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印象(イメージ)と選挙――2014年の衆院選を終えて

西田亮介社会学者/日本大学危機管理学部教授、東京工業大学特任教授

2014年の衆院選が終わった。自民党291議席、公明35議席、民主73議席を獲得した。この数字は公示前と比較して、自民党は4議席減、公明4議席増、民主党は11議席増だが、有権者の印象はどうか。

数字だけみると、民主党は議席数を大きく伸ばしている。だが、実態に反して「民主党躍進」という印象(イメージ)を持つ人は少ないのではないか。

複合的な要因が考えられる。党首の落選、首相経験者の苦戦に加えて、そもそも解散が首相主導で突発的に行われた。解散の理由として、アベノミクスの是非を問うことを挙げることで、リーダーシップを印象づけた。

だが、今回の毎日新聞社との共同研究でも明らかになったように、実際の選挙戦では、与党候補者は地上戦でも、そしてネットでも「アベノミクス」という文言を直接用いることを避けていた。投開票日翌日の新聞各紙の1面も、与党の動向を中心に報じた。

有権者は、どのように感じていたのだろうか。今回、世論調査、えらぼーと、Twitter分析を横断して、有権者の政治に対する印象を問う設問を設けた。有権者は解散前の政治に「イライラ」を感じるという回答がもっとも多かった。ところが、いら立ち・悲観層、無感情層含め、安倍内閣を支持するという回答がもっとも多い(約3割)という結果を示した。野党は有権者のこのような感情の受け皿になるとは見なされていなかったのである。

選挙と政治において、印象とそのマネジメントが重要な要素になろうとしている。2000年代前半から、選挙に「パブリック・アフェアーズ」という有権者の共感を獲得する手法が取り入れられてきた。政治による動員の手法は高度化している。

ネットの普及や政治の共感獲得技術の高度化に伴って、有権者の印象は、政策と並んで、場合によっては、それ以上に、選挙や政治に影響を与える存在になろうとしている。政策とともに、イメージ政治を読み解き、実態をデータとともに提示し、有権者の政治理解を支援する作業が重要になろうとしている。

極端な議論が支持を集めることも多いネットと、2013年のネット選挙運動の解禁も、イメージ政治を後押しする。今回の衆院選は、はじめてネット選挙が解禁された衆院選だった。だが、Twitterでは与野党の候補者が、従来同様、街頭演説の場所などを告知するに留まっていて、ネットの双方向性を活かしてはいなかった。また各政党に対する取材からも、準備期間が乏しく、党としての取り組みを用意できなかったこと、地方では注力する余裕がなかったことなどが明らかになった。

投票率は52.66%。戦後最低の数字を記録した。残念ながらネット選挙解禁前に期待されたような投票率の向上や、有権者と「政治」の議論は顕著になっていない。拙著『ネット選挙 解禁がもたらす日本社会の変容』(東洋経済新報社)や『ネット選挙とデジタル・デモクラシー』(NHK出版)で指摘してきたように、日本のネット選挙は、双方向の議論を促すように設計されておらず、「理念なき解禁」であった。

もし有権者と政治の対話を促進したいのであれば、公選法の文書図画の細目を論じるだけでは不十分だ。そもそもネット選挙に限らず、日本の選挙制度は、そのような選挙のあり方を十分には考慮して設計されていない。公選法全体を再検討するのみならず、関係する放送法、政治資金規正法なども含めた議論が必要だ。

社会学者/日本大学危機管理学部教授、東京工業大学特任教授

博士(政策・メディア)。専門は社会学。慶應義塾大学総合政策学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。同後期博士課程単位取得退学。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科助教(有期・研究奨励Ⅱ)、独立行政法人中小企業基盤整備機構経営支援情報センターリサーチャー、立命館大学大学院特別招聘准教授、東京工業大学准教授等を経て2024年日本大学に着任。『メディアと自民党』『情報武装する政治』『コロナ危機の社会学』『ネット選挙』『無業社会』(工藤啓氏と共著)など著書多数。省庁、地方自治体、業界団体等で広報関係の有識者会議等を構成。偽情報対策や放送政策も詳しい。10年以上各種コメンテーターを務める。

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