることはない。存在そのものが抹消される。「反党宗派行為」「反国家転覆」の罪で2013年12月に処刑された張成沢(チャン・ソンテク)党行政部長兼国防副委員長がその典型的な例だ。

ところが、朝鮮中央テレビが6日夜に放送した金委員長の軍関連視察を伝える記録映画「白頭山訓練熱風で無敵強軍をつくる」に金元弘国家安全保衛相が一度、玄永哲前人民相はなんと数回にわたって登場していた。

金保衛相は金委員長が主催した軍幹部の会議でメモを取っている場面が、また玄前武力相は金委員長が軍幹部らに拳銃の入った箱を贈呈する際に隣で補佐していた。玄前武力相についてはこれ以外にも金委員長の空軍訓練視察に随行した際の場面などが映り出されていた。この記録映画は新作ではなく、2014年5月31日に放映されたものの再放送である。

玄前人民武力相はこの映画の約1年後の2015年4月30日に韓国で「処刑された」と大々的に伝えられた。当時、「処刑説」を流したのは韓国の情報機関である国家情報院(国情院)で、韓国メディアは競って「処刑」を詳細に伝え、中には「高射砲で殺され、ミンチにされた」と伝えたメディアさえあった。

(参考資料:韓国の情報機関は北朝鮮内部情報をどうやって入手しているのか

処刑場は姜建軍官学校で、「最高尊厳(金正恩委員長)を冒涜した反党反革命分子」との烙印を押され、「黄炳誓(ファン・ビョンソ)軍総政治局長、李永吉(イ・ヨンギル)軍総参謀長ら60人の幹部らと人民武力相と総参謀部傘下将校ら120人が見守る中、即刻処刑された」と内容は実に具体的だった。しかし、罪状は「反党、反革命罪」とのことだったが、どのような反党、反革命行為を行ったのかは明らかにされてなかった。

金委員長の演説中に居眠りをしたことが不敬罪とされたのか、それとも金委員長の命令、指示に従わなかったのか、あるいは訪露した際にロシアから軍事支援の取り付けに失敗し、ロシアの言いなりになって帰国したのが問題にされたのか、さっぱりわからなかった。

昨年7月に韓国に亡命した太永浩(テ・ヨンホ)前駐英公使は昨年12月、韓国の国会情報委員長および与野党幹事らとの非公開懇談会の席で「盗聴されていたのに気づかず話して処刑された」と証言していたが、話の中身までは承知してなかった。

ところが、処刑説が流れた直後に北朝鮮のテレビに連日、玄氏が登場する映像が流れたことから国家情報院は「処刑されたとは断定できない」とその後、修正したものの「玄永哲処刑」は今では定説となっている。実際に人民武力相のポストを解任されただけでなく、その後、いかなるポストにも就いてないこと、公の場から完全に姿を消したことによる。

ちなみに2015年7月に韓国への亡命が騒がれた軍副総参謀長の朴勝元(パク・スンウォン)上将も昨年5月に36年ぶりに開催された第7回党大会で党中央委員から外されていた。亡命騒動の直後、北朝鮮は「今も馬息嶺スキー場建設で指揮を取っている」と脱北を否定していたが、中央委員に選出されなかったところをみると、身辺に何らかの異変があったことは間違いない。

(参考資料:第7回労働党大会の人事を解剖する

それにしても、「反逆罪」で処刑された人物が金正恩記録映画から即刻抹消されず、今なお映像に金委員長とツーショットの姿の場面が公開されているのは何とも不思議で、奇妙だ。

昨年2月に「国情院」によって「処刑説」が流されていた李永吉軍総参謀長が3か月後に出てきて、党大会で政治局員候補に選出され、現在は軍第一副参謀総長の要職に付いているケースがあるだけに春日八郎の「お富さん」の歌詞、「死んだはずだよ お富さん、生きていたとは お釈迦様でも~」ではないが、もしかすると、もしかするかもしれない。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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