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自治体は革新性を求めるあまりに「JK」という実はハイリスクな表層的記号に安易に飛びつくべきではない。

西田亮介社会学者/日本大学危機管理学部教授、東京工業大学特任教授

ある自治体に、「課員全員が女子高生(JK)」の課ができるというニュースがネット上を賑わしている。

課員は全員女子高生「JK課」- 朝日新聞デジタル

http://t.asahi.com/e0p2

好奇心いっぱいで、リンクをクリックした人も少なくないのではないか。多くの自治体は財政難にもかかわらず、住民サービスの拡充や他自治体との差別化競争に晒されている。おそらく当該自治体も、こうした圧力のなかで、悪手を選んでしまったのだろう。

ネットのなかには、コストをかけずにマイナーな自治体が注目を集めるための新しい取組として肯定的な意見もある。

女子高生が市役所課員・【鯖江市JK課】は、行政に「ゆらぎ」を引き起こす社会実験だ!

http://huff.to/1gX5tQb

しかし、これはどう考えても筋が悪い。自治体はネガティブイメージを一気に、広く流布する、炎上商法をしてもしょうがない。

確かに一瞬ネットでも関心が高まるだろうが、出来のわるいウェブサービスと同じで、すぐに消費されてしまう。

また下手をすると一気に強い批判の対象になりかねないリスクを抱えている。そもそも女子高生を「JK」などと呼ぶような提案自体が、90年代の回顧的で全く新しくない。

そもそも住民としてもあまり住み心地が良くないし、外部の人間にとっても、せいぜい一瞬の好奇心の対象にしかならないだろう。

たとえば、Yahoo!リアルタイム検索の検索結果を見てみてほしい。

見ればすぐにわかるが、侮蔑と、半ば嘲笑的な書き込みが大半だ。本当にこれで良いのだろうか。

そもそも、ちょっとまともに考えてみれば、若者のアイディアを取り入れるなら、組織に組み込む必要などなく、たとえば実行委員会形式でもよいはずだ。また女子高生に限らず、高校生は受験を考慮すると、2年程度しかコミットできないはずで、大学生と比較しても人材の持続可能性に乏しい。

またこうした提案は、外部からの提案によってなされることは少なくない。広告や宣伝業界では、ある意味では「事件」を起こしたものが「勝ち」。その事実が、業界内でアイコンとして持て囃される。その意味では、コストをかけずに、ポジティブであれ、ネガティブであれ、注目を集めて、お得なのは、自治体ではなく、この提案を行った外部の人物だけである。この提案を行った人物が、過去にきちんと顕著なアウトカムを創出しているかどうか、あるいは提案が具体的な工程表にもとづいているかを精査すべきだ。

この提案は、どうやら提案型事業で、上がってきた提案を検討だったようだ。住民参加の新手法をどうマネジメントしていくかが問われる案件ともいえる。これに懲りず、萎縮せずに頑張って欲しいが、今回の取組は悪手以外の何ものでもないだろう。

福井県には、「福井県ブランド営業課」という、成果を挙げているガバナンスの革新的な取組があったりする。確かに、自治体が置かれた状況は苦しい。かといって、明らかに筋の悪い提案に飛びついては元も子もないだろう。

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続編書きました(2014年2月22日)。

「JK課」が抱える問題(西田 亮介)- Y!ニュース

http://bylines.news.yahoo.co.jp/ryosukenishida/20140222-00032886/

社会学者/日本大学危機管理学部教授、東京工業大学特任教授

博士(政策・メディア)。専門は社会学。慶應義塾大学総合政策学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。同後期博士課程単位取得退学。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科助教(有期・研究奨励Ⅱ)、独立行政法人中小企業基盤整備機構経営支援情報センターリサーチャー、立命館大学大学院特別招聘准教授、東京工業大学准教授等を経て2024年日本大学に着任。『メディアと自民党』『情報武装する政治』『コロナ危機の社会学』『ネット選挙』『無業社会』(工藤啓氏と共著)など著書多数。省庁、地方自治体、業界団体等で広報関係の有識者会議等を構成。偽情報対策や放送政策も詳しい。10年以上各種コメンテーターを務める。

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